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魔人ナツヤ

魔人ナツヤ 1

 杖の扱い方が分かってきたナツヤは、集中して魔物を生み出し続ける。そんな彼にフユミトが声をかけた。


「ナツヤ、だいぶ沢山集まったね」


「あぁ」


 集中力を要するのでナツヤは汗をかき、頭がふらつく。


「食事、持ってきたよ」


「あぁ、ありがとうフユミト」


 持ってこられたサンドウィッチを片手で掴み、頬張る。卵とハムのハーモニーが口の中に広がる。


 ナツヤに優しい笑顔を向けるフユミト。仲間達、特にフユミトが居れば何でも出来る気がしていた。


 そんな時、ふと何かを感じ取る。


「来た……」


 魔物が倒された感覚だ。





 ムツヤ達は城を目指し走っていた。そこで魔物と接敵する。アシノは軍隊に連絡石で信号を送った。


「現れたか!!」


 イタヤは聖剣ロネーゼを引き抜いて一気に距離を詰め、斬り捨てる。


「まだ居るよ!!」


 ウリハも剣を構え、そこら中の魔物を斬り倒していた。ルーが掛け声をかける。


「私達もやるわよ!!」


「あぁ!!」


 ムツヤ達も武器を構えて魔物の数を減らしていった。





「魔物達がドンドン倒されていく……」


 今までに経験をしたことのない感覚に、ナツヤは少し恐怖を覚えたが、フユミトが肩に手を置く。


「大丈夫、勇者なんてナツヤの敵じゃない」


「そうだな、よし!! あっちに魔物を集中させよう!!」




 あらかた敵を倒し終えたアシノ達は、ムツヤを『青い鎧の冒険者』に仕立て上げた。


「ムツヤっちのこの姿も久しぶりよねー」


 ルーが言うと、アシノもそうだなと頷いた。


「あぁ、私達の後から軍隊が来る予定になっているからな」


「それじゃムツヤっち、暴れまくってきちゃってー」


「わがりまじだ!!」


 弾かれたようにムツヤは敵陣目掛けて一直線に駆ける。その辺の魔物はムツヤに触れるだけで吹き飛び、消滅した。


「やっぱ凄いなームツヤくんは」


 イタヤが言うと、ウリハは剣を構えたまま声を出す。


「感心してないで私達も行くよ!!」


「そうですね、行きましょう」


 サワが二人に支援魔法を掛け、イタヤパーティも後を追った。


「前線はムツヤとイタヤさん達に任せて、私達は討ち漏らしの魔物を狩る。みんな、自分の身を第一に考えて行くぞ!!」


 ルーとヨーリィはまだしも、モモとユモトはまだまだ未熟であり、アシノは能力を奪われている。少し情けなさを感じたが、今はそんな事を言ってられない。


「はい!!」


 返事をすると、モモとユモトも戦いにおもむいた。


 前線はムツヤが押し上げていた。あちらこちらから爆発音が響き、人間一人の戦いとは到底思えない。


 魔剣ムゲンジゴクにて敵を斬り、手から炎に雷と自在に操り飛ぶ敵も落としていく。


 城の城壁からそれを見ていたナツヤは呆然とした。


「な、何だあれ……」


 これが勇者かと思ったが、自分に出来ることは、もっと魔物を生み出すことだ。


「ナツヤ様、私が出向きましょうか」


 デュラハンが城壁の下から叫ぶ。


「あぁ、よろしく頼む!!」


「はっ!! 城門を開けよ!!」


 魔物達が重い城門を開け、デュラハンが戦陣へ駆け込んだ。


「進めぇー!!!」


 デュラハンが骨の魔物、スケルトンやゾンビ兵を引き連れてムツヤに突撃する。


「何だあの軍勢は……」


 ムツヤの後ろで戦っていたイタヤは魔物の行軍を見てムツヤの心配をした。


 だが、それは杞憂だった。ムツヤが剣を持ち回転すると、剣身から炎が吹き出て辺り一帯を焦がす。


 次々と煙に変わる魔物達。そこにデュラハンが到着した。


「ナツヤ様の為に、貴様を斬り捨て……」


 そこまで言いかけた時、ムツヤは馬ごと縦に一刀両断する。いともたやすくデュラハンは煙へと変わった。


「嘘だろ!?」


 ナツヤは驚いて言う。あれ程強く、信頼を置いていたデュラハンが一撃の元に斬り伏せられてしまった。


「ナツヤ、もっと強い魔物をだそう。君になら出来る」


「あぁ!!」


 フユミトの言葉にナツヤは動揺を抑えて、より強い魔物を想像する。


 次にムツヤの元に飛んできたのは、空を飛んでいた翼竜だった。ムツヤは飛び上がり、翼竜の背に乗る。


 そして、一気に首を斬り、落下させた。だいぶ前線が押し上げられて、拡声魔法を使える辺りまでアシノは来る。


「ユモト、頼む」


「はい!!」


 拡声魔法をユモトが使い、アシノはナツヤに向けて言葉を放つ。


「おい、聞こえるか!! 勇者アシノだ!! お前達は包囲されている!! 大人しく降伏しろ!!」


 その声を聞いたナツヤは怒りに震えた。


「こっちも言い返してやろう」


 フユミトが拡声魔法をナツヤに掛けて、城壁から叫ぶ。


「黙れ!! お前達を勇者などと認めない!! 俺が勇者になってやる!!」


 アシノは慎重に言葉を選んで話し始めた。


「お前の境遇の事は少しだけ知っている。鉱山での事は、勇者として気付けず本当に申し訳ないと思う」


「黙れ、知った所で国の犬のお前達は助けなかっただろ!!」


 言い返されてアシノは言葉に詰まったが、無理やり続ける。


「そんな事はない!! 私達は……」


 そこまで言った所でナツヤが被せて言った。


「勇者ってのは弱者を助けるもんだろ!? 俺は弱者の気持ちが分かる。俺なら優しい国を作れる!! 俺が勇者になってこの国を変える!!」


「確かに、お前の、お前達の境遇は同情する。が、人を殺して良い理由にはならない!!」


 話にならないなとナツヤは思った。


「俺は奪われた物を奪い返す。やられた事をやり返す」


 アシノに向かって魔物達が走り出した。ヨーリィが前に出てそれらを殲滅する。


 もっと、もっとだ、ナツヤは魔物を更に生み出す。

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