「厄介な敵は私達で食い止めます。それにもし仮に街で怪我人が出たとしても治している余裕は出来ないでしょう。後でまとめて治療をします」
「確かにそうかもしれませんが……」
優しいサワは救えるかもしれない命が救えなかった時の事を考えてしまう。
「大丈夫だサワ、そうならないように俺たちで頑張るんだ」
サワの頭に手を置いてイタヤが言ったが、それに対して少し怒る。
「もう!! 子供扱いしないで!!」
皆がちょっとだけ笑うと、アシノは続けて言った。
「ウリハさんを前衛に、ヨーリィとサワさんが中衛。ユモトは後衛だ」
「わ、分かりました!!」
ユモトが返事をすると、アシノはまた話し始める。
「イタヤさんはモモとルーと一緒になってもらいます」
「お、男一人でハーレムだな!」
イタヤがハーレムと言うとムツヤがピクリと反応をした。
「イタヤさんもハーレムが好きなんでずか!?」
「そりゃもう、男はハーレムが大好きなもんよ!!」
そこまで言うとムツヤはアシノに、イタヤはウリハに、それぞれ頭を引っ叩かれた。
「モモ、イタヤさんの援護を頼む。そしてルーには弱い敵を精霊で蹴散らしてもらう」
「分かりました、お任せください」
「オッケー任せて!!」
「それで、私は皆さんへの指示、及び街中に入り込んだ裏の道具でしか倒せない敵を倒します」
そう言い終えると、アシノは早速2つの部隊に命令を出した。
「各自、自分の得意分野と、何が出来るのか話し合っておいてください」
ウリハチームの会議を少し見てみる。
青いシートの上で紅茶とお菓子を持って向かい合う4人。女子会に見えるが、ユモトは男だ。
「そう緊張しないで、ユモトくん」
「あ、っはい!!」
そうウリハに声を掛けられるが、ユモトはビクッとしてしまう。
「敵は私とサワに任せて、君は自分の身を守ることを考えて欲しい」
「わ、わかりました!!」
「それで……」
ウリハはヨーリィを見る。無表情のまま、もそもそとクッキーを食べていた。
「あの、ヨーリィちゃんはこんな感じですが、戦いでは物凄く強いんです!」
「そっか、頼りにしてるよ」
笑顔を作り、ウリハが言う。その隣でサワがユモトに質問をした。
「ユモトくんはどの程度魔法が使えるのかな?」
「え、えーっと、火・雷・氷の攻撃魔法と、防御壁を作るぐらいしか…… すみません」
「いやいや、謝ること無いよー? 君ぐらいの年だったらそれでも十分凄いぐらいだよ!!」
サワとウリハの2人は、ユモトの事を本当に大事に巻き込まれてしまった普通の少年なんだなと思う。同時に、守らなくてはとも。
その一方でイタヤチームはどうなっているかと言うと……。
「モモちゃんは剣士で、ルーさんは召喚術師ってことで、了解了解」
ハッハッハと笑いながらイタヤは言った。この男は何がいつもそんなにおかしいのだろうとモモは思う。
「はい、私はまだまだ未熟ゆえ、足手まといにならぬよう努めます」
「良いって良いって、俺が討ち漏らした敵を斬ってくれれば! 俺達の狙いは『普通の武器じゃ倒せない魔物』なんだろう?」
「えぇ、そうですね」
「私も頑張っちゃうわよー!! 聞きたい事があったら何でも聞いてね!!」
「何でもか……」
イタヤは急に真面目な顔になって、ルーに質問をした。
「ルーさん。それじゃ1つ聞いておきたいことがあるんだが……」
モモは何を聞かれるのかとジッとイタヤを見つめる。
「ルーさん、今、彼氏いる?」
「は?」
ルーの代わりにモモが短く変な声を上げた。
「居ないわよ!!!」
ルーは親指を上げてビシッと答えた。
「いやー、俺ね、ルーさんみたいな美人さん好きなんですよねー」
「あら、口説いていらっしゃる?」
「もちろんです!!」
そのイタヤの後ろで鬼のような形相をしているウリハが立っていた。
「作戦会議をしろと……」
「あっ……」
それがイタヤの最後の言葉だった。
「いっとろうがああああああ!!!!!!!!」
「ずみばぜんでじだ!!!」
敵と戦う前にボコボコにされたイタヤはそう言って謝っていた。
「皆さん楽しそうですねー」
蚊帳の外のムツヤはそんな皆を見ている。
「何だ、私と一緒じゃ不満か?」
アシノが言うとムツヤは焦って否定をした。
「い、いえ、そうじゃないでず!!!」
「まぁいい、今回もお前が頼りだ。思いっきり暴れてくれ」
アシノ公認で思い切り戦えるという事にムツヤは目を輝かせる。
「私の予想だが、また夜に襲撃があると思う。だからそれまで1人で待機してもらうが」
「わがりまじだ!!」
ムツヤはもう器用に1人で鎧を身に纏うことが出来るようになっていた。
「話はまとまりましたか? それでは襲撃があるまで各自別れて待機します」
「よし、わかりました!! サワ、危なくなったら逃げろよ?」
丈夫なのかイタヤはすっかり元気になっている。パーティ同士の別れ際、背を向けたまま大声で話しかけた。
「ウリハー! 死ぬなよ」
「お前こそな」
背中を向けたままウリハも返す。そうだ、魔人との戦いはいつ命を落としてもおかしくはない。
イタヤ達は馬車に乗って東側の門の前へと着いた。同じ頃ウリハ達も同じく西側の門の前へと着く。
兵士や治安維持部隊、冒険者たちは緊張した面持ちで居る。当たり前だ、古の魔人が今日攻め込んでくると言っているのだから。
イタヤとウリハチームは遊撃隊だ。敵の数を減らしながら、通常の武器では攻撃の当たらない魔物が出た際にそちらへ出向いて叩くのだ。
アシノは街中で兵士、治安維持部隊の隊長クラスと話し合いながら、連絡石を使い、皆へ指示を出す。
その頃、ムツヤは街から少し離れた場所で立ちションをしていた。
イタヤが東の門へ着くとざわめきが起こった。
「勇者イタヤだ……」
「本物だ……」
若い冒険者からの眼差しにイタヤは照れて頭を掻く。その集まりの中から1つのパーティが飛び出してきた。
「イタヤさん!!」
「おー、お前らか!」
どうやら顔なじみの様だ。明るくイタヤは手を上げて返事をする。
「あれ、ウリハさんは今日は一緒じゃないんですか?」
「あぁ、俺とウリハは東と西に別れて街を守ることになったんだ。モモさん、ルーさん、こいつらは昔ちょっと知り合ってな」
イタヤが言うと、冒険者パーティは首を振って言う。
「知り合いっていうか、イタヤさんに命を救って貰ったんです。僕達は!!!」
「そんな大げさなもんじゃないって、ちょっと魔物から守っただけだよ」
照れくさそうにイタヤは言うが、冒険者はそれも興奮気味に否定する。
「いいえ、イタヤさんは身を挺して僕達を庇ってくれました!!!」
「慕われているのですね、イタヤ殿」
モモはフフッと笑って言う。
「魔人と戦うのは怖いけど、イタヤさんが居れば安心です! 僕達は冒険者の組分けがあるのでここで失礼します!!」
そう言って足早に去っていった。その背中に「頑張れよ!!」とイタヤは声を掛けた。
西門へ着いたウリハチーム。そこも冒険者に治安維持部隊。国の兵士と人でごった返していた。
「さて、魔人さんがやってくるまで休むかね」
馬車の中でウリハは荷物に寄りかかって目を閉じる。緊張で震えているユモトとは対象的だ。
「ユモトくん、気を張り詰めすぎると疲れる。魔人が来るまではゆっくりとしていると良いよ」
「あ、はい!!」
ウリハに言われ、ユモトもちょこんと座って杖を置いた。