「え、俺ですか?」
「そう、お兄さん。ってもしかしてデート中?」
隣のユモトを見て残念そうに客引きは言った。
「で、デートって!! 僕は男です!!」
「えぇっ!? 失礼しました!!」
客引きはそう謝ると、笑顔を作って話を始める。
「ねぇ、お兄さんたち。女の子と飲めるお店どうですか?」
「女の子と飲める?」
ムツヤが聞き返すと「そうです」と言ってごますりをした。すると、店から女が二人やって来る。
「お兄さん達飲んでってよー!!」
そんな時に、見知らぬエルフの男がやって来てムツヤ達に声を掛けた。
「おー、お待たせ2人ともー。悪いね、この2人俺のツレでもう店決まってんだ、後で来るから」
そして、ユモトの腕を引っ張って連れて行く。
「え、ちょっ!!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
ムツヤは連れられていくユモトを追いかける。後ろでは女達が舌打ちしていた。
先ほどの客引きと女達から見えない場所まで来てエルフの男はユモトの手を離した。
「いやー、危なかったねー」
男はヘラヘラ笑いながらムツヤ達に言う。
「あ、あなたは何なんですか!? それに危なかったって……」
「君たち、こういう場所初めてだろ? あぁいう女が客引きしてたり、店から出てくる店は、ほぼ100%ボッタクリの店だと思って良い」
「そうなんでずか!?」
ムツヤは驚いて言う。すると男はウンウンと頷いた。
「いや、酔っぱらいが連れられていくのならまだしも、君達みたいな若人が騙されるのは見てられなくてねー」
「そうなんですか、ありがとうございました」
ユモトは頭を下げて礼を言った。
「もし良かったら。奢りはしないが、俺のオススメの店を紹介してあげようか? 可愛い子いっぱいいるよ!!」
「か、可愛い子ですか。僕そういうお店はちょっと……」
「まーまー、こうして出会ったのも何かの縁!! 社会勉強だと思って」
こうして男に言われるがまま2人は付いて行ってしまった。その先にあったのは先ほどの店よりは少し落ち着いた感じのする店だ。
こうして男に言われるがまま二人は付いて行ってしまった。その先にあったのは先ほどの店よりは少し落ち着いた感じのする店だ。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
ボーイが二人を見て頭を下げる。案内したエルフの男はいつの間にか居なくなっていた。
「あ、あの、やっぱり辞めましょうムツヤさん!!」
小声でユモトは言うが、店に入ってしまったので、仕方なくボーイの後を付いていく。
「お客様ご案内でーす!!」
「いらっしゃいませー!!」
ムツヤとユモトはキョロキョロ辺りを見回した。どの席でも男と美女が酒を飲んでいた。
「こちらのお席にどうぞ」
心臓をどくどくとさせながら、座って待っていると、ボーイが美女を二人連れてきた。
「こんばんはー、サクラでーす」
「カオリでーす」
挨拶をするなり美女二人はムツヤとユモトの隣に座る。
「あ、俺、わたじはムツヤ・バックカントリーです!!」
「え、あ、ユモト・サンドパイルです!!」
顔を赤くしながらムツヤ達は自己紹介をする。
「ムツヤさんとユモトさんですねー、もしかしてこういうお店初めてですかー?」
「え、あ、はい!!」
ユモトが返事をするとクスクスと美女たちは笑う。
「えー、かわいいー!!」
そう言ってユモトの隣に座るサクラは距離を詰めた。ユモトは思わず顔が赤くなる。
「っていうかユモトさん? だよね、ほんと可愛い顔してるー!!」
「か、可愛くなんて…… ないです……」
「ムツヤさん筋肉すごーい、冒険者?」
カオリという女性はムツヤの腕を触って言う。思わずムツヤも照れていた。
「え、えっと、冒険者でず!!」
「すごーい!! そうだ、お酒は何飲みます?」
「え、えーっと、甘いやつで」
「お酒は甘いのが好きなんですねー」
「は、はい」
2人はガチガチに緊張していた。それを知ってか知らずかキャストの女性のボディタッチは多めだ。
「私達もお酒飲んでいいですかー?」
「え、あ、も、もちろんです!!」
「ありがとうございまーす。それじゃ乾杯ですね!」
ムツヤとユモトは目の前に出されたピンク色の酒を手に持って掲げる。
「かんぱーい!」
「か、かんぱい!!」
焦りをごまかすように酒を飲んだ、甘いフルーティな酒で、飲みやすかった。
「ムツヤさん強そー、いつか勇者になって世界を救っちゃったりしそう!!」
「そんな世界を救うなんてできないでずよ」
冗談にムツヤは笑ってしまう。相手は会話のプロであり、緊張も少し溶けてきていた。
「それでぇー、ムツヤさんはしゅごいんれすよぉー」
「ユモトさんのがしゅごいれすよぉー」
数杯酒を飲んだだけで2人はすっかり出来上がっていた。
「うんうん、すごいのねー」
キャストの女性はそう言って2人の頭を撫でている。
「ほら、お水飲んでね」
「いただきらす!!」
ムツヤは一気に水を飲み干すとソファにドカッと座った。
「うーん、二人共飲みすぎちゃったかな?」
「そうれすねぇ、飲みすぎちゃったかもしれません」
「ほら、フルーツ食べて、お水飲んで」
「いただきらす!!」
ユモトはぶどうをもにゅもにゅと食べて水を飲んだ。
「まだ時間あるけど、これ以上酔っ払ったら仲間の人達が心配しちゃうかもね」
「はい、ずみまぜん、帰りまず!!」
「うんうん、また来てねー! お客様お帰りでーす」
ムツヤとユモトは一緒に飲んでいた女性陣に寄り添われて店を後にした。
良心的な店らしく、ボッタクられることもなく無事に帰って気持ちよく熟睡できる。そう考えていたが……。
2人は酔ったままなんとか宿屋へと向かう途中でばったりとモモ達に出くわした。
「ムツヤ殿!? それにユモトも、偶然ですね」
「ももしゃーん、どうもー」
「あらー、だいぶ酔っちゃってるわね」
ケラケラとルーが笑っていると、心配そうにモモは近づく。
「大丈夫ですか? 青い薬を飲まれたほうが……」
次の瞬間、モモは何かを二人から感じ取った。女物の香水の香りだ。
「……ムツヤ殿、ユモト? どこで飲まれていたのですか?」
顔は笑っているが目が据わっている。ユモトは危機を察知した。
「え、えーっとですね」
「女の人が居るお店で飲んでましたー」
あ、しまったとユモトは思う。
「へぇー、そうですか……。それは良かったですねぇ」
モモは近づいて、両手でムツヤのほっぺをつまんで引っ張った。
「いらい、いらいですモモしゃん!!」
「あらら、モモちゃんも結構酔ってる?」
「酔い醒ましですよムツヤ殿!!」
そんなやり取りをやれやれとアシノは眺めていた。街の夜はこうして終わっていく。
朝になり、ユモトとムツヤは目が覚めた。酔いで昨日のことはあまり覚えていないが、何だかほっぺたが痛い気がした。
ヨーリィは勝手にムツヤの隣に寝て手を繋ぎ、魔力を補給している。
「おはようございます、ムツヤさんヨーリィちゃん」
「おはようございまず」
「おはよう、ユモトお姉ちゃん」
「だからお姉ちゃんじゃないからね?」
いつもの様なやり取りをして部屋を出た。ロビーには女性陣が集まって紅茶を飲んでいる。
「おそいぞー、女性を待たせるなんてなっとらんな君達は」
ルーがそう言って怒った風を装っていたが、その裏ですました顔をしているモモの方が何故か怖く見えた。
「あのー、みなさんおはようございまず」
「ムツヤ、ゆうべはお楽しみでしたね」
アシノが言うとムツヤは頭に疑問符が浮かんだ。
「あー、昨日は確かに楽しかったです!!」
「お前は……」
こいつは皮肉も分からんのかと思い、モモの方を見ると無表情で紅茶を飲んでいる。
「む、ムツヤさん、とにかくモモさんに謝って!!」
「え、俺ですか!?」
「僕も一緒に謝りますから!!」
ユモトに言われてムツヤはモモの元へと歩いて頭を下げる。
「モモさん、俺また何かやっちゃったみたいで……。すいまぜんでじだ!!」
「別に、怒ってなどいませんよ」
この場にいる全員が嘘だと思った。
「モモさん、昨日はつい、男の人について行っちゃってその……」
「良いんだユモト、それよりギルスから連絡が入っている」
モモの機嫌は時間が解決してくれるのを待つしかなさそうだ。