アシノは連絡石を使い、冒険者ギルドへ緊急の信号を送った。魔人が王都の方面へ飛び去ったと。
これで各地の冒険者ギルドや治安維持部隊を経由して王都に連絡が行くだろう。
数時間もしない内に魔人襲撃の連絡が着いた王都は、蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。
近衛兵長カミトが王の耳にその知らせを入れると、はぁーっと深いため息を付いて言う。
「また魔人か……。アシノとイタヤが居ながら魔人を逃すとは、情けない」
その日の内に対策本部が出来た。サツキとカミトも居る。
そこでは様々な可能性について話し合いが始まった。
「以前の魔人のように魔物を操るとなると、勇者様方が持つ試練の塔で得た武器のみが効く魔物が現れるのではないでしょうか」
国会議員の一人が言うと、軍の上層部が頷く。
「その可能性は多いにあります」
それを聞いて、防衛大臣は話し始める。
「こうなってしまっては、例の部隊を出撃させるを得ないのではないでしょうか?」
全員に緊張が走った。その例の部隊とは……。
「魔人の残した武具を使う部隊。今だ公にはしていない彼らをですか」
王都の研究者達は魔人の残した武具を研究していた。
そして、おおよその使い道が分かった物を試験的に実力者に使わせていたのだ。
「なっ、いつの間にそんな部隊を!?」
サツキが動揺して言った。
「隠していた訳ではないのですが……。実用出来るようになった時、お話しようと思っておりました」
防衛大臣がサツキに頭を下げる。納得がいかない様子のサツキは続けて言う。
「今だ謎が多い魔人の残した武具を使用するのは、危険ではありませんか?」
最もな意見が飛んだが、防衛大臣は言葉を返す。
「ですが、普通の軍隊では犠牲者も多く出るでしょう。それに試し打ちには、不謹慎かもしれませんが、ちょうど良い機会です」
全員が黙った。確かに、魔人相手ならば、こちらもそれなりの力を使いたい。
「街に居る勇者はサツキ様一人。アシノ様とイタヤ様の到着は急いでも二日後になります」
ダメ押しとばかりに防衛大臣は苦しい状況を語る。
「分かりました。私はその部隊を出すことに賛同をします」
一人の議員がそう言う。その後の投票で、対策本部に居る八割が部隊の出撃に賛成した。
「ってな事がありまして……。私も気付けずに申し訳ありませんでした!!」
馬車の中でサツキの謝罪が響く。
「いや、仕方ないだろう。隠されてたんじゃ」
そうは言ったがアシノは焦っていた。今は魔人という敵が居るが、居なくなった場合。戦争の火種になるのではないかと。
「とにかく今は魔人を倒すことだけを考えなくちゃな」
アシノはそう自分自身にも言い聞かせた。
王都は静まり返っていた。城門は閉められ、人々も屋内に避難するよう命令される。
「魔人らしき者を確認しました!!」
千里眼持ちの兵が言う。軍隊にも、サツキ達にも緊張が走った。
翼竜に乗ったナツヤが肉眼でも確認できる距離までやって来る。
「放て!!」
城壁から魔法が飛び出す。火、氷、雷が翼竜を襲った。
しかし、それらは軽々と弾かれ、どんどんナツヤはこちらに向かってくる。
その魔法を放つ後ろで、上級兵の二人が杖を握っていた。
「いくぞ!!」
一斉に魔力を込めると、光線が一直線にナツヤに向かって飛び、翼竜を撃ち落とす。
「こ、これが魔人が残した武具の力……」
一般の兵隊長が思わず言葉を漏らす。ナツヤは地面に激突しそうになるが、その途中で巨大なスライムを召喚し、その中に入り込む。
無傷で地面に降り立ったナツヤは、次々に魔物を召喚する。
「私達が行きます!!」
サツキ達が城門を飛び出て魔物の群れに突っ込む。鋭いナイフ『カタトンボ』を持つカミクガが雷を散らしながら魔物を切り裂く。
「兵の皆さん、続いて下さい!!」
ウオオォォ!!! と声を上げながら、サツキを先頭にして軍隊が動く。
白兵戦が始まった。ナツヤの召喚する魔物は一般の武器でも倒せるらしく、ギチットの兵達は勇敢に戦っていた。
だが、倒しても倒しても次々に押し寄せる魔物に、段々と士気が落ちていく。
そこへ、裏の道具を持った特殊部隊がやって来た。
一人の兵が弓に矢をつがえて放つと、それは空中で百本に増えた。魔物達を串刺しにする。
また、別の兵が天高く杖を上げると、雷が空から落ちてきた。
次は火の玉が数百発。氷の巨大な剣が、竜巻が、魔物達を蹴散らしていった。
サツキは思う。今は心強いが、この力が同じ人間に向かって使われたらと。
前線で戦うサツキはナツヤの目前まで来た。声の拡声魔法を使い最後の勧告をする。
「もうこれ以上抵抗しないで下さい!!」
「お前、勇者か?」
ナツヤは短い言葉で尋ねた。
「そうです。勇者サツキです」
「そうか、ならば言おう。俺こそが真の勇者、ナツヤだ」
サツキは歯を食いしばり、言う。
「人を傷つけて、何が勇者だ!!」
「それならば俺も言おう。弱い者を助けなくて何が勇者だ!!」
うっと言葉に詰まりそうになったが、サツキは剣を構えて言い返す。
「あなたの生い立ちは、少しですが聞いています。同情はしますし、国のそういった問題を解決出来なかった事を私は恥じます」
「ならば、一緒に国を変えましょう」
ナツヤは笑顔でそう話す。
「あなたがしている事はただの無差別な破壊だ!!」
「こんな国、守る価値がありますか?」
サツキは魔剣『カミカゼ』を取り出して力を込める。
「少し、痛いですよ?」
「分かり合えなければ、残るのは殺し合いですね」