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偽物勇者

偽物勇者 1

 魔人ナツヤとの戦いから二ヶ月が経った。アシノ達とイタヤは裏の道具を回収する旅を続け、サツキは相変わらず王都を守っている。


 この二ヶ月間、色々とあった。まず、魔人の残した武具をばら撒いた魔人ラメルと、それを使い王都を襲ったナツヤを崇める『魔人崇拝者』が現れだした。


 そして、彼らの一部は自らを『黎明の呼び手』と名乗っているらしい。


 魔人崇拝は昔からあったが、今は事情が違う。誰でも裏の道具一つで魔人になり得てしまうのだから。


 国は一般人が魔人の残した武具を持つこと、魔人崇拝を厳しく制限した。


 そんな中、ムツヤ達はとある村にやって来ていた。


「ふぅー。やっと村が見えたわ……」


 クタクタに疲れたルーが馬車の中でもたれかかって言う。


 ここ数日、急いで裏の道具の回収をしていたので疲れが溜まっていたのだ。


「やっと着いたか」


 外は日が暮れかかっている。冬が近付いているので肌寒さを感じた。


「宿の予約は勇者様御一行で取っておいたわ!」


「余計なことすんな!!!」


 ルーとアシノのやり取りにムツヤとユモトが笑う。


 村に入り、馬車を預けると、その宿屋まで向かった。


「こんばんはー、勇者一行でーす」


 元気よくルーが言うと、受付の女性は不思議そうな顔をする。


「勇者様……、御一行ですか?」


「そうでーす!!!」


「あの、勇者様御一行は……、もうお泊りになられてるのですが……」


「はえぇ!?」


 ルーは予想外の事に変な声が出た。


「いや、私達が勇者一行よ? 見てよ、この赤髪!! 勇者アシノよ!?」


「確かにアシノ様は赤髪だそうですけど……」


 全員何が起きているんだと不思議に思う。


「あー、何だか分からないけど良いわ! とりあえず疲れているから部屋を二つお願いするわ!」


 そう、ルーに言われた受付嬢は申し訳無さそうな顔をする。


「申し訳ありません。もう今日は満室でして……」


「えぇー!?」


 この村にはここしか宿がない。泊まれなければ野宿確定だ。


「じゃあ、その勇者御一行とかいうふざけた奴らを出して!! 偽物よそいつら!!」


「騒がしいですね」


 声が聞こえ、受付嬢はそちらを見る。


「あ、勇者様!!」


 ムツヤ達も同じ方向を見ると、そこには。


「あー!!!!」


 全員変な声が出た。あの鳩でお尻を突かれた男だ。


「あ、あなたは、ジョニーだっけ!?」


「ジョンだ!!!」


 ルーの言い間違えをジョンは大声で訂正した。


「勇者様、どうかなさいましたか?」


 ジョンの仲間らしき女魔法使いも階段から降りてきた。


「ジョンの兄貴!! どうした!?」


 まだ仲間がいるらしい、見たところ女剣士だろうか。事情は分からないがルーが呆れて言う。


「アンタ、今度は勇者なんて嘘付いてるの……」


 その言葉に対して、女魔法使いと剣士が怒る。


「なっ、無礼な!! ジョン様は勇者ですよ!!」


「そうだ、ジョンの兄貴は物凄く強い。これで勇者じゃなかったら何なんだ?」



 それはそれは、二日日前に話は遡る。


「ぐ、クソっ!! 今日も自給自足生活か……」


 落ちぶれたジョンは何か食べ物になりそうな物を森で探していた。


「何だ、コイツは……」


 川で魚やエビでも捕まえようとしていたジョンはあるものを発見した。


「コイツぁシャコじゃねーか!! なんで川に居るんだ!?」


 そう、川の中にシャコが居たのである。理由は分からないが、食べられそうなので捕まえて火で炙って食べた。


 それから数時間後、ジョンは体から力がみなぎってくるのを感じていた。


「なんだ、何か体が熱いぞ……」


 ふと、正拳突きをしたくなり、一発パンチを放つ。その瞬間、手から衝撃波が出て目の前にある木をなぎ倒していた。


「なっ!?」


 驚くジョン。それと同時に悲鳴が聞こえた。


「今度は何が起きてんだ……」


 自分自身の変化に驚きつつも、悲鳴の方へと向かう。そこには数十の魔物に囲まれた冒険者達が居た。


「っく、数が多すぎます!!」


「私から離れるな!!」


 劣勢の女魔法使いと剣士。自分が行ったとして助けられるのかといった疑問はあったが、体は勝手に向かっていく。


「何だか分からんが食らいやがれー!!!」


 ジョンは先程やったようにパンチを繰り出す。拳の形に飛んでいく青い光が魔物に当たると一発で粉々に砕ける。


「な、何だ!?」


 それを見て女剣士は驚く。ジョンは次々にパンチを繰り出して魔物達を倒していった。


 魔物がすっかり居なくなり、魔法使いと剣士の二人はジョンを見る。


「た、助かりました!! なんてお礼をいえば良いのか……」


「その実力は……、もしかしてこの国の勇者様か!?」


 なかなかの美女二人に囲まれ、そう言われたジョンは気を良くして言う。


「ま、まぁ、そんな様なモンですね!!」


 思いっきり嘘をつくジョン。美女二人は目を輝かせていた。視線が痛い。


 話を聞くと、二人は小国から出稼ぎに来ていた冒険者らしい。近くの村まで送ることになり、そして今日たどり着いた。


 そして、村に着いて。


「勇者様、本当にありがとうございました!!」


 女魔法使いの勇者という言葉を村人が聞いて、騒動が始まる。


「勇者様!? 勇者様ですか!!」


「勇者様がいらっしゃったぞ!!!」


 あっという間にジョンの存在は勇者として村中に広まった。


 宿屋も顔パスで通され、今に至る。


「ふふ、ふはは、勇者の偽物とは面白いですね!!」


 ジョンがそう言って笑い始めたが、ルーがツッコミを入れる。


「いや、偽物はアンタでしょ!!」


 だが、ジョンは引かない。今の自分なら勇者アシノに勝てる自信があった。


「偽物め、私が懲らしめてあげましょう!!」

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