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少女の爪痕

少女の爪痕 1

 走る馬車の中でユモトがムツヤの鎧を脱がす。アシノは連絡石でヨーリィに事が終わったと伝えた。


「ミシロって子、死んじゃったんだね……」


 馬車の中で、ムツヤがまだ気を失っているのを確認してからポツリとルーが言う。


「敵に同情をするな。ミシロは確かに不幸な出で立ちだったかも知れんが、魔人として罪も無い人々を殺していた」


 アシノはそこまで言い切り、ムツヤをチラリと見て続ける。


「ムツヤが殺らなきゃ、もっと力を付けて被害も拡大していた」


「そうよね、分かっては居るんだけど……」


 ルーは俯く。


「コイツには嫌な役ばかり押し付けて、正直申し訳ないなと思っているよ」


 アシノも下を向いてそんな事を言っていた。


 街へ戻るとそこら中で明かりが付いて、騒がしそうに駐屯兵と治安維持部隊が動き回っている。


 一人の衛兵がこちらへ走ってやってきた。


「アシノ様!! アシノ様の言う通り、武器を隠し持った黎明の呼び手が居ました。それと、先程の光は一体……」


「魔人ミシロでした。ご安心下さい。奴は倒しました」


 それを聞いて衛兵は一瞬理解が追いつかない顔をしていた。こんな短時間であの魔人をと。


 だが、勇者がつまらない嘘を付くはずがない。とても信じられないが、信じるしかない。


「流石でございますアシノ様!!」


「味方が一人、戦いで気を失ってしまいました。どこか開いている宿があれば良いのですが」


「はっ! 早急に手配いたします!」


 衛兵は、また走って街なかへと消えていった。


「お姉ちゃんたち、終わったみたいね」


 ヨーリィがいつの間にか歩いてきており、カバンをアシノに渡した。


「一応、回復薬でもぶっかけておくか」


 ムツヤに回復薬を振りかけるが、目は覚まさない。


「体内の魔力をほとんど消費しちゃっているから、傷を治す薬じゃダメなのかも」


 ルーの言う通りで、ムツヤは体のリミッターを外し、魔力を一気に解放したのだ。こればかりは休んで回復させるしかない。


 しばらくして、アシノ達は宿に案内される。モモがムツヤをおぶって部屋の中へと入った。


「お前達もお疲れだ、後は衛兵や治安維持部隊に任せて寝てろ」


 ムツヤとヨーリィ、ユモトを部屋に残し、残ったアシノ達は別部屋に消えていく。


 アシノは勇者達を起こし、赤い石を壁に叩きつけた。そして、事の顛末を手短に離す。


「流石はムツヤくんと言った所か、私の出る幕は無かったみたいですね」


 こちらへ援軍としてやって来ていた元勇者トチノハが言う。


「ほんと、ムツヤくんは強いな」


 イタヤもふぅっとため息を吐いて話した。


「アシノ先輩。これで、魔人の驚異は消え去ったのでしょうか」


 心配そうにサツキが言うと、アシノは「そうだな」と前置きして返す。


「とりあえず。今の所はって感じだな」 


 街なかの黎明の呼び手のメンバーは、全員が捕まったらしい。


 その報告を聞いてアシノは安堵していた。夜が明ける。




 ムツヤの戦いが終わった翌日。各地の連絡石を仲介して王都まで勇者アシノが魔人ミシロを討伐したとの知らせが届いた。


「魔人の驚異はこれで去ったか」


 王の間に近衛兵のカミトと勇者サツキ。側近のイグチが集まっていた。


「流石は勇者アシノ様と言った所でしょうか」


 カミトが言うと、イグチは口を開く。


「えぇ、これで邪魔な魔人ミシロは消えました」


 そして、続けて言う言葉にサツキは耳を疑う。


「ついでに、邪魔者のムツヤもしばらく動けない筈ですね」


 そう言った後、魔力の弾を出して。王の頭を撃ち抜いた。


 カミトもサツキも反応が出来ず。ガクリと椅子から崩れ落ちる王を見て、段々と状況が理解できた。


「王!!!」


 カミトが叫んで王の元へ駆け寄る。サツキは剣を抜いた。


「乱心したか!! イグチ!!」


 カミトは頭からドクドクと血を流す王を抱きかかえ叫んだ。


「治癒術を呼べー!!!」


 そんなカミトを王ごと吹き飛ばすイグチ。


「乱心だと? 私は正常だ。この瞬間の為に生きていた」


「アンタ何者だ!?」


 サツキが問うとイグチは答える。


「イグチとは仮の名前。私こそ」


 そこまで言ってニヤリと笑う。


「魔人、メボシだ」


 次の瞬間、メボシと名乗ったその男の背中から禍々しい羽が生える。


「っく!!」


 サツキは魔剣カミカゼを片手にメボシに斬りかかった。


「体鳴らしにはちょうど良いな」


 右手に防御壁を張り、サツキの剣を軽々と受け止め、魔力の弾を打ち出す。


 サツキはそれらを避け、風の刃を飛ばすが、宙を舞うメボシには当たらない。


 被弾した壁や床の石が砕け散る。王の間はメチャクチャになっていった。


「何事っすか!?」


「どうしたんですかぁー!?」


 聖女クサギとカミクガが王の間の扉を開けると、戦うサツキと、宙を飛ぶ男が目に入った。


「敵だ!!」


 サツキが叫ぶと、カミクガも魔剣カタトンボを構え、そちらへ一気に走る。


「クサギ様、王の手当てを!!」


 カミトも叫び、そちらへクサギは走っていった。


 屈んで王の手当てを始めるが、誰がどう見ても王は絶命している。


「カミト様、王は……、もう……」


「っぐ、クソっ!! クソおおおおおおお!!」


 そう悔し涙を流しながらカミトが声を荒げた。


「カミト様、あなたも酷い怪我です。ちょっと待って下さい!!」


 クサギはカミトの治療を行った。その間にもサツキとカミクガがメボシと戦う。

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