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覚醒する少女

覚醒する少女 1

 皆の注目がアシノに集まる中、話し始めた。


「相手は魔人と黎明の呼び手だ。どんな手段を使ってくるか分からない」


 ルーも「そうよねー」と言った後に続ける。


「キエーウはまだ亜人だけを狙っていたけど、黎明の呼び手は世界を滅ぼすことが目的だもんね」


「どうなってしまうんでしょう……」


 ユモトは不安げに言葉を漏らす。


「私にも分からない。だが、ろくな事にはならないだろうな」


「カバンを狙って刺客がくるのでしょうか?」


 モモが言うとアシノは頷く。


「あぁ、そうだろうな。今は悩んでいても仕方がない。私はこれから他の勇者に今回の事を話す。皆は待っていてくれ」


 ムツヤ達が会話もなく静かに待っている横で、アシノは勇者達に今回の出来事を話していた。


 会話が終わると、皆に言う。


「しばらくは寝ずの番だな。交代で寝て警戒する」


「じゃあ皆休んどいてー。私、夜は強いから!」


 ルーが名乗りを上げたので、皆は寝ることにする。その頃ミシロと黎明の呼び手がすでに次の手を打っているとも知らずに……。



 ミシロはルクコエが言っていた黎明の呼び手が集まる廃墟を目指した。


 山を二つ超え、川の近く。ミシロは能力を使い、人の気配を探知する。


「あそこが……」


 外の見張りの人間がミシロを見付けて大騒ぎになった。


「皆、ミシロ様だ!! ミシロ様がいらしたぞ!!」


 ミシロは羽をバサバサとし、ふわりと着地する。


「あなた達が、黎明の呼び手の人達?」


 外に出てきた数十にも及ぶ人間はひざまずいてミシロを迎えた。


「はっ、その通りでございます。ミシロ様」


「私ね、ムツヤって奴のカバンを奪って欲しいの」


「恐れながら、我々もミシロ様の命令であればお聞きしたいのですが、我々だけであの男に向かったとして……。非常に情けありませんが、敵わないでしょう」


 ミシロはその言葉を聞いて失望する。


「ふーん。頼りにならない」


「申し訳ございません。ですが一つ手段があります」


 そう言われ、ミシロは興味を持つ。


「何? 聞かせてみてよ」


「はっ」


 そして黎明の呼び手に作戦を聞かされ、ミシロは高く笑う。


「面白い! 面白いよ!! それにしよう!! でも一つだけ言わせて。ムツヤを殺すのは私。アイツは私の手で殺す」


「はっ、かしこまりました」


 ムツヤ達はミシロと黎明の呼び手の情報を集めていたが、これと言って有力な物に出会うことは出来ずに居た。


「あーもう! あのミシロって子はどこに行っちゃったのよ!」


 今日も宿屋に帰ると、ルーが両手を天に向け伸びをしながら言う。


「私達に出来るのは、地道に探知盤の石を埋めて捜査網を広げることだ」


 そう自分に言い聞かせるように言い、アシノはウィスキーを少し飲む。


「あの魔人ミシロは魔剣を持っているのですよね。それならば、やはりそれしか手が無いのでしょうか」


 モモも疲れが顔に出ている。ムツヤはソファに座ってヨーリィの手を握り魔力を送っていた。


 そんな時、窓が割れる音がし、何かが部屋に入ってきた。ムツヤが咄嗟とっさに剣を引き抜く。


「敵か!!」


 割れた窓から寒い風と雪が舞い込む。ユモトが部屋を見回してあっと声を上げた。


「何ですかこれ……。矢……?」


 壁に突き刺さるのは一本の矢であった。そこに手紙が括り付けられている。


「もしかしなくても、これって矢文かしら」


「ユモト! 探知盤を出せ! ムツヤ、周りに怪しい奴が居ないか探せ」


「あ、はい!」


「わがりまじだ!」


 ユモトが探知盤を取り出して周りを見るが、裏の道具の反応はなかった。ムツヤも千里眼を駆使するも、街の人々に紛れているのか怪しい人間は見つからない。


 アシノは壁から矢を引き抜いて付いている手紙を広げる。文に目を通すと、顔が段々と険しくなった。


「っち、まずいな」


「何が書いてあったの?」


 アシノは無言でルーに手紙を渡す。


「えーっと、どれどれ……。我々はモミジの街に潜伏している。明日カバンを捨ててミシロ様と戦え。約束を違えれば街の人間は一人残らず殺す……」


 ルーも顔色が悪くなった。聞かされた仲間達も同じだ。


「やはり人質を取ってきたか……」


 目を瞑ったままアシノは顔を手で抑える。


「これ、ムツヤっちが勝ったにしても、逆上されて街の人が危ないじゃない」


「あぁ、それにカバンを奪われる可能性も大きい」


 どうしたものかとアシノが悩んでいると、ムツヤの胸のペンダントが紫色の光を撒き散らす。


「あっ!」


 ムツヤが言うと同時に邪神サズァンの姿が映し出された。


「ムツヤー? それにみんな元気かしら?」


 笑顔でサズァンは言う。アシノは突然の事だが、慌てずに対応する。


「邪神様が何の用で?」


「あらー、勇者様冷たいのね」


 今こうしてサズァンが急に現れた意図が誰も分からずに居たが、一言話し出す。


「今の状況を打破できる裏の道具があるわ。それを伝えに来たの」

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