ムツヤ達はニャンタイ山の頂上目指して再び歩き始めた。ルーはゼーハー言いながら付いてくる。
「着いたな、あそこが頂上だ」
小さな祠が祀られており、目下には絶景が広がっていた。先程までの戦いを忘れて皆その景色に見入っている。
頂上の近くには斧が1つ落ちていた。ムツヤが言うには裏の道具らしく、回収し残り2つも手に入れ、山を下る。
麓に着く頃にはすっかり夕方だ。山の出口にはギルドマスターが待っている。
「おぉ、アシノ様!! 山で地響きが鳴っていたので心配しておりましたが……」
「はい、魔人の残した武具により、オオムカデが出現しておりましたが、討伐いたしましたのでご心配は要りません」
「流石は勇者様です!!」
その後も色々な質問を受けたが、キエーウとトチノハの事を伏せてアシノが全部答えてくれた。
そして夜、ムツヤ達は温泉を楽しむ。
「ああああああ、生き返るううううう」
今にも溶け出しそうなぐらいルーはふにゃふにゃになっている。
ルーほどではないが、皆も足腰には疲労がきていたので、温泉は染み渡るものだった。
夕飯の山と川の幸を堪能し、一行はぐっすりと眠る。
月の光も届かない夜。水の噴き出る魔剣『ジャビガワ』を携えたミシロは空を飛んでいた。
山賊を倒してから数日。この世界をメチャクチャにする方法を考えて、生きていた。
地上に光を見つける。キャラバン隊の焚き火だった。
「あーあ、下っ端は夜の見張りってか、辛いーパワハラだー!!」
「しっかりしろ、最近は魔物も活性化しているし、盗賊も恐い」
「お前は真面目すぎなんだよー」
会話が耳に入る。そうだ、試しにアイツ等を襲ってみよう。
まるでふと夕飯に何を食べようかと決めるぐらいの感じでミシロはそう決めた。
ミシロは魔剣を持って急降下し、一人の頭を刈り取る。もう一人は何が起きたのかわからず、数秒立って声を出した。
「あー!!!!!!! あー!!!!!!!!」
パニックの男は叫ぶのが精一杯だった。その声を聞いてぞろぞろと人が出てくる。
「敵襲か!!!」
次々と人を斬るミシロ、暗闇の中からはあちこちから断末魔が聞こえだした。
「照明弾を打て!!」
下からライトアップされると、翼の生えたミシロがぼうっと照らし出される。
「な、なんだありゃ……。まさか魔人か!?」
隊長格の男が言う。護衛の冒険者達が矢と魔法を放つが、それらは全て軽々と避けられてしまった。
ミシロの一方的な殺戮が始まる。
戦う意志のある人間は消えた。逃げる者、怯えて座り込む者、それらを上空から見下す。
今、目の前にある命は全て自分が手に握っている。そう考えるとミシロはゾクゾクした。
地上に降り立ったミシロはゆっくりとテントに近付く。そこには子供達が怯えて端に固まっていた。
「こんばんは」
返り血を受けた天使のような笑顔で子供達に挨拶をする。
「ま、待って下さい!!!」
後ろから中年の女が走ってやって来た。体はブルブルと震えている。
「お、お願いです!! キャラバンの物は全て差し上げます!! ですから子供は、子供は!!」
「うるさいよ!!!」
ミシロが一喝するとビクッと話すことを辞めた。
「何でこんな目に会ったか分かる?」
ミシロは女と子供を見渡して言った。
「弱いのがイケナイの、弱いからこんな目に会うの」
そこまで言いかけてミシロの頭の中に遠い日の記憶が弾けた。
「っつ……!!!」
自分を最後まで守ろうとした母親の姿だ、女の姿にそれが写って見える。
「違う、私は、私は!!!」
ミシロは頭をブンブンと振って記憶を振り払おうとする。
「み、みんな、逃げるよ!!!」
そうは言ったが、子供達は怯えて動くことが出来なかった。ミシロは子供をちらりと見る。
目が合った、怯えた目。それを見た瞬間、ミシロはテントの屋根を突き破って上空へと飛んでいってしまった。
残された者たちは泣くことしか出来なかった。圧倒的な暴力の前に。
ミシロはまた行く宛もなく空を飛ぶ。頭が何だかガンガンと痛む。
私は誓ったんだ。この大嫌いな世界をメチャクチャにすると、なのに目の前の人間を殺せなかった。
「ラメル様……」
あの城での出来事を思い出す。それよりもっと前の事も思い出す。思考が止まらない。
「もっと、もっと強くならなくちゃ……」