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第266話 五英雄VSディアボロス




 5人とディアボロスが繰り広げてきた戦いも終わりが近づいてきた。互いに体の底から最後の魔力を捻り出して突進する。最初に仕掛けてきたのはディアボロスだった。


「前衛が1人欠けさえすればお前達の連携は崩壊だ。まずはシリウス、お前からだ! 消し飛べ、インフェルノ・ストライク!」


 ディアボロスの手元から直線状にマグマが放出された。その勢いは氾濫した川を彷彿させる程に激しく、瞬く間にシリウスの目の前まで到達する。


 しかし、シリウスは慌てていない。斜め後ろの離れた位置にいたシルフィにアイコンタクトを送る程に冷静だった。マグマに飲み込まれてシリウスの姿は見えなくなってしまったが、きっとどうにかして耐えるか、避けているのだろう。


 一方、ディアボロスはシリウスを倒せたと思い込んでいるのか、拳を強く握って喜んでいる。息を切らしながらも次は誰を狙うべきかと見渡しているディアボロスだったが、その余裕はすぐに消える事となった。


「マジック・リフレクション!」


 戦場に突如、シルフィの詠唱が響き渡る。するとシリウスのいた位置を勢いよく流れていたマグマが意思を持ったかのように逆流し始めて、高速でディアボロスの方へ流れ始める。


「まずい! 反射魔術かッッ!」


 あれ程のマグマをそっくりそのまま返す力がシルフィにあるとは。俺と同じくディアボロスも予想できなかったようだ。慌てたディアボロスは羽を広げ、回避の為に真上へと飛び上がった。


「ふぅ……危ないところだった。まさかシルフィがあれ程の反射魔術を使いこなすとは思わ……何っ?」


 真上へ飛び上がったディアボロスは目を見開いて地上を見つめ、驚嘆の声をあげる。そうなるのも無理はない、何故ならシルフィがディアボロスのいた位置に跳ね返したはずのマグマが綺麗さっぱり消滅し、マグマがシリウスの立っていた位置で留まっていたからだ。


 ディアボロスは訳が分からず困惑しているようだが、地面から戦闘を眺めている俺には今の状況がどういうものか理解することが出来る。シルフィが唱えたマジック・リフレクションはブラフで本当はマグマを跳ね返してはいなかったのだ。


 シルフィは嘘の魔術名を叫び、自身が得意な光魔術で光を屈折させて、マグマを跳ね返したように見せかけ、ディアボロスを真上へ誘導したようだ。


 スキル『記憶の水晶』が使えるシルフィなら一時的に幻を見せるぐらい造作もないのだろう。普通の魔術師と比べると高次元過ぎる魔術だがシルフィなら使えても不思議ではない。


 そして、ディアボロスを空へ飛ばす事こそが勝利の鍵だった。ディアボロスの背中側には地属性魔術で小さな石の壁と足場が生成されていた。その状態が五英雄の戦闘において何を意味するのか俺はよく知っている……アイ・テレポートだ。


 リーファは右手でグラド、左手でディザールの手を握り、ディアボロスの背後に生成された石の壁を見つめて叫ぶ。


「アイ・テレポート!」


 現代のリリスには実現不可能な3人分の瞬間移動が発動される。彼らは一瞬にしてディアボロスの背後を取ることに成功したのだ。現代ではグラッジが所有する鞘、虹ノ一閃にじのいっせんに剣を納め、風の魔力を溜めたグラドは必中を確信した笑顔で呟く。


「空中では避け辛いだろ? 喰らえ、七鎌穿しちれんせん!」


 なんとグラドはソル兵士長よりも高威力の鎌穿れんせんを7つ同時に放ってみせた。グラドの言う通り空中で素早く動けなかったディアボロスは7つの斬撃の内2つを被弾し、羽に傷を負う。


「ぐああぁぁっ! は、羽がッ!」


 完全に空中での制御を失ったディアボロスは為すすべなく真っ逆さまに落下を始める。その隙をグラドとディザールは見逃さなかった。グラドは空中の足場の上で高密度・高重量の氷の斧を作り出して持ち手を強く握りしめる。


 一方、ディザールはアスタロトを彷彿とさせる重力魔術をディアボロスの体とグラドの斧に放出する。結果、ディアボロスが高所から勢いよく地面に叩きつけられると同時にグラドが高さを活かした落下のエネルギーを斧に乗せ、渾身の力で振り下ろす。


「こいつで終わりだぁぁっ!」


 ディザールとグラドの強力な連携技がディアボロスの胸に直撃する。あまりの衝撃にディアボロスの背中越しに地面が弾け飛び、この日1番のクレーターを作り出す。


 中々消えない土煙がようやく晴れて地面を映し出すと、そこには指一本動かせなくなったディアボロスが倒れていた。


 息をするのを忘れる程の激闘を制し、5人が魔人ディアボロスに勝利したのだ。歴史書で結果は分かっていたものの、それでも実際に戦闘を見ているとハラハラしたし、勝てて本当によかったと思う。


 改めて戦いを思い返してみると5人の戦いっぷりは本当に凄かった。


 まずシリウスがパラディンのように敵の攻撃を一身に受けてやられたフリをする。次にシルフィが嘘の詠唱と幻術でディアボロスを上空へ追いやり、リーファが仲間を運んで距離を詰める。


 最後にグラドがディアボロスの羽を破壊して、ディザールがディアボロスを地面に固定しながらグラドの火力を補助し、氷の斧を握ったグラドがトドメを刺す。まるで思考を共有しているかのような連携に5人の絆を強く感じる結果となった。


 5人は互いに目を見て頷き合い、勝利を喜び合った。特にダメージを多く受けたシリウスにディザールが肩を貸して歩きながら全員が倒れているディアボロスの前に到着した。


 目が半開きで今にも死んでしまいそうなディアボロスを見下ろしながらグラドは問いかける。


「ディアボロス、あんたは本当に強かったぜ。もう喋るのも辛いほどダメージを負っているだろう。だが、質問には答えてもらうぞ。お前の本当の目的は何だ?」





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