鳥を呼び出すジョンのシルクハットを取り戻した後も、ムツヤ達は散らばった裏の道具を数個回収して、探知盤の石を埋めている。
「今日はユモトちゃんがナンパされてデートしちゃった宿場町でお泊りしましょうよ!」
ユモトは恥ずかしい過去を言われてしまいあわあわとしている。
「あ、あれは違うんです!!」
「はいはい、わかったわかった」
楽しそうな荷台の会話を聞いてモモはクスクスと笑っていた。隣にはヨーリィが座っている。
なんと言うか、ヨーリィは何を考えているのか未だにわからないが、自由で、動物に例えるなら気ままな猫みたいだなとモモは思っていた。
途中で運転をムツヤに変わってもらいながら、宿場町に着く。
流石に人を泊めることを生業としている街なだけあって、夕暮れの後も賑やかだった。
適当な宿屋に予約を取り、部屋に集まるとルーが何か企んだ笑顔で提案をする。
「もうキエーウも魔人も居ないことだし? 今日の夜は自由行動って感じでどうかしら?」
なるほど、悪くない提案だとアシノは思った。たまには羽根を伸ばすことも必要だ。
「大丈夫ですか? 危険では?」
モモが言うと、アシノは答える。
「まだキエーウの残党は居るかもしれんが、強襲出来る範囲に裏の道具持ちは居ないし、裏の道具持ちじゃなければお前達と衛兵でどうとでもなるだろう」
そういう事でしたらとモモは納得した。
「まぁ、その前に連絡でも入れておくか」
遠距離用の連絡石で、人を映し出す赤い玉が使えるか確認を取ると、すぐに返事が来たので、いつも通り壁にぶつける。
「だからー、アシノ先輩連絡は毎日って言ってるじゃないですか!!」
「うっさい。そっちはどうなんだ?」
サツキに呆れながらアシノは話す。
「そうですねー、王都では魔人の残した武具の噂でいっぱいですね。国からはそれらを隠して所持した場合投獄、最悪処刑と重い罰になることが決まりました」
「まぁ、そうして貰った方が今の所はありがたいな」
「それで、魔人の残した武具は冒険者ギルドでの回収が始まっていて、一つ二十万バレシと交換らしいです」
翼竜の討伐で百万バレシ、それも何十人規模で行って死ぬ危険もあり、報酬は分配ということを考えると、道具一つでその値段は破格だ。
「私もアシノ先輩と一緒に冒険したいです!! 暇なんですもん!!」
「はいはい、それじゃあな」
「ちょ、ちょっとま」
アシノが赤い石を剥がすと、サツキの声は途切れてしまった。次はイタヤだ。
「おーアシノさん。どうもどうも」
「冒険者ギルドや冒険者たちの様子はどうですか?」
「そうだなー。皆、魔人の残した武具を見つけて一発当ててやろうと意気込んでるよ」
「それは良かったです。今の所どの様な裏の道具を回収しました?」
アシノが聞くと、イタヤはうーんと言って思い出す。
「物凄く重くなる剣や、どこまでも伸びる槍、無詠唱で最大級の雷魔法を打てる杖なんかもありましたね」
「そうですか、引き続きよろしくお願いします」
「かしこまり!!」
他の勇者達との会話を終えて、アシノは「さて」っと言い部屋を見渡す。
「それじゃあ私とモモちゃんのお酒つよつよさんチームはたくさん飲みに行きましょう!!」
名前を呼ばれてモモは驚く。
「え、私ですか?」
「何? モモちゃん嫌なの? 私じゃダメなの!?」
ルーは潤んだ瞳でモモを見つめていた。
「い、いえ、そういうわけでは……」
「やっぱムツヤっちの方が良いってわけ!? 私は遊びだったのね!!」
そんな調子で騒ぎ出してモモは思わずあたふたとする。
「そ、そういうわけではありませんルー殿!! っていうか遊びってなんですか!?」
「モモ、だからソイツの言うことはまともに取り合うな」
見かねたアシノがため息交じりに言う。
「やー!!」
子供のように駄々こねるルーに、モモは言った。
「わかりました、ルー殿。お付き合いします」
「やったー!!! アシノはお酒よわよわさんチームだからどっかで飲んでてね」
「聞き捨てならんな……。いつ出発する? 私も同行する」
アシノの言葉にルーは思い切りバカにした顔をする。
「お酒弱いのに無理して大丈夫でちゅかー?」
「うるせぇ!!」
アシノがルーの頭をひっぱたくと「ぶべらっ」と言って縮こまった。
「私は留守番している」
「んー、ヨーリィちゃん連れて行きたい所なんだけど……。この街、夜に子供が歩いていると衛兵がうるさいから……。ごめんね!!!」
「気にしないで」
「お土産いっぱい買ってくるからねー!!!」
そう言ってルーはヨーリィを抱きしめた。無表情のままグラグラと揺られている。
モモとルー、アシノは夜の街へ消えていき、残ったムツヤとユモトはどうしようかと考えていた。
「僕達もせっかく街に来たんですし、どこか観光でもしましょうよ!」
ユモトが珍しく積極的に誘ってきたので、ムツヤも乗り気になる。
「そうでずね!! ヨーリィ行ってくるね」
「いってらっしゃい」
こうして2人は街を観光することにした。夜だと言うのに人がたくさん歩いていて活気がある。
しばらく歩くとユモトがムツヤに話しかけた。
「何だか人が多くて疲れちゃいますねー」
「そうですね、人が少ない所にでも行きましょうか」
そうして2人は路地裏に入る。抜けた先も明るかったが、何だか雰囲気が違う感じがした。なんと言うか、照明がピンク色だらけだ。
「おにいさーん、お店どうですかー?」
突然声を掛けられてムツヤはビクッとした。振り返ると正装をした男がいた。