キヌの探知盤を貸してくれという提案を聞いて、アシノははぁーっとため息を付いた。
「出来るわけがないだろう。テロリストに裏の道具を渡すわけにはいかない」
「我々が回収した裏の道具は全てお返しすると約束しましょう」
ここに来てネックが口を開く。モモは父をじっと見つめた。
「今は非常事態です。人間にも、亜人にとっても」
トチノハの言葉に皆が黙る。先程のオオムカデの様な存在が出てきてしまうかもしれない今は、なりふり構っていられない状況である事は確かだ。
「信用ならない」
アシノが静寂を破る。
「信用していただけませんか? 私は勇者という立場に誓って裏の道具の悪用はしません」
「アシノ……」
トチノハの台詞を聞いて、ルーが心配そうにアシノを見た。
「……、時間を貰う。ウチの軍師様や他の勇者と話がしたい。ムツヤ、ギルスに連絡を入れろ」
「わがりまじだ!」
ムツヤは赤い玉を取り出して木にぶつける。すると探知盤を眺めているギルスが現れた。
「おー、皆どうし……」
言葉はそこで止まる。
「勇者トチノハ!? 何だ、どういう状況だ!?」
その間、他の勇者にも長距離用の連絡石で赤い玉を使える状況か連絡を取り、大丈夫なようなのでムツヤは赤い玉を追加で2つ割った。
「アシノさん、連絡ってのは……。トチノハ!?」
「先輩、昼間から連絡したいなんて私のこと恋しくな……、何故あなたが!?」
アシノは簡単に現状を説明する。大体伝わった後でギルスは話し始めた。
「勇者トチノハ、あなたは国を裏切った。信用は出来ない。だが、あなたの言う通り、裏の道具の悪用も恐い」
そこまで言った後、続ける。
「交換条件を俺は推したい。探知盤を渡す代わりに、あなた方の行動は毎日報告してもらう」
「そういう事でしたら、お安い御用です」
キヌが答え、ギルスは真面目な顔をし、脅すように言う。
「裏の道具はこちらの巨大探知盤で監視をしています。もし虚偽の報告や、怪しい点があったら、ムツヤくんの出番になりますね」
「おぉ、それは恐い」
わざとらしく両手を上げてキヌは言った。トチノハはフッと笑う。
「わかりました。魔力妨害の呪文は解いておきますよ」
「他の勇者の皆さんは何かご意見はありますか?」
ギルスが言うと、イタヤは話す。
「アシノさん達がそれで良いってんなら俺は良いと思う。変にトチノハの居場所が分からなくなるよりもな」
それに続いて言うのはサツキだ。
「私も、状況が状況ですし、信用ならないという気持ちはありますが、アシノ先輩にお任せします」
「分かった。この一件が落ち着くまで停戦協定と行こうじゃないか。ムツヤ、探知盤を」
ムツヤは探知盤と遠距離用の連絡石を取り出し、トチノハへと渡す。
「信じてくれてありがとう」
受け取ったトチノハはムツヤ達に言う。そこでキヌが気まずそうに話す。
「あー、それで使い方も教えてもらえたら嬉しいんだけど……」
「そ、それじゃ僕が……」
ユモトが名乗りを上げ、探知盤の操作を教えることにした。その間待たされるネックは娘に話しかける。
「モモ、元気にやっているか?」
「父上……」
あれほど会いたくて仕方が無かったのに、何を話せば良いのか分からなかった。
「王都ではみっともない所を見せて済まなかったな」
そう詫びを入れる。モモは意を決して聞いてみた。
「父上は、村を出てから何をなさっていたのですか?」
「そうだな。色々とあって、トチノハ様の護衛に就くことになった」
「何故、数年も便りが無かったのですか!?」
モモが少しの怒りと共に聞いてくるので、少し気まずそうにネックは言う。
「キエーウとの戦いもあった。無駄な心配を掛けたくなかったのだ」
「それでも、便りが無い方が心配になります!!」
「悪かったな」
久しぶりの親子の会話をムツヤ達は遠巻きに見ていた。
「キエーウと言えば、トチノハ……。いや、停戦してるしな。トチノハさん、あんたはキエーウとの戦いの時に何をしていたんだ?」
アシノが尋ねると、素直に答えだす。
「我々は探知盤を持っていなかったので、キエーウ達の足取りを掴めずに居ました」
残念そうな顔をしてトチノハは続けて言う。
「尋問して裏の道具の存在を知った時には、災厄の壺が発動するほんの数日前でしたので。急いで向かっても間に合わない場所でした。お力になれずに申し訳なかった」
「そうですか」
そんな裏事情があったのかと、アシノは思った。
「よし、探知盤の使い方は分かった」
しばらくすると、キヌが言う。アシノはそれを聞いてトチノハにまた尋ねた。
「それで、あなた方はこれからどうするのですか?」
「我々はお尋ね者です。アシノ様達が達が出来ないような、汚れ役は我々が引き受けましょう」
その言葉を聞いてモモは父を案じて少しだけ不安になる。
「確かに、これから裏の道具の回収は一筋縄ではいかないでしょう。お任せしますよ」
「それでは、入山許可が要るとはいえ見物人が来たら厄介です。我々は失礼します」
そう言ってトチノハ達は消えていった。