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魔人の爪痕 4

「さて、それじゃ探知盤の反応をたどって、さっさと回収しちまうか」


「はい、そうですね!」


 アシノの言葉にユモトは返事をし、皆で裏の道具の反応へと近付く。


 そんな時だった。街に警鐘が鳴り響く。


「これは……」


 モモは周りを見渡した。遠くから鳥が向かってくるのが見える。


「鳥が来でますね」


 ムツヤの言葉に緊張が走る。そして、ユモトも声を上げた。


「あ、探知盤の反応が動いていきます!」


「そうか、急いで回収しちまうぞ!!」


 探知盤の反応は街の外へと向かっていく。ムツヤ達もそれを追って街の外へと急いだ。





 街の衛兵や、冒険者が街の外には集まっていた。鳥から街を守るために戦闘が始まる。


 鳥が冒険者に突撃した。盾で弾いたが、鳥とは思えない衝撃で後ろに倒れてしまう。


 衛兵も冒険者も、剣や槍を振るうが、すばしっこい鳥に攻撃を当てることが出来ず、中々苦戦を強いられていた。


「お待たせしました、皆さん」


 そんな中、男が一人現れた。戦闘に見合わないスーツのような服に、シルクハットを被っている。


「あ、ジョンさんだ!! ジョンさんが来たぞー!!!」


 そんな声と共に歓声が上がる。鳥が集団でジョンと呼ばれた男に襲いかかる。


「出るか、ジョンさんの48の鳥殺しが!!」


 ジョンは短剣を構え、次々に鳥を切り裂いていく。


「出たぁ!! 48の鳥殺し『華麗なるお造り』だ!!」


 冒険者の間ではジョンコールが巻き起こる。そんな光景を、遅れてやって来たアシノ達は見ていた。


「なんだあれ……」


 開口一番アシノが言ったのはそれだった。


「なんか知らないけど、腕の立つ冒険者がいるみたいね」


 ルーはそんな事を言いながら精霊召喚の準備を始める。


 そこで、一人の冒険者がアシノに気付いてこちらを指さして来た。


「あ、あれは!? あの赤髪もしかして!!」


 はぁっとため息を付いた後にアシノ達は前線に出る。


「アシノ・イオノンです。皆さん、ここは我々が引き受けます」


「うおおおお!!! 勇者アシノ様だー!!」


 ジョンコールは止んで、皆、アシノの登場に興奮していた。


 アシノは地面を踏んで魔法を使うフリをした。近くに居たムツヤがそれに合わせ無詠唱で土の弾丸を鳥の集団に飛ばす。


 上空を飛ぶ鳥達は次々と落下していき、消えていく。


「す、すげぇ、これが勇者の実力なのか……」


 モモは近づいてくる鳥を斬り捨て、ユモトは空に雷を打ち上げていた。


(こいつら、成長が早いな)


 アシノはそんな事を思うとふっと笑う。ヨーリィは近付く鳥をナイフで刺し、その合間に木の杭を投げていた。


「あらー、私の出番無いかしら」


 精霊を召喚させて待機しているルーがそんな事を言いながら空を見上げる。


 次の瞬間。鳥の集団はジョン向かって急降下してきた。


「あぁ、ジョンさん危ねぇ!!」


 だが、ジョンは微動だにせず、短剣で鳥達を処理していった。


「うおおおお!!! ジョンさんすげぇ!!!」


 アシノ達は無視してジョンにばかり鳥は向かっていく。結構な実力者のようなのでアシノは手出しせずにそれを見ていた。


(鳥の消え方がおかしいな、魔物の消え方じゃない)


 鳥を観察していたアシノが疑問を持った。魔物は完全に煙となって消えるか、そうでなくてもツノや爪、鱗など体の一部を残していくのが普通だ。


 この襲い来る鳥は、キラキラと輝いて消えていく。もしやと思いアシノはユモトに近付いた。


「ユモト、探知盤を見せてみろ」


「え? あっはい!」


 取り出した探知盤を見ると、かなり近くに裏の道具の反応があった。その方向には。


「もしかして、アイツ……」


 謎のヘンテコ男、ジョンが居る。鳥は完全に男に集中し、皆の視線もそちらに向かっていた。


「おい、お前ら集合!!」


 アシノの掛け声で、ムツヤ達は集合し、探知盤を覗く。


「どうも、あのジョンって男が怪しいみたいなんだ」


「え、でもあの人は鳥と戦っでまずよ?」


 ムツヤの言うことはその通りだったのだが、ルーが言う。


「もしかして、自作自演ってやつ?」


「あぁ、目的はわからんが多分な」


「ですが、杖らしき物は持っていませんよ?」


 モモの言葉にアシノは頷いて返す。


「杖と決まっているわけではない。他の裏の道具を使っているかもしれん。ムツヤ、心当たりは?」


「えーっど、すいまぜん。わからないでず……」


「そうか……」


 そんな時、民衆や冒険者たちから歓声が上がった。


「うおおおお!!! ジョンさんが鳥を殲滅しちまったぞ!!!」


「何も知らないフリをして、アイツに近付こう。監視して裏の道具を取り上げる」


 アシノの言葉に皆が了承の返事をする。早速アシノはジョンのもとまで歩み寄った。


「ジョンさん……、でよろしいでしょうか? 見事な戦いぶり感服いたしました」


「これはこれは、勇者アシノ様。私などまだまだ未熟です」


 ジョンは礼儀正しく会釈をして言葉を返す。


「ご謙遜を……。ジョンさんのお耳にも入っているやもしれませんが、私達は『魔人の残した武具』を回収しておりまして」


「えぇ、冒険者ギルドから発表がありましたね」


「今回の鳥の騒動。もしかしたら、その件が関わっているかと思いまして。何か存じ上げませんか?」


 その話題をいきなりぶつけられ、ジョンの目が泳いだことをアシノは見逃さなかった。


「いえ、ここ数日の内にこの鳥達は現れたもので、私も何も……」


「そうですか」


 アシノはわざとらしく、残念そうな顔をする。


「私でも、何か分かったことがありましたら、ご報告させて頂きます」


「よろしくお願いします。では」


 そう言ってアシノはジョンに背を向けて仲間達と歩き出す。

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