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偽物勇者 2

 夕日に照らされる村の外にアシノ達とジョンは居た。村人総出で見物人になっている。


「私の能力は周りを巻き込みます。戦うのならば、代わりに腕の立つ者と対峙して頂きます」


「ふっ、舐められたものですね……」


 口ではそう言っていたが、ジョンはあの鳥に追われた時を思い出して膝がガクガクしていた。


 あの時とは違うと自分に言い聞かせ、正気を保つ。向かいに居るアホっぽそうな男ならば、今回は勝てると。


「いつでもどうぞ」


 アシノに言われ、ジョンは拳を構え、一気に衝撃波を出した。


 拳の形をした青色の波動が飛び、ムツヤを捉える。


 しかし、それは最小限の動きでかわされてしまった。


「おぉ……!!!」


 見慣れない魔法に驚く村人達。ジョンの仲間である女剣士と魔法使いがエールを送る。


「ジョンの兄貴ー!! 負けるなー!!」


「ジョン様ー!! 頑張ってー!!」


 パンチを繰り出しながら突っ込んでくるジョン。ムツヤは足を引っ掛けて転ばせた。


「うぐうう!!」


 地面に倒れるジョンは屈辱を味わう。





 その後もムツヤに攻撃をかわされ、転ばされ、ジョンはボロボロになっていく。


「はぁはぁ、ちぐじょー!!」


 鼻血を出しながらジョンは言う。


「そろそろ降参された方が良いのでは?」


 敵とは言え流石に見ていられないアシノが言うが、ジョンは立ち上がった。


「俺は勇者だ!! 誰が何を言おうと勇者なんだ!!」


「アシノ!! ヤバいわよあの人!! 本当に死んじゃうわよ!!?」


 目を閉じてアシノは考える。面倒くせーと。


「あーもう、分かった。あなたは勇者です。お前等ー撤収だー」


「わがりまじだ!!」


 ムツヤはジョンに背を向けて歩き出した。皆もぞろぞろとアシノにの後を着いていく。


 村人と仲間からは歓声が上がった。


「やはりジョン様は勇者です!!」


「ジョンの兄貴!!」


「はぁはぁ、俺はやったぞー!!!」





 ムツヤ達は村から離れた人通りが殆どない森の中で家を取り出す。


「しかし、アシノ殿。あのジョンとかいう男、アレで良かったのですか?」


 モモの言葉にソファーで眠そうに目を閉じるアシノは返事をする。


「まぁ、良いんじゃないのか?」


 もしゃもしゃクッキーを食べながらルーも言う。


「勇者の偽物って、いつの時代もいるしねー」


 そんな中、ギルスから連絡が入り、目の前に姿が映し出された。


「みんな、動いている裏の道具の反応が近くにある。気を付けてくれ!!」


 裏の道具の反応はあの村からだった。ムツヤ達は急ぎ村へと向かった。


 一方その頃、村には珍妙な客が現れる。


「オラオラァ!! 魔人『チィター』様のお出ましだ!!」


 村の遥か彼方から一気に走ってやって来た男がそう名乗った。


「ま、魔人だと!?」


 村の衛兵がそう言って槍を構える。


「そうだ、俺様こそが新たなる魔人、チィター様だ!!」


 確かに目の前の男は人間離れした速さで走ってきた。自分達だけでは勝てないかもしれない。


 だが、今この村には彼がいる!!


「勇者様だ、勇者様を呼べー!!!」


「なっ、勇者だと!?」


 一人が宿に向かいジョンを呼びに行った。




「ジョン様、カッコ良かったです!!」


「流石、勇者様だよなー」


 女魔法使いと剣士に囲まれ、ジョンは気を良くしている。


「ふふ、それほどのものじゃありませんよ……」


 そんな中、衛兵の叫びが外から響く。


「勇者様!! 魔人が現れました!! お助け下さい!!」


 ジョンは持っていたコップを落とし、地面に転がった。そんな事もお構いなしに事態は動く。


「魔人だと!? ジョンの兄貴!!」


「ジョン様!!」


「あ、あぁ、分かっています」


 内心ガクガクしているジョンは仲間達と魔人の元へ連れ出された。


「貴様が勇者か、俺様は魔人チィターだ!!」


「魔人チィターですか? 聞いたことありませんね……。私は勇者ジョン!! 今降伏すれば許してやらない事もありませんよ?」


 ジョンに言われ、チィターは怒る。


「俺様は魔人だ!! それにジョンだかジョニーだか知らねえが、そんな勇者聞いたことねーぞ!!」


「私は勇者だ!!」


 ジョンはそう言い張った。


「まぁいい、戦ってみれば分かることだ。俺のスピードに付いてこれるかな!?」


 チィターは風のように走る。目で追えないぐらいの速さだ。それを見てジョンは焦る。コイツは本当に魔人なのではと。


「えぇい!! 食らえ!!」


 やけくそにパンチを数発出すと、チィターに当たりこそしなかったものの、地面は爆撃を受けたようにえぐれ、木々は真っ二つに倒れた。


 それを見てチィターは冷や汗を流す。コイツは本当に勇者なのではと。


 チィターは一気に距離を詰めて連撃をジョンに食らわせた。ボコボコにされたジョンは吹き飛ぶ。


「へっ、勇者ってのも大したことねーな!!」


「ジョン様!!」


 だが、吹き飛んだジョンは立ち上がり、パンチを繰り出した。


「それがスゲーのは分かったけどよ、当たらなきゃ意味がねーんだよ!!!」


 チィターの言う通りだった。ジョンのパンチは一発も当たっていない。

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