昼が過ぎて、辺りが夕焼けで赤く染まり、緊張の糸が溶け始めていた頃。ムツヤは異変を感じて空を見上げ、アシノに連絡を入れた。
「来ます!!!」
「あぁ、どうやらそうらしいな」
空から紫色の光が地上に降り注ぎ、魔物たちが現れる。
「おいでなすったか!!!」
イタヤはそう言って剣を抜く。モモも剣を構え、ルーは精霊を召喚する準備をした。
その他、戦闘員達もそれぞれ武器を強く握ってその光景を眺める。
「前線部隊は前へ!! 中衛と後衛は支援魔法の準備を!!!」
国の兵士がイタヤ達を中心にしてくさび形に並ぶ。その後ろに同じ形で治安維持部隊と冒険者が第二波の準備をしていた。
まずは敵の数を減らしつつ、裏の道具でしか攻撃が通用しない敵が現れたら、戦線離脱をしてそちらを叩くのがイタヤ達の仕事だ。
「行くぜ!!」
イタヤが走り出すと共に、号令がかかる。
「出撃ー!!!」
うおおおおっと言う怒声と共に皆、走り出した。
早速イタヤはトロールの集団と対峙する。
剣を振るって目の前の1体の首を落とすと、その死体を踏み台にして高く飛び上がった。
空から光の斬撃をそこら中に振り下ろして、牽制する。その光に触れたトロールは次々と真っ二つになっていった。
「やっぱ、聖剣はハンパないわ!」
そんな事を言っていたが、イタヤの実力があってこそ出来る芸当だ。目にも留まらぬ速さでトロールを、小さい竜を、甲殻類の魔物を斬っていった。
モモは、イタヤが討ち漏らした敵を1体1体確実に仕留めていった。カマキリのような魔物の鎌を無力化の盾で受け止め、剣を突き出しカウンターを食らわせる。
その後ろで大きな精霊に乗っかったルーが10体ほどの精霊を操り、小さい魔物を殲滅していった。
イタヤ達を先頭にしているのは、もちろん戦力的な物もあったが、士気を高めるためでもある。見事な戦いをする勇者達を見て、戦闘員達は鼓舞されていた。
その頃、ウリハ達も魔物の群れ向けて飛び出ていた。
サワの支援魔法を受けたウリハは、走りながら右手で剣を斜め下に持ち、左手で魔法の炎を打ち出す。
ヨーリィもその速度について行ってナイフで次々トロールを殲滅していった。
「やるな、嬢ちゃん!!」
負けじとウリハも剣を振るい、魔法を打ち出していく。
その後をユモトも追いかけていた。サワの支援魔法のお陰か、走ってもあまり疲れない。
「貫け!!! アイスニードル!!」
「轟け、雷鳴よ!!!」
ユモトは氷柱を敵に向かって降らせ、サワは雷を浴びせた。次々と煙になっていく魔物たち。
そんな混戦をしている間、アシノは作戦本部で報告を待っていた。
「今の所、どちらの東と西、どちらの方が魔物の数が多いでしょうか」
アシノが言うと連絡石の信号を読み取る通信士が報告する。
「東は約5000体、西は約3000体です。東には竜も居るそうです!!!」
連絡石を見えないように握りしめてアシノは大きめに話す。
「そうですか、東の方が敵が多いのですね」
それと同時に、ムツヤが風のように街の東側へと走っていった。
街の外は戦争のような状態になっていた。怪我人も出始めている。
「くそっ、流石に敵の数が多いな!!!」
イタヤはそう言いながら剣を突き出してトロールをまた1匹仕留め、そのまま回転して光の刃を飛ばした。
その時だった。遠くから青い閃光が一直線にこちらへ向かってきた。
「青い鎧の冒険者です!!!」
街の外壁に登る千里眼持ちの兵士が、魔法の拡声器を使って叫ぶ。
「もう来たのか、お手並み拝見と行くかな!!」
目の前の敵に集中しながらもイタヤはニッと笑った。
青い鎧の冒険者は街外れから一直線に東門へ向かってやってきた。
途中にいる魔物たちは腕で足で弾かれて吹き飛んでいく。
大きなトロールが、まるでその辺のゴミを蹴り飛ばすかの様だ。
「な、なんだありゃ!?」
その無茶苦茶な戦い方を見たイタヤは驚きを隠せなかった。ムツヤの力がこれ程までに圧倒的だったとは。
ムツヤを仕留めるために翼竜部隊が動き出した。10匹程のそれらはムツヤに向かって急降下をする。
しかし、ムツヤの敵ではなかった。軽々と1匹の首を落とすと、次は右手で頭を殴り、骨を粉砕する。
イタヤが援護しようと思う間に、翼竜は壊滅させられてしまっていた。
「は、はは、マジで凄いな……」
苦笑いをしながら、自分も目の前の敵を片付けていく。
そんな時だ、空がまた怪しく紫色に光り、小さな人影が降りてきた。
「おいでなすったわね、ドエロスミス将軍!!」
ドエロスミス将軍、もとい、魔人ギュウドーだ。
「まったく、あなたがいると遊ぶこともできませんね」
髪をかき上げてそう言うと、一気に地上に向けて降りてきた。ムツヤはギュウドー目掛けて走る。
「一騎打ちといきましょうか」
槍を取り出して迎え撃つギュウドー。ムツヤも抜剣して飛びかかった。
重い金属がぶつかる音が鳴り響くと同時に、業火が2人を包む。
火が消えるとムツヤとギュウドーはつばぜり合いをしていた。
「この前のように上手くいくと思わないでくださいよ?」
涼しい顔をしてギュウドーは言うと、ムツヤは思う。相手は確実にこの前よりも強くなっていると。
互いに武器に力を入れると、2人は弾かれあった。後ろに2回飛び跳ねてムツヤは距離を取る。
ギュウドーが空に片手を上げると複数の呪文が浮かび上がり、光の剣がムツヤに向かって降り注いだ。
ムツヤが片足で地面を思い切り踏むと、防御壁が現れ、それらを全て防ぐ。
光の剣に紛れてギュウドーも槍を持ち突進をしてきた。その切っ先が防御壁に当たると同時にヒビが入る。
そのまま連続で槍を突き出すと、防御壁は完全に粉々に砕けてしまった。
無数に出される突きをムツヤは全て躱しているが、劣勢に見える。
「どうする、加勢したほうが良いのか!?」
イタヤがモモとルーに問いかけると、返事をしたのはルーだった。
「私達が行っても邪魔になると思うわ。心配ないわ、大丈夫よ」
「えぇ、そうですね」
モモも不安であったが、ルーに同意する。
「そうか、それじゃ俺達は魔物に集中するぞ!!」
ムツヤは剣を握り、反撃に出た。恐ろしい速さでカン、ガキンと剣と槍がぶつかり合う音が辺りに響く。
「どうしたんですか? あなたの実力はその程度じゃないでしょう?」
ギュウドーはニヤリと笑ってムツヤを煽る。
「そろそろお互い本気を出しませんか?」
「あぁ、わかった」
ムツヤは返事をして、叫んだ。全身に魔力が巡り、強烈な身体強化が起きた。
「これやると動けなくなるから嫌だったけんど、やってやる!!!」