場は混戦状態になった。ムツヤが暴れまわるお陰で魔物の数は減っていくのだが、次から次へと生み出される。
討ち漏らした敵は、ルーの精霊やヨーリィの活躍によりアシノ達の元まで来ない。
イタヤパーティもムツヤの後ろを付いて行って前線を押し上げていた。
「頼む、もう抵抗は辞めてくれ!!」
アシノの叫びも虚しく、ナツヤは次々に魔物を生み出す。
「もうアイツを殺るしか無いのか……」
イタヤはそう呟く。確かに発生源を叩かなければ、無限にこのままだろう。そんな時、フユミトがナツヤに向かって話し始めた。
「ナツヤ、もっと力が欲しくないかい?」
「どういう事だ?」
フユミトはこんな状況だが笑顔だ。
「杖と一つになるんだよ」
「杖と一つに……?」
フユミトが何を言っているのか分からない。ナツヤは今更ながら尋ねる。
「なぁ、フユミト。お前は何者なんだ?」
「言ってなかったね。僕は、その杖の意志だよ」
理解が追いつかなかった。杖の意志? どういう事だと。
「僕はとある場所に閉じ込められていたんだ。だけど、魔人ラメルによって解放された」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。話が分からない」
ナツヤはフユミトを見て言う。
「解放された僕は、杖を使ってくれそうな人。ドス黒い感情を持ち、適性がある人を探していたんだ」
フユミトの話をナツヤは必死に理解しようとする。
「空を飛んで、ナツヤを見つけた。その後は現場監督の記憶をいじって、新入りとして、あの場所に行った」
「どういう事なんだ!? フユミト!!」
思わず声を荒らげるナツヤ。フユミトは至って冷静だった。
「僕はとある魔人の遺品なんだ。僕の使命は世界を壊すこと」
「そんな……」
思わず膝から崩れ落ちそうになるが、なんとか堪える。
「ナツヤ、こんな世界壊しちゃった方が良いと思わないかい?」
世界を壊す。ナツヤの頭には色々な思考が飛び交った。
「君を愛してくれなかった世界に不満は無いのかい?」
確かに、ナツヤの人生は愛された物とは遠く無縁だ。
「僕と一つになろうナツヤ。僕は君の望みを叶えられる」
ナツヤは悩んだ。この世界を壊す。考えたこともなかった。
だが、考えている間にも、勇者たちは城へ確実に近付いてきている。
「……、分かった」
下を向いたまま、そうポツリと言うナツヤ。フユミトはナツヤの手を取った。
「ありがとう、ナツヤ」
城壁の上で一際激しい紫色の光が放たれた。
「何だ!?」
アシノがその光に反応し、皆もそれを見る。
「フユミト、分かったよ。これが力か……」
ナツヤは髪が銀髪になり、一気に腰ほどまでに伸びた。
「俺は世界を壊す。そして新たな世界を創る」
そう言った後に、ナツヤが右手をかざすと、千体にも及ぶ魔物が召喚される。
「なんじゃあこりゃあ!!」
イタヤが思わず声を上げる。いくらなんでも数が多すぎた。
「ムツヤ!! 早くアイツをやれ!!」
アシノに言われ、ムツヤは魔物を蹴散らしながらナツヤの元へと向かう。
「ここは一旦引こうナツヤ。あの青い鎧の奴は厄介だ」
頭の中にフユミトの声が流れた。そして頷くと翼竜に乗って飛び立つ。
「待て!!」
ムツヤが城壁を駆け上って飛び上がるも、すんでのところで逃してしまった。
「追うぞ……と言いたいところだが……」
アシノは周りにうじゃうじゃと居る魔物を見て肝を冷やす。
「これじゃ私達が危ないわね」
四方八方を取り囲まれ、イタヤ達はまだしも、アシノ達は苦戦していた。
「ムツヤ、戻ってきてくれ!!」
「わがりまじだ!!」
一直線にムツヤは走る。そして、吹き飛ぶ魔物達。
イタヤは聖剣ロネーゼを振って魔物を蹴散らし、ウリハも魔法と剣を器用に使いこなして戦っていた。
サワが詠唱を終わらせ、魔物に光の剣を降らせる。
アシノ達もそれには及ばぬが、モモは確実に魔物を仕留め、ユモトも魔法で同じく戦う。
ヨーリィはナイフ一本で素早い動きを見せ、ルーの精霊も魔物を倒し続けていた。
そしてムツヤが暴れまわり、30分もすると魔物を蹴散らし終える。
「も、もうダメ、動けない……」
ルーは尻餅をついてはぁはぁと荒い息をする。他の皆も安堵と疲れからか、しゃがみ込んでいた。
アシノは急ぎギルスに連絡を入れる。
「ギルス! 魔人に逃げられた! 動向は分かるか?」
「あぁ、ずっと追ってる。このまま真っ直ぐに行くと……、王都だ」
「総大将を狙いに来たって訳か……」
翼竜に乗って飛んでいるなら、馬車の何倍も早い。1日と少しあれば着いてしまうだろう。
「私達も馬車に乗って追いかけるぞ!!」
城の中に残る黎明の呼び手の残党は軍と治安維持部隊に任せ、皆が疲れた体を無理に動かして馬車に乗り、走らせた。
「サツキ!! すまん、魔人がそちらに向かったみたいだ」
アシノからの連絡にサツキは驚く。
「分かりました先輩!! 最近ずっと王都に居たから体が鈍りそうだったんで活躍して見せますよー?」
「すまないな、すぐ向かう。頼んだぞ!!」
「はい!! 先輩!!」