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おっさん勇者 1

「こちらも自己紹介と行こうか」


 そう言ってアシノはムツヤをちらりと見る。


「はい、ムツヤ・バックカントリーです! よろしくおねがいします!」


「ははっ、元気が良いね」


 ムツヤがおじぎをして挨拶をするとイタヤは笑った。


「私はモモです。訳合ってムツヤ殿の従者をしております。こちらはムツヤ殿の妹のヨーリィです」


「はいはい、美人さん達よろしくぅー!!」


 イタヤは相変わらずのテンションの高さで言う。


「ぼ、僕はユモト・サンドパイルです……」


「ユモトちゃんね、よろしく!」


「あ、えーっと、僕は男です!!」


 ユモトが言うとイタヤパーティは「えぇ!?」っと驚く。


「マジか、マジかー!?」


 イタヤが驚いていると、妹のサワがユモトの服を見て話す。


「ユモトさんの服、ゴイチ一族のですよね? ってことはユモトさんも……」


「はい、この服は母の形見なんですけど、母はゴイチ一族だったらしいです」


「なるほど、なるほど」


 サワはユモトの周りを回って服を観察する。


「あ、あの、恥ずかしいので……」


「あぁ、ごめんなさい!!」


「サワは魔法に関係することに目がないんだ、悪いねー!!」


 笑いながらイタヤは言った。


「私はルー、天才召喚術師よ!!」


「おー、おー、天才か!! そりゃ良いね!!」


 イタヤはルーの大きな胸を見ながら喋っていた。それに気付いた魔剣士のウリハが冷ややかな目で見ている。


「えーってなわけで、今やった自己紹介は半分ぐらい嘘でーす!!!」


「いや、嘘なんかい!!」


 ルーが言うとイタヤはビシッとツッコミを決めた。


「まずはこちらをご覧下さい」


 そう言ってルーが適当な木に赤い玉をぶつけると、四方に散ってギルスを映し出す。


「どうもどうも、こんにちは。ギルスと申します」


「はぁー!?」


 イタヤパーティは揃って間抜けな声を上げた。それを見てルーがケラケラと笑う。


「えっ、何これ、どんな魔法?」


「兄さん、こ、こんな魔法見たことも聞いたことも無いんだけど!?」


「どうなってるんだこれ?」


 サツキ達に話した時のように、ムツヤ達はこれまでの経緯を話した。


 ムツヤが裏の世界出身であること、キエーウとの本当の戦い。


 今のアシノはビンのフタをスッポーンと飛ばすことしか出来ないこと。


「なるほど、とても信じられない話だが、この状況でアシノさんが冗談を言うはず無いしな……」


「信じて頂けて幸いですイタヤさん」


 頭をポリポリ書きながらイタヤが言うと、アシノは感謝を述べる。1時間と少しぐらい話をして、イタヤ達も信じたようだ。


「それで、試練の塔じゃなくて、私達にここで裏の道具を渡すと言うことですか?」


「大正解よサワちゃん! 100億点あげるわ!!」


 こんな突拍子もない話にも付いていけるのは流石勇者パーティと言った所だろうか。


「先程も言った通り、魔人の操る魔物の中には、裏の道具しか効かない魔物が居ます」


「なるほどなー」


 アシノが話すと、宙を見上げてイタヤは生返事をした。


「何か今までの人生観がひっくり返そうだよ」


 いつものように大きな笑いではなく、小さくはははとイタヤは笑っていた。


「それで、イタヤさん達にはそれぞれ合う武器を選んで頂きたいと思います」


「裏の道具か、使いこなせるかな」


「なーに不安になってんだ。勇者のくせに」


 ウリハが言うと、イタヤはふんっと胸を張り直した。


「そうだ、俺は勇者だ。どんと来い裏の道具!!」


「それで、イタヤさんはどんな武器が得意なんですか?」


 ギルスが聞くと、イタヤは返事をする。


「俺は剣だな、そんでもって光属性の魔法が得意だ!」


「光…… 剣…… あっ! そうだ!」


 ムツヤは何かを思い出して鞄の中を漁った。


「これなんてどうですか?」


 ムツヤが出したのは一振りの剣だった。だいぶ骨董品に見える。


 それを受け取った時イタヤは違和感を覚えた。だいぶ軽いなと。そういう剣なのかと思って引き抜いて、驚く。


「なんじゃこりゃ」


 それは、剣と言うよりも、長めのナイフぐらいの長さしか無かった。


「これ、魔力を込めるとちゃんと剣になるんですよ!」


「へー」


 試しにイタヤが魔力を込めると、鞘に丁度収まるぐらいの長さの光が、剣の形になる。


「あー、何だっけ…… そうだ、多分伝承通りなら『聖剣ロネーゼ』だ!」


「聖剣ロネーゼ? 聞いたことあるが、これがか?」


 イタヤが聞き返すとギルスは答えた。


「歴代の勇者や使い手によって使われ続けて、すり減ってそれぐらいの長さになったって伝説があります」


「なるほどな」


 そう言いイタヤは剣を鞘に収める。


「次はそちらのお嬢さん達だな」


「お嬢さんだってよ」


 イタヤが笑いながらウリハを見ると、また肘で一撃食らっていた。


「私は、色んな属性魔法を使う。だから出来れば一つの属性に特化していない剣があれば、ありがたいのですが」


「うーんそれならば……」


 ムツヤが次々と10本ほど剣を取り出した。ウリハは手に取り、剣を振り1本1本吟味する。


「これが一番しっくりくるかな」


「見たこと無い剣だね」


 ギルスも知らない剣だったが、上物であることは確かだ。


「切れ味も良さそうだし、魔力の伝導率もいい」


「次はサワの杖だな」


 杖もウリハが選んだ時のように何本か取り出して、その中から気に入ったものを選んでもらった。


 また名前も知らない杖だったが、年代物であることは分かる。


 防具はそれぞれ既に1級品を持っていたので、武器だけ裏の道具を装備することになった。


「さてと、武器も手に入れたし、出発するか!!」


「出発ってたってどこによ」


「あっ…… 知らない!!」


 イタヤとウリハのやり取りを見て皆笑っていた。場を和ませるには適任だろう。


「色々な街を巡って魔人の手がかりを探すしか無いですね」


 アシノが言うと皆頷いて一番近くの街まで馬車を走らせた。





 それは突然だった。


 空に暗雲が立ち込め、人影が見える。


「なっ!?」


 空を見上げてイタヤが声を出す。


「何だ、向こうからおいでなさったか」


 アシノが言うと同時に馬車を止めて、皆が外に飛び出た。


「皆さん、私をお探しのようで」


「ドエロスミス将軍!!」


「ギュウドーだ!! このバカ娘が!!」


 魔人に対してルーが名前を間違えると、激昂する。


 ムツヤが飛び上がってギュウドーを斬りつけようとするが、軽々と躱されてしまう。


「まぁまぁ、そう慌てずに。皆さんゲームをしましょう」


「そんなもんに付き合う義理は無いね」


 イタヤは聖剣ロネーゼを振り、光の刃を飛ばす。


「ほう、聖剣ですか。ですが、まだまだですね」


 軽くそれを手で弾いてギュウドーは話し続ける。


「私は皆さんが抗い、絶望する様が見たい。明日、私の部下がこの近くの街を襲います」


「何だと!?」


 アシノが言うとニヤリと相手は笑う。


「あの時のように上手く行くとは思わないで下さい。私は一つ一つ街を潰し、最後に王都を潰します」


 それだけ言ってギュウドーは高笑いをしながら飛び去ってしまった。

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