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魔人の爪痕 2

 王の間から少し歩いて、勇者とその仲間たちは会議室へと通される。


「さて、皆様。魔人を倒し、お疲れの所申し訳ありませんが、魔人の残した武具への対策会議を始めます」


 近衛兵長カミトが勇者達の前で一礼して話し始めた。


「まず、国からですが、魔人の残した武具に懸賞金を掛け、同時に許可無しでの所持を禁止する命も出しました」


「なるほど、仕事が早いですね」


 イタヤが言うと、カミトは頷いて答える。


「王都に落ちたこの魔剣は、一般市民であれば触れることも出来ませんが、訓練を積んだ冒険者であれば所持することは可能でしょう」


「その様な危険な物を手にしたら何が起こるかわかりませんね」


 アシノも何も知らないと表情に出さずに話した。


「えぇ、他国や元勇者トチノハの手に渡ったらと思うと、考えただけでゾッとします」


 首を振ってカミトが言うと、サツキは凛とした顔で尋ねた。


「それで、私達はどの様に動きましょうか?」


「えぇ、そうですね。本題に入らせて頂きます。と言っても、国の議員たちで話し合った結果をお伝えするだけなのですが」


 1つ咳払いをして、カミトは続ける。


「まず、勇者サツキ様にはトチノハの動向がハッキリするまで、引き続き王都の警護をお頼みします」


「そうですか、承りました」


 また王都に留められる事に不満はあったが、サツキは了承する。


「感謝いたします。次に、勇者イタヤ様ですが、イタヤ様は冒険者からの支持が特に厚い事と、他国にも顔が利く事を議会で買われまして。各冒険者ギルドと連携を取り、魔人の残した武具の捜索、回収をお任せします」


「はい、任せて下さい」


 イタヤは胸を張って答える。


「そして、最後にアシノ様ですが、アシノ様はキエーウの壊滅と2体の魔人を討伐した実績がありますので、申し訳ありませんが、一番危険なお役目をお任せすることになってしまいます」


「一番危険と言うと?」


 アシノが聞き返すと、少し曇った表情をしてカミトが答える。


「魔人の残した武具を悪用する者が、これから確実に現れるでしょう。その者の討伐や異変の解決をお願いします」


「はい、お任せ下さい」


 アシノは内心ホッとしていた。サツキのように王都で監視をされるよりも、パーティで勝手に動ける方がムツヤの力を使いやすい。


「それでは、イタヤ様には早速ですが、遠方の地ソルトフィールドを目指して頂きます」


「ソルトフィールドとは、だいぶ国の端ですね」


 カミトより伝えられた命令にイタヤは頭をかいた。


「イタヤ様には東西南北、様々な冒険者ギルドにて、信頼できる冒険者に魔人の残した武具を回収する依頼を出して頂きたいのです」


「分かりました」


 イタヤの返事を待ち、カミトはアシノに命令を伝える。


「アシノ様にも、急ぎで申し訳ないのですが、王都の近くネザワの街に、魔人が死んだあの夜、何かが落ちたという目撃情報がありました。そして」


 カミトは少し間を置いて言う。


「その、住民が言うには、動物の様子。特に鳥の様子がおかしいという報告がありまして」


 カミトの言葉に、アシノだけでなく、全員の頭に疑問符が浮かんだ。


「鳥の様子……、ですか?」


 アシノが聞き返すと「えぇ」とカミトが返事をする。


「詳細はまだ把握しきれていないのですが、他の地域での武具達の情報が分かるまで、申し訳ありませんが調査をお願いできればと」


「わかりました。すぐ向かいましょう」


「頼もしい限りです。それでは皆様、よろしくお願いします。それと、食堂にて昼食の用意が出来ておりますので、もしよろしければお召し上がり下さい」


 腹が減っては戦はできぬと、勇者と一行は食堂に用意されたビュッフェを食べて行くことにした。


 アシノの座る席の隣に、サツキが椅子を限界まで近付けて座る。


「アシノせんぱーい!!! ほら、あーん」


 サツキはフォークに刺した生ハムとチーズをアシノの口元に運ぶが、まるで見えない壁があるかのように無視されている。


「何で無視するんですかー!? しばらく会えなくなるかもしれないのに!?」


「ちょっ、サツキいい加減にしなって!! アシノ様マジすんません!!」


 クサギに止められて、渋々サツキは持っていたフォークを自分の口に運ぶ。


 そんな賑やかなやり取りを終え、勇者イタヤとアシノは王都を後にする。




 ムツヤ達は馬車に揺られていた。少し暑いが、風通しが良いので不快感はそこまで無い。


「ネザワの街には夜ぐらいに着くだろう。それまで私達も作戦会議だ」


「えー、私もうお眠ちゃんなんだけど」


 アシノの言葉にルーがそう返してウトウトしていると、ビンのフタをパコンと額にぶつけられた。


「あだー!!!」


「これで目が覚めたか?」


「何すんのよ!!」


 騒ぐルーを無視してアシノは赤い石を馬車の壁にぶつけた。


「はいはい、こちらギルス。それで、どういう運びになったんだい?」


 アシノはギルスに城でのことをすべて話す。


「なるほどね、事態は把握したよ。それで、こっちの話なんだけど、探知盤の連結は上々だよ」


 ギルスはニコニコ笑顔で言っていた。研究者として生き生きしとている。


「早速だけど、南に裏の道具が2個落ちているから、そっちの探知盤でも確認して街へ向かう途中で回収よろしく」


 ユモトが探知盤を操作すると、確かに裏の道具の反応が2つあった。


「わかった。それでムツヤ、お前に聞きたいんだが、動物……、鳥を凶暴化させる道具はあるのか?」


 眠り掛けてたムツヤがハッとして言葉を返す。


「あ、はい!! モンスターを暴れさせる杖ならありまじだ!!」


「誰かがその杖とやらを使ってイタズラでもしてるって所か」


「だけど、まだその杖だと決まったわけではないね。他の裏の道具の仕業かもしれない」


 腕を組んでギルスが言った。


「裏の道具は、本当に使い方によってはどんな事でも出来ちゃうからね」


「そういや、研究の方はどうなってんだ?」


 アシノに聞かれるが、ギルスは両手を上げて答える。


「それがぜーんぜん。この世界の法則は当たり前のように通用しないものばっかりだよ」

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