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おっさん勇者 2

「まずいな、あの魔人の野郎……」


 ムツヤ達はイタヤが怒りをあらわにしている顔を初めて見る。


「急ぐぞ、まだ王都へ連絡石の届く距離だ。私が信号を送っておく」


 一行は急ぎ近くの街『ルマ』へ向かった。


 ルマは王都から近いこともあり、そこそこ発展している街で、人口も数千人は居る。


 1時間と少し、馬車を走らせ、やっとたどり着いた。街の外の衛兵を捕まえてアシノは言う。


「勇者アシノです。単刀直入に言います。明日、魔人がこの街を攻めると言っていました。周辺の治安維持部隊や冒険者ギルドへの連絡。住民への避難をお願いします」


 伝えられた衛兵は驚くも、直ぐに街の中へと駆けて消えてゆく。


「私達もこの街の冒険者ギルドへ向かうぞ」


「はい!!」


 アシノの言葉に皆で返事をした。そしてゾロゾロと向かうと、勇者アシノとイタヤだという事に気付いた一部の住民が、何事かとこちらを見ていた。


 立派な赤いレンガの冒険者ギルドへ入ると受付嬢がすっ飛んできた。


「アシノ様、イタヤ様ですね!? お待ちしておりました!! 応接室へご案内します!!」


「えぇ、お願いします」


 イタヤが言うと、受付嬢は急ぎ足でギルドの奥へと向かう。その後をムツヤ達は着いて行った。


「お待ちしておりました。どうぞお掛け下さい」


 この街のギルドマスターが浮かない顔をして待っていた。


「まさか、この街が魔人に狙われるとは……」


「心中お察しいたします」


 アシノが言うと、ギルドマスターはふぅーっと息を吐いてからこちらを見据えた。


「治安維持部隊とは非常事態の訓練をしてきました。明日はその通り動こうと思っておりますが……」


「相手が魔人ではイレギュラーな事が多いですね」


「まずは住民の安全が最優先だ。住民に避難勧告を……」


 イタヤが言うと、アシノが待ったをかけた。


「いえ、逃げている住民を守りながら闘うのは、はっきり言って無理でしょう」


「確かにそうだが……」


「それに、魔人が明日必ず襲うという保証はありません。もしかしたらこの街に注意を引きつけて、他の街を攻めるかもしれないです」


「そ、そうですね……」


 イタヤは正義感から住民を第一に考えて、浅い考えを言ってしまった事を恥じる。


「アシノ様の言う通りだよ。あんた、しっかりしなよ」


「わ、悪い」


 ウリハにも言われてイタヤは少し落ち込んだようになってしまう。


「ですから、まずはこの街を守り、早急に魔人の根城を探すことが最優先なのです」


 冒険者のギルドマスターや幹部、そして治安維持部隊との話し合いで、住民は魔人が去るまで家の中でジッとしていること、戦いは街の外で食い止める事が決まった。


 アシノ達は近くの宿屋を紹介され、そこで戦いまで身を休めることになる。


「何か、今日も俺ダメダメだったな」


 隣の部屋ではイタヤが力なく笑っていた。


「兄さん……」


 妹のサワは心配そうに兄を見ている。


「やっぱ、俺みたいにおっさんになってから勇者になった奴じゃ、ホントの勇者には勝てないわ」


「なに弱気になってんだい!!」


 ウリハが立ち上がってイタヤを見た。


「おっさんだろうが何だろうが、あんたは勇者だ」


「いやー、そうなんだけど、やっぱ若くて才能ある子を見ちゃうとね……」


「待ってな、ビンタして気合い入れてやる」


「ちょっ、ちょっとウリハ待って!!!」


 夜が明けて、朝になる。静かな朝だった。


 警備の者に叩き起こされなかったという事は、奇襲は無かったのかと、イタヤは思う。


 妹のサワはスウスウと寝息を立てて、その隣のベッドではウリハも寝ている。


 小さい頃から見慣れた顔だが、こうして大人しくしていれば言い寄ってくる男の一人でも出来るのになと考えていた。


 うーんと背伸びをしてから首を左右に傾けて伸ばす。



 その頃、隣の部屋ではユモトが起き出していた。ムツヤパーティは人数が多かったので男女別で部屋を取っている。


 と言っても、ムツヤと手を繋いで魔力の補給が必要なヨーリィはムツヤと一緒に眠っているのだが。



 女子部屋でもモモが目覚めた。髪をクシで梳かして結っているとアシノも起きたようだ。


「おはようございます、アシノ殿」


「あぁ、おはようモモ」


 ルーはというと、全裸で爆睡していた。そのほっぺたをアシノは引っ叩く。


「起きろ痴女」


「ふわっ!! 何よもー、人が気持ちよく寝ているってのに……」


「おはようございます、ルー殿」


 それぞれが朝の支度を終えて、宿屋のロビーに集合した。今日、魔人ギュウドーがこの街を襲う。


 アシノが考えていた作戦を伝えるために、皆でこの街の冒険者ギルドに向かう。


 人気のない町並みとは打って変わって冒険者ギルドは人でごった返していた。


 金になる緊急の依頼を見て冒険者達が集まっていたのだ。人混みをかき分けてアシノ達が受付へ向かうと、会議室へと通される。


「お待ちしておりました、アシノ様、イタヤ様」


 この街の冒険者ギルドマスターと、治安維持部隊の上官が待っていた。


「お疲れさまです、皆様方」


 アシノは1礼して言う、ギルドマスター達も礼を返した。


 そして、早速本題へと入る。


「それで、私達なのですが、イタガで戦った時のように街の外へ布陣し、魔人の先遣隊せんけんたいを叩こうと思います」


「そうですか……」


 治安維持部隊の隊長は少し浮かない顔をしていた。勇者達が街に居ないのは少々不安が残る。それを見抜いたアシノが続けて言った。


「私の能力は周りに人が居ると巻き込みかねません。それと、王都で戦った…… 恐らくは試練の塔で手に入れた武器しか通じない魔物と集中して戦うためにも、その方が得策かと思います」


「かしこまりました」


 アシノがそう言うのであればと、隊長は渋々納得する。その後、早速アシノ達は街を立つ。


 住民以外は治安維持部隊や兵士、冒険者達が慌ただしく街を行き交っていた。馬車に揺られてそこから少し離れたひと目のない所へ着く。


「さてさてー、それじゃやる事は決まったわね? 覚悟は良いかしら?」


 ルーが言うと、サワはゴクリと生唾を飲み、ウリハはゆっくりと頷いた。


「はーい、朝ごはんタイムー!!!」


「えっ!?」


 思わずサワは間抜けな声が出た。


「そういや朝飯食ってなかったな」


 勇者イタヤは、はっはっはと笑っている。


「そうそう、腹が減っては戦は出来ぬってね」


 ムツヤパーティはテキパキと慣れた手付きでムツヤのカバンから青いシートと食材を取り出した。


「すげーな、食料まで入ってるのか!!!」


「そうよ!! ムツヤっちのカバンには大抵のものは入っているわ!!!」


 サワは興味深そうにカバンを見ていたが、そうだと思い出して言う。


「私もお手伝いします!!」


「あっ、はい、ありがとうございます」


 フライパンを火にかけているユモトの横へ行ってサワが手伝いを始めた。

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