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おっさん勇者 3

 あっという間に朝食が出来上がると、皆でそれぞれいただきますやら、食事前の祈りやらを捧げて食べ始める。


「いやー、やっぱメシを食わないと力が出ないからな」


 イタヤは手にとったパンにいちごジャムをたっぷり塗って言った。


「ひょうよ、ごはんはたいへつなのよ!!」


「食いながら喋んな!!!」


 ルーとアシノのやり取りを見てサワとウリハは思わず笑う。


「このお料理はユモトちゃんのじゃないわね? サワちゃんの?」


「え、あ、はい!! お口に合わなかったでしょうか?」


 慌てるサワにルーは親指をぐっと上げる。


「何言ってるのよ!!! お口のシンクロ率400%越えてるわよ!!! サワちゃん私のお嫁さんにならない!?」


「え、えぇ!? お嫁さん!?」


 サワは顔を赤くして驚いていた。


「お前、本当誰にでもそう言うよな……」


「何よ、誰でも良いってわけじゃないわ!!! やっぱお料理の出来る子はポイント高いわよ」


 その言葉にイタヤはうんうんと頷いた。


「確かに、嫁さんっつったら毎日メシを食うわけだから、料理上手な方が良いよな」


「女に飯を作らせるなんて時代遅れの考え方だな」


 ウリハが少し突っかかって言と、「そうかもしれんなー」とイタヤは返す。


「その理論で行くと、ルーお前嫁の貰い手無いぞ」


「何よ!! 私はお料理できるわよ!!!」


 プンスカとルーは怒っていた。


「いや、お前のアレは料理とは言わん」


「じゃあ今度作ってあげるわ!!」


 胸を張って言うルーに対して、アシノは嫌悪感を丸出しにして言う。


「迷惑だからやめろ」


「やー、アシノがいじめるー!!!」


 それを見てサワとユモトは顔を見合わせた後に笑った。


「甘いもん食い過ぎだ。体壊すぞ」


 デザートに出てきた作りおきのプリンにカラメルソースを掛けて3つも食べているイタヤを見てウリハが言う。


「俺は酒飲まない代わりに甘いもの食べてるの!! だからセーフ」


「健康に気を使えおっさん」


 そう言われるとイタヤはムッとして言い返した。


「おっさん言わないで!! 見た目若いから!! まだギリお兄さんでイケるって!!!」


 そんな二人の元へアシノが歩み寄って話しかける。


「どうも緊張感がないと言うか、こんな騒がしいパーティですみませんね」


「いえいえ、変に殺伐としているより良いですよ。ウチもうるさいですし」


 イタヤは軽く頭を下げて返事をする。アシノは続けて話した。


「私のこと、あまりいい噂は聞いていなかったでしょう」


「うーん、まぁ、えぇ。でも事情は分かりましたから。能力が全て奪われたら……。俺も荒れると思います」


「そうですか……」


「それに、噂なんてアテになりませんよ。良いパーティじゃないですか。アシノさんも皆さんも」


 ハッハッハと笑ってイタヤが言うと、アシノも笑う。


「えぇ、まだ実力は不足していますが、気の良い連中です」


 話をしているとルーも近づいてきた。


「ねぇねぇ、何の話?」


「お前には関係ない話」


 プイッとそっぽを向いてアシノは適当にはぐらかした。


「えー、何かアシノ冷たくない!? それよりさ、気になった事があるんだけど」


「気になった事、何だ?」


 後片付けをしているユモトとサワを指差してルーが言う。


「あの2人、お似合いじゃない?」


「おっ、確かに!!」


 イタヤは身を乗り出して言ったが、何だそんな事かとアシノは呆れた。


「サワはユモトくんに興味があるみたいだし、何か相性も良さそうだしな!!」


「そうよ、こうして見てると美少女2人組だけど、お姉さんと女の子に興味津々なお年頃の男の子なのよね」


「うんうん、サワにもそろそろ結婚相手を探して欲しいと思っていたしな、よし、あの2人応援しちゃうか!!」


 ウリハがまた呆れてイタヤの頭を引っ叩く。


「あんたは人のことより自分のことを考えろ」


「そうでした」


 頭を抑え、舌をペロッと出してイタヤは言った。




 それぞれ皆が落ち着いた所でアシノが作戦を伝える。


「まず、この赤い薬について説明をしておきます」


 それはムツヤのカバンから取り出した、どんな傷でも一瞬で治るあの薬だ。


「これは飲むか傷口に振りかけるかすると、致命傷でも一瞬で治る薬です」


「そんな便利なモンが……」


 イタヤは驚く。しかし、信じられないが、信じるしか無いのだろう。


「これを各自最低3本は持っていて貰います」


「確かに、備えあれば憂いなしですね」


「それと、サワさんは回復魔法が使えるのですよね」


「はい。そこまで一瞬で治せるような物では無いので、意味が無いかもしれませんが……」


 サワが言うと、アシノは首を横に振って話す。


「いえ、私達もやった事があるのですが、回復魔法を使うふりをして負傷者をこの薬で治すのです」


「なるほど、その手が……」


「使う場合は、裏の道具を目立たせたくないので、本当に瀕死の者だけに限りますが……」


「それで、ルマは2つの大きな門があります。ムツヤは一人で『青い鎧の冒険者』になって遊撃をしてもらうとして、残った我々は私一人と、門を守る二手に別れたいのですが」


「アシノさん達と、俺達の二手に分かれるって感じですか?」


 イタヤが聞くと、アシノは「いえ」と言って続けた。


「まず前衛ですが、これはイタヤさんとウリハさんにそれぞれお願いしたいのです」


 それを聞いてモモはまた自分の力不足にシュンとしたが、今はそんな事を思っている場合ではない。


「なるほどねー、分かりましたアシノさん!!」


 イタヤが言うとアシノが頷いた。


「それで、お二人が一緒に戦いやすい仲間をこの中から編成します」


 うーんと少しだけ考えてイタヤは返事を入れた。


「俺とウリハの戦い方を説明すればいい感じですかね?」


「お話が早くて助かります」


「そうだなー」と言ってイタヤが考えている間、先にウリハが話し始めた。


「私は各種魔法と剣を使い戦います。支援魔法があるとありがたいのですが……」


「俺は光の魔法と剣でガンガン殴っていく感じかな。一対一は任せてほしいんだが、雑魚に囲まれるのは苦手だな」


「なるほど……」


 アシノは考える。そして、しばらくして頭の中で編成を考え終えた。


「ウリハさんにはユモトとサワさん、そしてヨーリィだな」


 名前を言われ、ユモトは「わかりました」と言い、ヨーリィは黙って頷いた。


「えっと…… ちょっと良いですか?」


 勇者アシノ相手なので緊張したが、サワはここで少し待ったを出した。


「回復役のユモトさんと私が一緒で良いのでしょうか?」


 それに対してユモトが代わりに答える。


「あの、サワさん。僕は回復魔法がまだ使えなくて……」


「でも、裏のお薬で回復魔法を使っているフリは出来るのでしょう?」


 真っ当な意見だった。それに対しアシノはこう答えた。

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