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第132話 既読スルー


 気持ちを自覚した達也は、幾らか迷いながらも、凪と話をすることにした。

 凪の心は、すでに達也から離れているかも知れない。だが、そのことと、達也の今の気持ちを表明することは、別問題だろうと思ったからだ。


(……既読、付かん……)

 ブロックはされていないが、『話がしたいんだけどどこかで時間とれる?』と送ったメッセージには、既読は付かなかった。


 避けられているのは理解して居るので、傷付いた。胸が痛むのは仕方がない。それよりも、凪と会話がしたかった。


 メッセージに既読も付かず、スマートフォンを机において、通知が来ないことに少々苛立ちつつ、トントンと机を指で叩く。その苛立たしげな態度に、隣の席の朝比奈が「達也さん、なんか、イライラしてます?」と聞いてきたので「あっ、すまん」と慌てて謝った。


 仕事中に、苛立ちを表明するのは、子供のやることだ。


「ちょっとねー……、返信が来ないから」

「ありますよね。返信待ちって一番、ヤキモキします」

 朝比奈が苦笑する。


「まあ、気長に待つことにするよ」

 とは言いつつ、話は早いほうが良いと思ったので(あとで、直接言いに行くか)とだけ腹を決めた。


 池田は、帰宅した凪の後をつけた、と言っていた。ならば、その方法が使えるかも知れない……と思った時、なんとも、スマートフォンが『あったかい』ことに気が付いた。


「あれ……? なんか、スマホ、熱いな」

「達也さんのって、そんなに機種ふるくないのに、変ですね。前は、充電がなくなるの早いって言ってたし」


「そうなんだよな~、ギガもすぐ減るし……」

 と呟いた時、達也はあることを思いだした。凪が、達也のスマートフォンに、アプリをしこんだ、と言っていたような気がする。


「アプリ……」

「ああ、確かに、妙に重いアプリとかありますよね。見直してみたら良いかもしれないですよね」


 達也は、アプリの一覧を表示した。

 見慣れないアプリがある。起動はされているらしい。とりあえずタップしてみた。


「なんだこりゃ……」

 シンプルな画面だった。黒い画面に、ただ、文字だけが流れている。意味不明な数字のようだった。


「どうしたんですか?」

 顔面を覗き込んできた朝比奈は「これ……位置情報ですよ」と小さく呟く。


「位置情報?」

「ええ、東経何度、北緯何度って……それです。位置情報を共有してるみたいですね」


 たしかに、そういうアプリを、入れた……と凪は言っていた。

 画面に、数字ではなくメッセージが表示されている。



『connecting data-base...』


 データベースに接続しているということなのだろう。今の位置情報をどこかのデータベースに保存していると言うことなのだろうなとは思ったが、しばらく見ているとまた、メッセージが表示される。


『SuperUser_ToTa : accessing..』



(なんだろ……これ、スーパーユーザー……って……)


 よく解らなかったが、ふと、そのメッセージの意味に気が付いた。『ToTa』。これは遠田だ。達也はたち上がった。デスクで仕事をしている凪の所まで歩いて行き、


「ちょっと、話がしたい」

 とスマートフォンを見せる。凪の顔色が消えた。


「これ……」

「ちょっと、話がしたい。……藤高さん、すみません、ちょっと俺と凪で少し抜けます」

 凪の返答は聞かないで、達也は彼の手を引っ張って歩いて行く。


 話が出来るところに行きたい。そして、出来るなら、周りに人の目がない所が良いが、そんなところが都合良くあるわけもなかった。

 仕方がないので、いつもの公園へ向かった。


 ベンチに凪を座らせて、その横に達也も座った。


「……これ、前に言ってたアプリだと思うんだけど……」

 達也が切り出した瞬間、凪は顔を手で覆って、泣きだしてしまった。


「ごめんなさいっ、達也さんっ……っ!!」



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