あっという間に朝食が出来上がると、皆でそれぞれいただきますやら、食事前の祈りやらを捧げて食べ始める。
「いやー、やっぱメシを食わないと力が出ないからな」
イタヤは手にとったパンにいちごジャムをたっぷり塗って言った。
「ひょうよ、ごはんはたいへつなのよ!!」
「食いながら喋んな!!!」
ルーとアシノのやり取りを見てサワとウリハは思わず笑う。
「このお料理はユモトちゃんのじゃないわね? サワちゃんの?」
「え、あ、はい!! お口に合わなかったでしょうか?」
慌てるサワにルーは親指をぐっと上げる。
「何言ってるのよ!!! お口のシンクロ率400%越えてるわよ!!! サワちゃん私のお嫁さんにならない!?」
「え、えぇ!? お嫁さん!?」
サワは顔を赤くして驚いていた。
「お前、本当誰にでもそう言うよな……」
「何よ、誰でも良いってわけじゃないわ!!! やっぱお料理の出来る子はポイント高いわよ」
その言葉にイタヤはうんうんと頷いた。
「確かに、嫁さんっつったら毎日メシを食うわけだから、料理上手な方が良いよな」
「女に飯を作らせるなんて時代遅れの考え方だな」
ウリハが少し突っかかって言と、「そうかもしれんなー」とイタヤは返す。
「その理論で行くと、ルーお前嫁の貰い手無いぞ」
「何よ!! 私はお料理できるわよ!!!」
プンスカとルーは怒っていた。
「いや、お前のアレは料理とは言わん」
「じゃあ今度作ってあげるわ!!」
胸を張って言うルーに対して、アシノは嫌悪感を丸出しにして言う。
「迷惑だからやめろ」
「やー、アシノがいじめるー!!!」
それを見てサワとユモトは顔を見合わせた後に笑った。
「甘いもん食い過ぎだ。体壊すぞ」
デザートに出てきた作りおきのプリンにカラメルソースを掛けて3つも食べているイタヤを見てウリハが言う。
「俺は酒飲まない代わりに甘いもの食べてるの!! だからセーフ」
「健康に気を使えおっさん」
そう言われるとイタヤはムッとして言い返した。
「おっさん言わないで!! 見た目若いから!! まだギリお兄さんでイケるって!!!」
そんな二人の元へアシノが歩み寄って話しかける。
「どうも緊張感がないと言うか、こんな騒がしいパーティですみませんね」
「いえいえ、変に殺伐としているより良いですよ。ウチもうるさいですし」
イタヤは軽く頭を下げて返事をする。アシノは続けて話した。
「私のこと、あまりいい噂は聞いていなかったでしょう」
「うーん、まぁ、えぇ。でも事情は分かりましたから。能力が全て奪われたら……。俺も荒れると思います」
「そうですか……」
「それに、噂なんてアテになりませんよ。良いパーティじゃないですか。アシノさんも皆さんも」
ハッハッハと笑ってイタヤが言うと、アシノも笑う。
「えぇ、まだ実力は不足していますが、気の良い連中です」
話をしているとルーも近づいてきた。
「ねぇねぇ、何の話?」
「お前には関係ない話」
プイッとそっぽを向いてアシノは適当にはぐらかした。
「えー、何かアシノ冷たくない!? それよりさ、気になった事があるんだけど」
「気になった事、何だ?」
後片付けをしているユモトとサワを指差してルーが言う。
「あの2人、お似合いじゃない?」
「おっ、確かに!!」
イタヤは身を乗り出して言ったが、何だそんな事かとアシノは呆れた。
「サワはユモトくんに興味があるみたいだし、何か相性も良さそうだしな!!」
「そうよ、こうして見てると美少女2人組だけど、お姉さんと女の子に興味津々なお年頃の男の子なのよね」
「うんうん、サワにもそろそろ結婚相手を探して欲しいと思っていたしな、よし、あの2人応援しちゃうか!!」
ウリハがまた呆れてイタヤの頭を引っ叩く。
「あんたは人のことより自分のことを考えろ」
「そうでした」
頭を抑え、舌をペロッと出してイタヤは言った。
それぞれ皆が落ち着いた所でアシノが作戦を伝える。
「まず、この赤い薬について説明をしておきます」
それはムツヤのカバンから取り出した、どんな傷でも一瞬で治るあの薬だ。
「これは飲むか傷口に振りかけるかすると、致命傷でも一瞬で治る薬です」
「そんな便利なモンが……」
イタヤは驚く。しかし、信じられないが、信じるしか無いのだろう。
「これを各自最低3本は持っていて貰います」
「確かに、備えあれば憂いなしですね」
「それと、サワさんは回復魔法が使えるのですよね」
「はい。そこまで一瞬で治せるような物では無いので、意味が無いかもしれませんが……」
サワが言うと、アシノは首を横に振って話す。
「いえ、私達もやった事があるのですが、回復魔法を使うふりをして負傷者をこの薬で治すのです」
「なるほど、その手が……」
「使う場合は、裏の道具を目立たせたくないので、本当に瀕死の者だけに限りますが……」
「それで、ルマは2つの大きな門があります。ムツヤは一人で『青い鎧の冒険者』になって遊撃をしてもらうとして、残った我々は私一人と、門を守る二手に別れたいのですが」
「アシノさん達と、俺達の二手に分かれるって感じですか?」
イタヤが聞くと、アシノは「いえ」と言って続けた。
「まず前衛ですが、これはイタヤさんとウリハさんにそれぞれお願いしたいのです」
それを聞いてモモはまた自分の力不足にシュンとしたが、今はそんな事を思っている場合ではない。
「なるほどねー、分かりましたアシノさん!!」
イタヤが言うとアシノが頷いた。
「それで、お二人が一緒に戦いやすい仲間をこの中から編成します」
うーんと少しだけ考えてイタヤは返事を入れた。
「俺とウリハの戦い方を説明すればいい感じですかね?」
「お話が早くて助かります」
「そうだなー」と言ってイタヤが考えている間、先にウリハが話し始めた。
「私は各種魔法と剣を使い戦います。支援魔法があるとありがたいのですが……」
「俺は光の魔法と剣でガンガン殴っていく感じかな。一対一は任せてほしいんだが、雑魚に囲まれるのは苦手だな」
「なるほど……」
アシノは考える。そして、しばらくして頭の中で編成を考え終えた。
「ウリハさんにはユモトとサワさん、そしてヨーリィだな」
名前を言われ、ユモトは「わかりました」と言い、ヨーリィは黙って頷いた。
「えっと…… ちょっと良いですか?」
勇者アシノ相手なので緊張したが、サワはここで少し待ったを出した。
「回復役のユモトさんと私が一緒で良いのでしょうか?」
それに対してユモトが代わりに答える。
「あの、サワさん。僕は回復魔法がまだ使えなくて……」
「でも、裏のお薬で回復魔法を使っているフリは出来るのでしょう?」
真っ当な意見だった。それに対しアシノはこう答えた。