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サンライトレジェンド 2

 サンライト地方の端っこに裏の道具の反応があった。


「ムツヤっち、千里眼で見えるー?」


 ルーが言うと、うーんうーんとムツヤは言う。


「木と生き物の反応が多くて見づらいでずね」


 この地は自然豊かで、多くの生き物と魔物が居る。何度か魔物の襲撃に会ったが、全部ムツヤが馬車の中から投石で倒してしまった。


「近付いて確認するしか無いってわけか、面倒だな」


 街道から離れた森の中に反応があるので、馬車を停めて一行は道なき道を歩く。


 森の中は慣れているムツヤとヨーリィ、モモはすいすいと進んでいくが、残りのメンバーは歩きにくそうだった。


「森林浴とか、森の癒やしがーなんて言う人いるけど、虫は多いし、歩きづらいし、私は街のほうが良いわね」


 はぁーっとため息を付いて言うルー。


「文句言うな、行くぞ」


 だが、アシノは口ではそう言ったものの、ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力と引き換えに体力まで奪われているので、疲労は感じていた。


「探知盤の反応だと、この近くですね」


 ユモトの言う通り、反応は目の前にあった。対象は今も移動をしている。


「あ、あれでず!!」


 ムツヤが言って指さした先には。


「あらー、可愛いお猿さん!! って、お猿さん!?」


 三匹の猿が居た。サンライト地方には猿も住んでいるので珍しい訳では無いが。


「何というか……。ぬいぐるみ、いや、陶器の作り物でしょうか?」


 誰が見ても分かるぐらい作り物の猿達は仲良く歩いている。


「何だあれは……。ムツヤ、アレは誰かが操作しているのか!?」


「いえ、アレは置いておくだけで」


 アシノはムツヤの言葉を途中から聞き取ることが出来なくなった。音がプツリと途絶えてしまったのだ。


 どうやら皆がその状況に陥ったらしく。驚いた顔で辺りを見回す。


 すると、三匹の猿のウチの一匹が耳を塞いでこちらを見ていた。


 ムツヤが駆け出して猿を捕まえようとすると。


 次は目の前が真っ暗になった。代わりに耳には音が戻る。


「ムツヤ、アレは何だ!?」


「はい、あの猿を見ると、耳が聞こえなくなったり、話せなくなったり、見えなくなったりするんでず!!」


「何よそれ!? あーん、何も見えないー!!!」


 ムツヤ達は何も見えないまま右往左往している。そして、ふと目が見えるようになったと思ったら、猿はどこかに消えてしまっていた。


「自立している裏の道具か、厄介だな……」


 アシノは額を抑えて言う。そして、ムツヤに尋ねた。


「ムツヤ、お前なら目が見えなくても猿の気配ぐらい分かるだろ」


「いえ、見えなくなると猿の気配まで分からなくなるんでず。すみまぜん!!」


「マジか……」


 こうしている間にも猿は移動を続けている。今は探知盤を見ながら後を追うしか無かった。


「お猿さん待ちなさい!!」


 召喚した精霊にルーは飛び乗ってムツヤと共に猿を追う。今度は口を塞いだ。


(なにこれ!! 話せないし、精霊に命令も出来ない!!)


 ルーは戸惑いを隠せなかった。ムツヤが剣を引き抜いて、猿を壊そうとするも、次は目を塞がれる。


「ムツヤっちストップ!! 一旦作戦を考えましょう」


「わがりまじだ!!」


 仲間達と合流して態勢を立て直すことにする。


「お猿さんを捕まえるには、やっぱ餌で釣るのが一番よ!! ムツヤっち、バナナ出して!!」


「はい!!」


 カバンからバナナを取り出し、ルーに渡す。すると、そのバナナを食べ始めた。


「って、お前が食ってどうする!!」


「だって疲れてお腹すいたんだもん!!」


 アシノは呆れた後に、猿について気付いたことを話す。


「思うに、あの猿は一度に目・耳・口の一か所しか塞ぐことが出来ないみたいだな」


「そうね、一番厄介なのは目かしら?」


「そうすると、どう捕まえたものですかね」


 モモが言うと、アシノがうーんと唸る。


「やはり、現状で一番いいのは罠を仕掛けて捕まえることだと思う。それか、皆で囲んで一斉に捕まえに行くかだな」


「あの猿って、バナナ……。っていうか、餌を食べるんでしょうか?」


 ユモトが疑問を口にするが、アシノはバナナを握りしめて歩く。


「分からんが、やってみる価値はあるだろう」


 一行は探知盤を見ながら猿の行く道の先回りをした。そしてバナナを仕掛ける。


「奴らがバナナを食べる。もしくは興味を持って立ち止まったら一斉に仕掛けるぞ」


 バナナを中心にして皆でぐるりと取り囲む。猿がやって来た。


 アシノの思惑通り、食べはしなかったが、猿達はバナナに興味を持って立ち止まる。


「今だ!!」


 猿目掛けて魔法の雷と氷柱が、木の杭とワインボトルのフタがスッポーンと一斉に飛ぶ。猿は慌てて口を塞いだ。


 すると魔法はコントロールを失ってバラバラに飛んでいってしまう。


 だが、木の杭とフタは命中し、猿が怯む。


 ムツヤとヨーリィが飛び出して猿を捕まえようとするが、目を塞がれ視界と気配を奪われる。


「捕まえだ!!」


 何かを捕まえ声を上げるムツヤだったが。


「お兄ちゃん、それ私」


 思いっきりヨーリィを抱きしめていた。


「あ、ごめんヨーリィ!! こっちか!?」


「ひゃあ!!」


 次はユモトに抱きついてしまう。そして。


「あっ!! む、ムツヤ殿ですか!?」


 モモにも抱きついた。そこで視界が開ける。


「ムツヤ、何やってんだお前ェっ!!!」 


「イチャつくのは良いけど、今は我慢してよねー」


 アシノとルーに言われてモモは顔を赤くする。


「ち、ちがっ」


「モモさんずみまぜんでじだ!!!」

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