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VSラメル 1

 ミシロはラメルに抱きかかえられて空を飛んでいた。初めは恐かったが、慣れると気持ちが良いものだったし、抱きしめられている心地よさも感じる。


「ラメル様、あの城で何をなさっていたんですか?」


「一人ね、仲間にしたい人が居たんだけど、出来なかったの」


 ラメル様でも無理だなんて、どんな人なんだろうとミシロは思う。


 適当な平原に降り立ち、ラメルは持っていたカバンを差し出す。


「これ、開けて欲しいんだ」


 あまりに簡単な願いで、ミシロは逆に何を言われたのか分からなかった。


「このカバン、開けて」


 ハッとしてカバンを手に取り開ける。


「出来たね、それじゃ何か取り出してみて」


 何かと言われてもカバンの中には何もない。困惑しているとラメルが言う。


「何でもいいから、強い武器を想像してみて」


 強い武器……、ひとまず剣を想像してみると、驚いた事に何か金属が手に当たった。


 しかし、それと同時にミシロは立ちくらみを起こして倒れてしまう。


「も、もうしわけ……」


「やっぱあなた弱いから裏の道具触れないのね」


 魔剣に触れたショックで体内の魔力のバランスが崩れたみたいだ。


 そんな事を知らないミシロはこんな簡単なことも出来ない自分が情けなかった。 


 もう一度挑戦しようとした時だった。カバンから紫色の光が溢れだす。


 その光は一つの幻影へ形を変えていった。


「初めまして、魔人さん?」


 銀髪の長い髪と黒いドレス、褐色の肌。唇と爪は毒々しく紫色で塗られている。


「邪神サズァンよ」


 ミシロは腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。ラメルはサズァンを見据える。


「初めまして、魔人ラメル・キャだよ」


 スカートを引き上げラメルはペコリとお辞儀をした。


「そう、それじゃ」


 お互い笑顔で挨拶を交わし。


「死ねっ!!!!!」


 そう言って互いに光の玉を打ち出し始めた。 


 ミシロは頭を抱えてしゃがみ、二人を交互に見る。


「ははははは!! 邪神様この程度なんですか?」


「壊れかけの結界があるから本気じゃないの、あなたこそこの程度?」


 空を飛んで追いかけ合いながら光弾を打つ。この世の光景だとはとても信じられない。


「いい年なんだから無理しちゃダメだよ、おばさん?」


「お、おばっ!? ふざけるな小娘が!!」


 互いの距離が近付くと、ドレス姿というフォーマルな格好に似合わない殴り合いが始まった。


 殴り合いと言っても一発一発ぶつかり合うたびに重い音が辺りに響く。


 ラメルは一気に急上昇して、空から赤い光弾を地面に振り落とした。


 それをサズァンはドーム状に展開した光の壁で防ぐ。


「そろそろおしまいだよ!!」


 ラメルが急降下してサズァンの光の壁に拳を下ろす。


 すると、それは粉々に砕け散った。


「まだまだね」


 サズァンは瞬間移動の様にラメルの拳を躱して、横から蹴りを入れた。


「ラメル様!!」


 吹き飛ぶラメルを見てミシロが声を上げる。


「全然効かないよ」


 ラメルは空中で軌道を変え、∪ターンしてサズァンの元へと突っ込んだ。


 そして、光の剣を手に作り、サズァンの腹を。


 突き刺した。


「ははっ!」


 勝ちを確信してラメルが笑うと、サズァンはぐったりとして前かがみになる。


「悪いけど私の勝ちよ」


「負け惜しみはやめてよ、おばさん」


 サズァンの体は光が溢れ、スーッと透き通っていく。


「あなたにカバンは渡さないわ」


 その言葉を最後に、サズァンは完全に消えてしまった。


 ラメルが勝ったことが分かり、ミシロはホッと胸を撫で下ろす。


「ラメル様!! よかった……」


「私があんなのに負けるわけ無いじゃん」


 あっけらかんとラメルは言う。そしてカバンを持つミシロに命令した。


「そんな事より、何でも良いからカバンから物を出してよ」


 言われてミシロはカバンを開けようとする。しかし、それはいくら力を入れても開かなかった。


「あれ、あれっ」


 困惑するミシロ。それを見てラメルは舌打ちをする。


「あのおばさん、カバンに何かしたみたいね」





「っとまぁ、あの魔人と一戦やって、カバンに鍵をかけてきたってわけ」


「そうだったんでずか!! ありがとうございまず!!」


 ムツヤはペコリと頭を下げるが、アシノは訝しげに聞いた。


「そんな事が出来るなら、キエーウとの戦いの時にやってほしかったんだが」


「悪いわね勇者アシノ。あの時は結界の力で出来なかったの」


「それで、悪い話ってのは?」


 イタヤが聞くと頷いてサズァンが答える。


「鍵の効力は3日間しか持たないわ」


「3日か……」


 イタヤは苦そうな顔をし、アシノは昔を思い出していた。


「また制限時間付きってわけか」


 亜人を滅ぼす災厄の壺が発動したあの時の事だ。


「それを過ぎれば、あの魔人自身がカバンを自由に開けられるようになるわ」


「何よそれ!! 世界確実に滅ぶじゃない!!」


 口を抑えてルーが言う。その時、モモが思い付いて言った。


「サズァン様。魔人と戦った時のように我々と一緒に戦っては頂けませんか?」


 しかし、それに対して悲しそうな顔をしてサズァンは返す。


「残念だけど、あの魔人と戦う時に魔力をほぼ使い果たしてしまったの」


「そうですか……」


 皆が沈黙する中で、ムツヤが声を上げた。


「俺が、俺が絶対にカバンを取り戻してみせます!!」

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