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魔人と少女 3

 ムツヤはウリハの元へ飛びかかり、まずいとイタヤが向かう。


 間に合わない、そう思った時だった。ムツヤの動きが止まった。


 地面に倒れたウリハをじっと見つめ、固まっている。


(何が起きてやがる!?)


 イタヤがムツヤの正面に立ち、その顔を見ると。


「ぐへへへへ」


 鼻の下をだらしなく伸ばして、はだけたウリハの胸元を見ていた。


 ハッとし、次の瞬間イタヤが言葉を出す。


「服だ……」


「は?」


 近くに居たウリハだけが聞こえ、思わず頭に疑問符が浮かぶ。次は思いっきりイタヤが叫んだ。


「皆、服を脱いでセクシーになってくれ!!!」


「馬鹿かお前は!!!」


 ウリハがツッコミを入れるが、確かにムツヤの視線は自分の胸元や太ももに釘付けになっている。


「何言ってるんですか兄さん!!」


 サワは兄の気でも狂ってしまったのかと思った。


「いいか、ムツヤくんはスケベだ……。いや、彼の名誉を守るならば、男は皆スケベだ!!! ムツヤくんの心を動かすにはこれしかない!!」


「ムツヤっちの為に、文字通り一肌脱げって事かしら?」


「そ、そんな事言われましても!!」


 モモは顔を赤くしている。その横で「仕方ないわね」と言いながらルーは上着を脱いでインナーだけになる。


「ムツヤっちー、こっちよーん」


 前かがみになってインナーの首元を下にひっぱり、胸元を強調させてムツヤを呼んだ。


「ぐへへへへへ」


 ムツヤはスキップしながらルーの元へ向かう。ついでにイタヤも向かおうとしたが、ウリハにどつかれてしまった。


「ほら、アシノも!!」


「な、何で私まで!!!」


 アシノはルーに言われ動揺するが、観念したようだ。


「くそっ、何で私がこんな事……」


 アシノはショートパンツを更に捲りあげて際どいラインを見せる。


「ぐへへへへ」


 ムツヤまっしぐらだった。


「わ、私はどうすれば……」


 モモはあわあわとしてスケベムツヤを見ていた。


「チューでもしてあげればー?」


「ち、チュッ!?」


 ルーに言われるとモモは余計に慌てふためく。


「ほら、昔話で呪いを解くにはキスでしょ? キッスの一つでもしちゃいなさいよ!!」


「し、しかしそんな……」


 そんなモモにルーは意地悪な笑顔を向けた。


「ふーん、モモちゃんが嫌なら私がしちゃおうかなー? ほらームツヤっちおいでー」


「ま、待って下さいルー殿!!!」


 モモは深呼吸して自分に言い聞かせる。これはムツヤ殿を救うためだ、救うためだから仕方がないと。


 デレデレとした顔のムツヤに近付いてモモは顔を近づける。


「んー? あれ、モモさん!?」


 その時、ムツヤが急に正気に戻った。目を閉じたままのモモはそのまま固まってしまった。


「あ、魔人はどこに!?」


 周りを見るが魔人の姿も気配も無い。代わりに飛んできたのはビンのフタだった。


 最小限の動きでそれを避けたが、アシノがズンズンと近付いてくる。


「ムツヤ、一発殴らせろ」


「え、アシノさん!? どうしてでずか!?」


「どうしてもだ!!」





「ずみまぜんでじだ!!!」


 アシノに殴られ、ムツヤは謝っていた。


「ま、まぁ、ムツヤ殿も操られていた訳ですし……」


 モモは赤面しながら気まずそうに言う。


「いやー、モモちゃん惜しかったなー」


 イタヤがハッハッハと笑いながら言うと、ウリハに殴られた。


「それで、魔人とは何があったんだ」


 アシノが聞くとムツヤは思い出しながら話す。


「気付いたらあの城に居て、手と足は縛られでいまじだ!! そんで、多分魔法か何かで……」


 アッと思い出した。魔人にキスをされた事を。


「その、あの……」


「ムツヤ殿?」


「ま、まさかムツヤっち!? 何かされたの!?」


 ルーの言葉にモモはハッとしてムツヤの肩を掴んでぐんぐん揺らす。


「ムツヤ殿!! 何があったんですかムツヤ殿!!」


「え、な、なにもないでずよー?」


 とぼけるムツヤをモモは逃さない。


「嘘です!! エッチな事したんですね!! エッチな事したんですね!!」


「モモちゃん落ち着いてー!!!!!!!」


 ルーが叫んでモモを止めに入った。


「ともかくだ、お前が無事だった事は良いとして、カバンはどうなったんだ?」


 アシノに言われてムツヤはハッとする。


「俺もわからないでず……、でも魔人の人は自分で開けられないみたいでじだ!!」


「それが本当なら不幸中の幸いなんだが……、探知盤には何か映らないか?」


 探知盤を操作するサワは辺りを見てみるが、何も反応はなかった。


「私達が持つ道具以外に反応はありませんね」


「もう魔人はどっかに行っちまったって訳ですか」


 どうしたものかとアシノは頭をかく。


「あの魔人の目的が分からない。まぁどうせ魔人の目的なんて世界征服ぐらいのモンだろうけどな」


「ひとまず、城の人間をどうにかしてやりませんか? 色々と聞きたいこともありますしね」


「そうですね」


 イタヤの提案にアシノは頷いて、ムツヤを見る。


「ムツヤ、人を正気に戻す魔法はあるか?」


 カバンがあれば、裏の道具のハリセンを使って正気に戻せるが、強力な魅了の魔法を解除するにはムツヤぐらいしか現在方法が無い。


 と、その時だった。ムツヤの持つペンダントから紫色の光が溢れ出した。


「あっ、サズァン様!?」


 ムツヤの前に邪神サズァンの幻影が現れる。初めて見るイタヤ達は警戒した。


「お久しぶりね。そして初めましてかしら、勇者イタヤ? 私は裏ダンジョンの主、邪神サズァンよ」


「お名前を知って頂いて光栄なことで」


 軽口を叩いたが、右手は鞘に収めたままの剣の柄をギュッと握っていた。


「サズァン様は邪神だけど、良い人なので大丈夫でず!!」


 イタヤ達の殺気を感じてムツヤが弁解する。


「そうそう、人っていうか神様だけど」


 ルーもそう続けて言うと、イタヤ達は警戒を解いた。


「それで、邪神様が何の用事だ?」


 アシノが聞くとサズァンは答える。


「良い話と悪い話があるわ。まずは良い話から。カバンには魔人ですら開けられない『鍵』を掛けてきたわ」

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