ミシロは強く剣を握り、まっすぐに城主を見据えた。
「よせ、やめろ!!」
「うわあああああ」
走って目を瞑り、剣を振り下ろす。
何かに当たる強い抵抗を感じた後はすっと剣は下りていった。
「ぐがあああああああ!!!」
城主の声にならない叫び、太い動脈を切ったのか血が吹き出していた。もう助からないだろう。
「1分過ぎちゃったけど、おまけしてあげる」
ラメルがくすっと笑って言った。
「キミの勝ちだよ。キミのことは見逃してあげる。今は、ね」
崩れ落ちて呆然としているミシロの頭から言葉が降りかかる。
「私は……、私は……」
「何? あぁ、そうか。キミは死にたいんだったっけ」
そうだ、自分には買える場所も未来も無い。こんな人生ここで終わりにしたかった。
「私はどうすれば……」
ミシロはまた泣き始める。面倒くさそうにラメルはそれを見ていた。
「じゃあ私の部下になってよ」
ハッと前を向く。
「私ね、この世界をメチャクチャにしたいの。手伝ってくれない?」
「世界をメチャクチャに……?」
その言葉を口に出した瞬間、不思議と自分の中に高揚感が溢れた。
理不尽で大嫌いなこの世界。メチャクチャにして壊したい……、壊したい!!!
「したいです。したいです!! メチャクチャに!!!」
「そう、わかったわ」
アシノとイタヤ達はそれぞれ城への侵入へ成功した。ムツヤの居場所を求めて城内を走る。
城内の兵や使用人には睡眠薬や魔法で眠ってもらい、3階建ての城を
途中互いに連絡石で会話をした。
「こちらアシノ、皆さん何か手がかりはありましたか?」
「イタヤです。何もありませんね」
「ユモトです! こちらも何も……」
「ルーよ!! 何もないわねー」
これで残すは最上階の大きな扉の先だけになった。
皆がそこに集合し、イタヤが先頭を切って扉を開ける。
漂ってきたのは腐敗臭だった。
「こりゃひでえな……」
顔をしかめてイタヤが言った。きらびやかな服を着た男が斬り殺されている。
おそらくは城主だろう。死んで数日立ったぐらいと言った所だろうか。
部屋に入るとユモトは1回えずいたが、気丈に振る舞う。
何か情報は無いかと調べると、開けっ放しの扉をサワが見つけた。
「皆さん、ここ!!」
「隠し扉か……」
アシノが言ってイタヤを見ると、頷いて返した。
「全員で行くのは危険です。俺とウリハが行ってきます。サワ、中に照明弾を頼む」
「わかりました!」
薄暗い通路が明るくなると、イタヤは扉の奥へと入っていく。
「何だここは……!?」
隠し部屋の先は牢屋のようだ。
それと共に置かれているのは、何に使うのか想像もしたくない、人を傷つける為だけに作られた器具たちだ。
「魔人が置いていったのか? それとも城主が……」
ウリハが言うと圧倒されていたイタヤが我に返った。
「あぁ、どちらにせよ素晴らしい趣味をお持ちだ」
器具はまだしも、牢は元からあったものだろう。だが、城主はもう死んでいるし、今はこの一件は置いておくことにする。
その時、奥の牢屋からガシャリと音がする。
「誰か居るのか!?」
イタヤが向かうと、鉄のベッドに拘束されたムツヤが居た。
「ムツヤくん!?」
急いで駆け寄ろうとした時だった。ムツヤが鎖を引きちぎって飛び起き。
「うがああああ!!!」
イタヤに襲いかかった。
「なっ!!」
イタヤは剣を引き抜いて斜めに構え、ムツヤの拳を受け止めた。
ガキィンと、まるで鉄の塊をぶつけられたような音と衝撃が走る。
「一旦引くぞ!!」
ウリハに言われて、イタヤも隠し部屋から出た。
「ムツヤくんが、多分だが、操られている!!」
「アイツを操るとは、流石は魔人と言った所か……」
イタヤが言うと、アシノが感心して言った。それに対してルーが騒ぐ。
「感心してる場合じゃないでしょ!! 私達じゃ止められないわよ!!」
「時間を稼ぐ」
「はぁ!?」
アシノの言葉にルーは疑問符が浮かんだ。
「ムツヤのことだ、おそらく魔法か何かに掛かっていても、回復は早いだろう」
「そりゃそうかもしれないけど!!」
「そ、それで、どうやって時間を稼ぎますか?」
ユモトが尋ねるとアシノは答える。
「逃げるんだよォ! ユモト!」
「やっぱりそうなるのね!!!」
ルーが叫ぶと、みんなで部屋から逃げ出して一階まで駆け下り、外へ飛び出た。
「ムツヤはぶっ殺そうと思っても殺せる相手じゃありません。全力を出して戦いましょう!!!」
アシノが言うと全員が返事をしてムツヤを待ち構える。
イタヤとウリハが最前線に並び、その後ろに残りの者たちが隊列を組んだ。
「うがあああああ!!!」
ムツヤは走りながら拳を振り上げる。
「悪いな!!」
イタヤが光の刃をムツヤに何度も飛ばすが、全て飛び跳ねてかわされてしまう。
1つだけ直撃しそうになったが、ムツヤが地面を足で踏むと防御壁が現れて受け止められた。
ウリハも火の玉や光線を出し、それと共に特攻を仕掛けたが、ムツヤに傷一つ負わせられない。
「うらあああ!!」
それどころか蹴りを食らいそうになってしまい、剣で受け止める。
あまりの力に剣が弾かれ遠くへ飛んでしまった。
「ウリハ!!」
イタヤは叫んでウリハの元へ向かう。それを援護するようにサワとユモトの魔法攻撃が飛んでいった。
氷も、雷も、炎も、ムツヤが魔力を込めた右手で薙ぎ払うと消し飛んでしまう。
「はーい、おまたせー」
精霊を召喚したルーはムツヤを取り囲ませた。
この戦いは時間稼ぎが目的だ。付かず離れず一定の距離を取らせて戦わせる。
ルーの作戦は上手くいったようで、ムツヤは精霊相手に暴れまわっていた。
その隙間からヨーリィが木の杭を投げて、ささやかながら邪魔をする。
「魔法を!! とにかく打ち込め!!」
ユモトとサワは魔法を精霊の群れの中心に打ち込んだ。そこら中で爆発音が鳴り響く。
だが、時間が経つにつれて、確実に精霊の数は減っていった。
「ルー!! 精霊は追加できるか!?」
アシノが言うが、ルーは汗をびっしょりとかいて苦しそうにしていた。
「が、頑張るわ……」
精霊の群れから飛び出たムツヤが近くに居たモモに殴り掛かる。
「ムツヤ殿!!」
無力化の盾で受け止めた為、衝撃は感じなかったが、ムツヤの形相を見てモモは怯む。
ウリハが飛び出て斬りかかるが、ムツヤに払いのけられて鎧が割れ、服がはだけて吹き飛んでしまっ