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魔人の爪痕 3

「まったく、使えない助手ね!!」


 ギルスがお手上げしていると、ルーが悪態をつく。


「そんな事言われてもな、こっちだって慎重なんだよ。下手したら災厄の壺みたいに世界を滅ぼしかねない物もあるかもしれないしな」


 そんな会話が終わり、一行は裏の道具の反応を目指して馬車を進めた。


「この森の中みたいだな」


 アシノが言うと、皆で馬車を降りて探索を開始する。途中で襲いかかってきたクマ型の大きな魔物はムツヤがビンタして吹き飛ばした。


「あ、これですか!?」


 ユモトが探知盤と照らし合わせて、銅色の棍棒を指差す。


「そうでずね! 塔で見たことがありまず!!」


「ちなみにムツヤ、そいつはどんな武器なんだ?」


 アシノに聞かれ、ムツヤはうーんと思い出して答える。


「確か、メチャクチャ軽かっただけだと思いまず」


「私、持ってみて良い?」


 ルーが言って棍棒を持ち上げた。まるで木の枝のような軽さのそれは、小柄なルーでも振り回せる代物だ。


「ふーん、確かに見た目に反してすっごく軽いけど」


 何気なしにルーは棍棒で木を叩いてみた。すると、その瞬間。叩かれた場所を中心に木は横に亀裂が入り、倒れた。それと同時に軽いめまいがルーを襲う。


「あ、あー……。こりゃ凄いわね。体内の魔力を破壊エネルギーに回しているみたい」


 不意に大量の魔力を奪われたルーだが、そこは上級の冒険者らしく倒れることはなかった。


 近くにあったもう1つの道具も回収に向かう。そこにあったのは、箱から長い管が伸びている見たことも無い道具だ。


「ムツヤっち、ナニコレ?」


「あぁ、それは箱を背負って使うんですよ」


 ルーは早速「よいしょ」っと言って箱を背負う。中々な重さがあった。


「それで、この先を持って、ここを引くんです」


 管の先端にはクロスボウのような引き金が付いている。ルーは言われた通りに先端を仲間と反対側に向けて引き金に指をかける。


「裏の道具の効果かしら、何だかこうテンションが上がるわね、ヒャッハーって感じ?」


「何を意味わからない事言ってんだ」


 ルーが引き金を引くと、管の先端から炎が吹き出し始めた。放物線を描いて20メートル先にまで炎が飛び散る。


「って馬鹿!! 火事でも起こすつもりか!! こんな危ねー道具なら先に言え!!」


「あ、すみまぜんでじだ!!」


 ムツヤは当たり前のように無詠唱で水を天空に打ち上げ、雨を降らす。火は消化され、裏の道具はカバンに回収された。


「さて、ここいら辺の裏の道具は回収できたし、ネザワの街へ向かうか」


 しばらくして、ムツヤ達は目的の街が目前となった頃。


「!! 何か来ます!!」


 ムツヤが声を上げると同時に馬車めがけて鳥が突っ込んできた。1羽だけだったら、マヌケな鳥かもしれないが、数十羽はいる。


「こ、これは!?」


 モモはこちらに向かってくる大群に驚く。飛び出たムツヤが防御壁を貼ると、次々と激突してくる。並の冒険者の防御壁だったら破られていただろう。


「これが噂の凶暴化した鳥ってやつか!?」


「わかんないけど、多分そうじゃない?」


 馬車を止め、皆が応戦状態に入る。すると、鳥達は空高く飛び上がって……。


「何かしら、雨……? ってイヤー!!!」


 ルーの悲鳴が聞こえる。何と鳥達は空からフンを撒き散らし始めた。ムツヤは常人離れした動きで全部避けていたが、仲間たちはフンまみれになってしまう。


 ムツヤが上空に火柱を打ち上げると、鳥は何処かへ飛び去ってしまった。


「大丈夫でずか!?」


「大丈夫じゃなーい!!!」


 ルーが地団駄を踏みながら叫んでいる。


「最悪だ……」


 アシノもそう一言漏らして自分の体を見ていた。


「うぅ……」


 ユモトも真っ白なローブを汚され涙目だ。


「鳥は去っていきましたが……」


 はぁっとモモはため息をつく。ヨーリィは無表情のまま突っ立っていた。


「うぅ、私、穢された、穢されちゃったわ……」


 そんな事をルーは言っていた。馬車の中を汚すわけにはいかないので、フンまみれのお葬式ムードの中、歩いて一行は近くの川に向かう。


 流石にこのままの姿で街には入りたくなかった。


「何で水浴びなんかしなくちゃいけないのかしら。まだ外が暑いからいいけど」


 プンプンと怒りながら、当たり前のように服を脱ごうとするルーをユモトが止める。


「ちょっと、ルーさん!! せめて隠れてからにしてくださいよ!!」


「えーだって、気持ち悪いからすぐ脱ぎたいんだけど」


「待ってろ痴女。ムツヤ、着替えと水着を出してくれ」


「わがりまじだ!!」


 ムツヤは替えの服と、海で着ていた水着をカバンから取り出す。


「あー、後は石鹸も出してムツヤっち」


 何でも揃ってるムツヤのカバンのお陰で、何とか体を洗うことが出来そうだ。


「うー、ちべたい……。ヨーリィちゃんこっちおいでー、洗ったげるから」


 川に足先を入れたルーはそんな事を言いながら、体を石鹸で洗い始めた。


 ユモトは体を洗い終えると、皆の服の洗濯を始める。モモも鎧にこびり付いた汚れをブラシで落としていた。


 服も枯れ葉で出来ているヨーリィと、魔力を通せば服が乾くローブのユモトはいつも通りの格好に戻る。


「ただ待ってるのもアレだし、私達でお昼の用意でもしましょうか」


「いや、お前は抜きだ、私が作る。お前は雑草でもちぎって遊んでろ」


 ルーの提案を却下して、アシノは焚き火の用意を始めた。


「何でよー!!!」


「体中糞まみれにされて、その上糞まずい料理を食いたくない」


 アシノが冷淡に言うと、ルーは顔を赤くして悔しそうな表情を作る。


「むううう!!! アシノが酷いこと言った!!!」


「ムツヤ、適当に肉を出してくれ、焼いて食うぞ」


「わがりまじだ」


 ムツヤは裏ダンジョンのモンスターの謎肉を出して焼き始めた。ルーはいじけて雑草をちぎる。


 洗濯が終わったユモトとモモも合流すると、皆で謎肉を食べてまたネザワの街を目指す。


 水に浸かったことで、皆ウトウトしていると、あっという間に着いてしまった。


「お、見えてきたな」


 アシノが言うと、皆外を見る。何てことはない普通の街だったが、王都の近くのためか、そこそこ近代的な建物が多い。


「ユモト、探知盤の反応はあるか?」


「はい、街の中にあるみたいです」


「そうか、分かった」


「で、作戦はどうするのよ勇者様?」


 ルーに聞かれ、アシノは答えた。


「まずは情報を集める。この裏の道具持ちは、恐らくだが道具を悪用する人間だろう。正面からぶつかる事はしたくない」


「はぁーい、了解了解」


 街に着いて、衛兵にアシノが挨拶をすると「お待ちしておりました」と言われ、街へ通される。


 早速街の冒険者ギルドへ向かい、情報を集めることにした。


「アシノ様、お待ちしておりました」


 ギルドマスターが直々にやって来て、応接室に案内される。


「それで、鳥が凶暴化しているという話ですが」


 アシノが聞くと「えぇ」と言ってギルドマスターが話し始める。


「鳩のような鳥がここ数日現れて、住民に襲いかかるようになりました」


「実は私達もこの街へ来る途中襲われまして」


「何と、そうでしたか……」


 ギルドマスターは目を瞑ってうーんと唸る。


「我々も調査を進めます。何か分かった事がありましたらご報告致します」


 これ以上は情報が得られなさそうなのでアシノは早々に冒険者ギルドを出ることにした。

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