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魔人と少女 2

 ミシロは強く剣を握り、まっすぐに城主を見据えた。


「よせ、やめろ!!」


「うわあああああ」


 走って目を瞑り、剣を振り下ろす。


 何かに当たる強い抵抗を感じた後はすっと剣は下りていった。


「ぐがあああああああ!!!」


 城主の声にならない叫び、太い動脈を切ったのか血が吹き出していた。もう助からないだろう。


「1分過ぎちゃったけど、おまけしてあげる」


 ラメルがくすっと笑って言った。


「キミの勝ちだよ。キミのことは見逃してあげる。今は、ね」


 崩れ落ちて呆然としているミシロの頭から言葉が降りかかる。


「私は……、私は……」


「何? あぁ、そうか。キミは死にたいんだったっけ」


 そうだ、自分には買える場所も未来も無い。こんな人生ここで終わりにしたかった。


「私はどうすれば……」


 ミシロはまた泣き始める。面倒くさそうにラメルはそれを見ていた。


「じゃあ私の部下になってよ」


 ハッと前を向く。


「私ね、この世界をメチャクチャにしたいの。手伝ってくれない?」


「世界をメチャクチャに……?」


 その言葉を口に出した瞬間、不思議と自分の中に高揚感が溢れた。


 理不尽で大嫌いなこの世界。メチャクチャにして壊したい……、壊したい!!!


「したいです。したいです!! メチャクチャに!!!」


「そう、わかったわ」




 アシノとイタヤ達はそれぞれ城への侵入へ成功した。ムツヤの居場所を求めて城内を走る。


 城内の兵や使用人には睡眠薬や魔法で眠ってもらい、3階建ての城をすみから隅まで捜索する。


 途中互いに連絡石で会話をした。


「こちらアシノ、皆さん何か手がかりはありましたか?」


「イタヤです。何もありませんね」


「ユモトです! こちらも何も……」


「ルーよ!! 何もないわねー」


 これで残すは最上階の大きな扉の先だけになった。


 皆がそこに集合し、イタヤが先頭を切って扉を開ける。


 漂ってきたのは腐敗臭だった。


「こりゃひでえな……」


 顔をしかめてイタヤが言った。きらびやかな服を着た男が斬り殺されている。


 おそらくは城主だろう。死んで数日立ったぐらいと言った所だろうか。


 部屋に入るとユモトは1回えずいたが、気丈に振る舞う。


 何か情報は無いかと調べると、開けっ放しの扉をサワが見つけた。


「皆さん、ここ!!」


「隠し扉か……」


 アシノが言ってイタヤを見ると、頷いて返した。


「全員で行くのは危険です。俺とウリハが行ってきます。サワ、中に照明弾を頼む」


「わかりました!」


 薄暗い通路が明るくなると、イタヤは扉の奥へと入っていく。


「何だここは……!?」


 隠し部屋の先は牢屋のようだ。


 それと共に置かれているのは、何に使うのか想像もしたくない、人を傷つける為だけに作られた器具たちだ。


「魔人が置いていったのか? それとも城主が……」


 ウリハが言うと圧倒されていたイタヤが我に返った。


「あぁ、どちらにせよ素晴らしい趣味をお持ちだ」


 器具はまだしも、牢は元からあったものだろう。だが、城主はもう死んでいるし、今はこの一件は置いておくことにする。


 その時、奥の牢屋からガシャリと音がする。


「誰か居るのか!?」


 イタヤが向かうと、鉄のベッドに拘束されたムツヤが居た。


「ムツヤくん!?」


 急いで駆け寄ろうとした時だった。ムツヤが鎖を引きちぎって飛び起き。


「うがああああ!!!」


 イタヤに襲いかかった。


「なっ!!」


 イタヤは剣を引き抜いて斜めに構え、ムツヤの拳を受け止めた。


 ガキィンと、まるで鉄の塊をぶつけられたような音と衝撃が走る。


「一旦引くぞ!!」


 ウリハに言われて、イタヤも隠し部屋から出た。


「ムツヤくんが、多分だが、操られている!!」


「アイツを操るとは、流石は魔人と言った所か……」


 イタヤが言うと、アシノが感心して言った。それに対してルーが騒ぐ。


「感心してる場合じゃないでしょ!! 私達じゃ止められないわよ!!」


「時間を稼ぐ」


「はぁ!?」


 アシノの言葉にルーは疑問符が浮かんだ。


「ムツヤのことだ、おそらく魔法か何かに掛かっていても、回復は早いだろう」


「そりゃそうかもしれないけど!!」


「そ、それで、どうやって時間を稼ぎますか?」


 ユモトが尋ねるとアシノは答える。


「逃げるんだよォ! ユモト!」


「やっぱりそうなるのね!!!」


 ルーが叫ぶと、みんなで部屋から逃げ出して一階まで駆け下り、外へ飛び出た。


「ムツヤはぶっ殺そうと思っても殺せる相手じゃありません。全力を出して戦いましょう!!!」


 アシノが言うと全員が返事をしてムツヤを待ち構える。


 イタヤとウリハが最前線に並び、その後ろに残りの者たちが隊列を組んだ。


「うがあああああ!!!」


 ムツヤは走りながら拳を振り上げる。


「悪いな!!」


 イタヤが光の刃をムツヤに何度も飛ばすが、全て飛び跳ねてかわされてしまう。


 1つだけ直撃しそうになったが、ムツヤが地面を足で踏むと防御壁が現れて受け止められた。


 ウリハも火の玉や光線を出し、それと共に特攻を仕掛けたが、ムツヤに傷一つ負わせられない。


「うらあああ!!」


 それどころか蹴りを食らいそうになってしまい、剣で受け止める。


 あまりの力に剣が弾かれ遠くへ飛んでしまった。


「ウリハ!!」


 イタヤは叫んでウリハの元へ向かう。それを援護するようにサワとユモトの魔法攻撃が飛んでいった。


 氷も、雷も、炎も、ムツヤが魔力を込めた右手で薙ぎ払うと消し飛んでしまう。


「はーい、おまたせー」


 精霊を召喚したルーはムツヤを取り囲ませた。


 この戦いは時間稼ぎが目的だ。付かず離れず一定の距離を取らせて戦わせる。


 ルーの作戦は上手くいったようで、ムツヤは精霊相手に暴れまわっていた。


 その隙間からヨーリィが木の杭を投げて、ささやかながら邪魔をする。


「魔法を!! とにかく打ち込め!!」


 ユモトとサワは魔法を精霊の群れの中心に打ち込んだ。そこら中で爆発音が鳴り響く。


 だが、時間が経つにつれて、確実に精霊の数は減っていった。


「ルー!! 精霊は追加できるか!?」


 アシノが言うが、ルーは汗をびっしょりとかいて苦しそうにしていた。


「が、頑張るわ……」


 精霊の群れから飛び出たムツヤが近くに居たモモに殴り掛かる。


「ムツヤ殿!!」


 無力化の盾で受け止めた為、衝撃は感じなかったが、ムツヤの形相を見てモモは怯む。


 ウリハが飛び出て斬りかかるが、ムツヤに払いのけられて鎧が割れ、服がはだけて吹き飛んでしまっ

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