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天変地異

天変地異 1

 勇者達は王都目掛けて全力で急いだ。王が死んだ日から丸二日が経つが、魔人メボシの動向は掴めない。


 その静けさが逆に不気味に感じた。サツキは今日も赤い石で連絡を取り合う。


「今日には王都へ着くはずだ」


 勇者の定例会議でアシノは言った。


「俺達も今日には行けそうだ!」


「私達もですね」


 イタヤとトチノハもそう言ってくれて、王都で待つサツキは心強さを感じる。


 そして、夜になり、軍の駐屯所で不思議な動きがあった。それは魔人の残した武具を持つ特殊部隊にだ。


 彼らは国防のために集められたエリート達で、その存在は公にはされていない。


 部隊は王都の各地に散らばり、魔人の出現に備えていた。


 外壁の上に立っているその部隊の一人が、急にガクリと倒れそうになり、膝をつく。


「おい、どうした?」


 相方が聞くが、その相方も同じ様になった。


 そして、フラフラと立ち上がる。瞳は怪しく紫色に光っていた。


 一人が天に向かって杖を掲げる。数分もすると地上近くに分厚い不気味な雲が現れ、局地的な豪雨を降らせ始めた。


 もう一人がその豪雨を降らす雲に向かって、杖から光線をだす。すると雨は凍り付き、こぶし大のひょうへと変わる。


 その地域はパニックになった。大量に降るひょうによって、窓は破れ、天井は穿うがたれ、外に様子を見に来た人間の命を奪う。


 時を同じくして、今度は外壁の上で、一人の女が杖を足元に突き刺した。そこからマグマが溢れ、壁を溶かしながら街の中へと流れていく。


 また、別の箇所では雷が振り建物を壊し、壁すら切り裂く風が吹き、人の形をした影が現れ、住民を襲う。


 場内では連絡を受けた衛兵がサツキの元まで走ってきた。


「サツキ様!! 王都内で異変が起きています!!」


「分かりました、場所は!?」


「それが、王都内の各所で起きております!!」


 衛兵も状況を掴めていないといった感じに言う。


「魔人の仕業か!? カミクガ、先に行って状況確認を」


「わかりましたぁ」


 ゆるい返事とは裏腹に、カミクガは足に雷を纏わせ、一気に走り出す。


「私達も急ぐぞ!」


「オッケー、サツキ!」


 サツキとクサギもその後を追いかけ、城を出る。


「何ですかこれ……」


 外に出たカミクガが見たものは逃げ惑う人々の叫びと、天変地異だった。


 北を見れば分厚い雲があり、南を見れば火の手が上がっている。雷鳴も聞こえ、強風も吹いていた。


 とにかく、状況を見分けないといけないと思い、近い北側へとカミクガは向かう。 


 カミクガの前には地上近くに浮かぶ雲が見えた。そこから降るのは雹だ。


「なにこれ……」


 確実に裏の道具によるものだと察したが、それが分かった所でどう対処すれば良いのかが分からない。


 一足先に行ったカミクガの後をサツキとクサギも追う。


 探知盤を取り出したクサギが見たものは、王都の城壁を丸く囲むように浮かぶ赤い点だ。


「サツキ! 裏の道具で王都が囲まれている! マジやべぇ!!」


 サツキは連絡石を使い、カミクガに状況を聞いた。


「カミクガ、そっちはどうなっている!?」


「北の方角に来ましたけど、どうすれば良いか……」


 困惑しながらカミクガが言う。


「何が起こっているんだ!」


「空のすぐ側に雲が浮かんでいて、そこから雹が降ってきてますよぉ!!」


 それを聞いてサツキが指示を出す。


「城壁の上に裏の道具の反応がある。城壁を調べてみてくれ!」


「わかりましたぁ」


 足に雷を纏わせ、壁を垂直に登るカミクガ。そこで見たものは、怪しげな人影だ。


「何やってるんですかぁ?」


 敵を気絶させる為に、地面を足でダンッと踏みつけて電気を流す。


 次の瞬間、カミクガは驚く。敵も同じ様に地面を踏みつけ、土の壁を作り出した。


 電流はその壁に弾かれ、消え去る。電流が消えたことを確認した敵は、なんと土壁を思い切り殴り付けた。


 固い土の塊や、小石混じりのそれらは散弾のように襲いかかった。


 反応が遅れたカミクガが避けるよりも早く、散弾はカミクガに命中した。体中をズタズタに切り裂かれた彼女は、そのままフラリと城壁の上に倒れる。


 敵がとどめを刺そうとやって来た時、風の力で一気に城壁まで登ったサツキが間に割って入った。


「カミクガ遅れたな、済まない」


 ムツヤから渡されていた回復薬をカミクガに振りかけると「パンニャコッタ!!」と叫んで傷が治る。


「サツキちゃんありがと、でも相手は相当やばいですよぉ」


「アイツ達はおそらく、国の特殊部隊だ。大方おおかた魔人に操られているんだろう」


 サツキは魔剣『カミカゼ』と短剣を持ち言った。カミクガも魔剣『カタトンボ』を構える。


「ッ!! カミクガ上だ!!」


 サツキに言われ空を見上げた。上空から二人目掛けてピンポイントに大量の雹が降る。


 狭い城壁でそれらを躱すのは難しい。サツキはふわりと飛び降り、カミクガは壁をまた走る。


 だが、それは罠だった様だ。壁から真横に土壁が現れ、そこに敵が飛び降りる。


 避けきれない量の散弾が飛ぶ。更に雹も襲いかかる。咄嗟とっさにサツキは竜巻を起こすが、腹に重い一撃を一発、その他の弾も体中に貰ってしまった。


 カミクガは散弾の雨を全身に浴び、ドサリと地上に叩きつけられる。気を失ってしまい、自分で回復薬を飲むことも出来なかった。

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