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第320話 遅い目覚めと理由



「みんな、長く苦しい過去を見てくれて本当にありがとう。これで我々が戦うべき真の敵、そして敵の本質が見えてきたはずだ。それではシルフィが最期に残したもう1つ記憶の水晶を見て欲しい、いや、聞いて欲しい。これには遺言が録音されている」


 シリウスがもう1つの記憶の水晶を取り出し再生させると映像ではなくシルフィの声だけが聞こえ始める。



――――慌ただしいお別れになっちゃってごめんなさいシリウス。この小さな記憶の水晶を渡したのは貴方にやって欲しい事を伝える為なの。それはガラルドちゃんの今後について。もしダリアそのものが存亡の危機に瀕したり、ガラルドちゃんの保護が難しくなったら何処かの国の孤児院に送ってあげてほしいの――――



――――逆にクローズさん達を止める事が出来て安全を確立できたならガラルドちゃんを『ナフシ液』から出してグラドへ返してあげて。それとダリアでの保護が可能な内はナフシ液で仮死状態を維持しつつ守り続けて欲しいの――――



――――そして、もし仮にクローズさん達を止める事が出来ないまま30年が経過してしまった場合はガラルドちゃんをディアトイルへ流して欲しいの。何故、外部から強い差別を受けているディアトイルに流すのかはちゃんと理由があるよ。それはディアトイル人が『最も有名になりにくくて、世に出辛い存在』だからなの――――



――――ガラルドちゃんの代用としてフィルちゃんを作ることが出来たけど、それでもガラルドちゃんがディザール達に見つかったら何をされるか分からない……だから目立ちにくく生きる事が1番安全だと思うの――――



――――そして、揺り籠の中には名前が分かるようにガラルドと書いた紙を入れておいて。今から30年後に赤ちゃんの状態で人生をスタートさせれば50年後にガラルドちゃんは20歳を超えているよね――――



――――そうなれば衝撃的な過去を知っても耐えられる年頃になったガラルドちゃんをシリウス達が見つけだして年老いたグラドに会わせることが出来ると思うの。その時期がガラルドちゃんの安全とグラドの年齢を考慮したうえで再会が実現できる限界時期だと考えてる。もちろんグラドが殺されていない事が前提となってしまうけれど――――



――――保護性、秘匿性、発見性、色々な要素を考えながら私が出した結論がそれです。30年どころか1年先がどうなっているのかも分からないけど、これが私がガラルドちゃんにあげられる最初で最後のプレゼントです。シリウスには迷惑を掛けっぱなしになっちゃってごめんなさい。貴方達と親友になれて本当に良かったよ。天国でリーファちゃんと一緒に貴方達の活躍を見守っています……とは言っても私は地獄に行っちゃうかもしれないけどね――――



 シルフィの音声はここで終わった。きっと俺の人生で最後に聞いた親の声がシルフィの遺言となるのだろう。


 俺はディアトイルで拾われた人生を今まで散々呪ってきたけれど、それすら俺やグラドを想っての事だったのだ。残念ながらグラドに直接会う事は叶わなかったけれど、俺達ならグラド達の意志を引き継ぐことはできる。


 本当は今すぐリリス、グラッジ、サーシャ、ゼロと過去について語り合いたいところだが、ひとまず俺はシリウスにこれからの事を尋ねる。


「シリウスさん教えてくれ。俺達はこれからどう戦っていけばいい? 貴方達を助け、先人達の無念を晴らし、モンストル大陸を救う為に」


「……敵は大量の魔獣を有していて、五英雄ですら歯が立たない圧倒的な力を持つアスタロトとクローズが主軸だ。それでもガラルド君は戦うつもりなのかい? 仮に君達が戦い放棄しても私は責めるつもりはないが」


「相手が弱かろうが強かろうが関係ない。俺の命は多くの人間の愛によって生かされたものだ。ここで戦わなければ死んでいるのと同じだよ。それに止めなきゃいけない家族もいるし、病気を治してくれたお人好しにも恩返ししなきゃいけないからな」


「……そうか、まぁ最初から返事は分かっていたが、一応確かめさせてもらったんだ。試すような聞き方をして申し訳ない。ガラルド君はずっとそういう生き方をしてきたと耳にしている。そして、後ろの仲間達の目を見る限り、どうやらガラルド君についてくるようだな」


 シリウスの言葉が気になり後ろを振り返ると、リリス、グラッジ、サーシャ、ゼロ、シン、グラハム、全員が俺の目を真っすぐと見つめて頷いた。アスタロト達との因縁は俺とリリスが特に深い訳だが、それでも全員がそれぞれアスタロト達を倒したい理由がある。


 改めて全員の結束を確認したところで俺が再度、これからの事を問いかけるとシリウスは順を追って説明を始める。


「では、シルフィが亡くなってからのアスタロト達の動きについて説明しておこう。記憶の水晶も無ければ身近で関わる人間もいないから、ざっくりとした説明になるが聞いてくれ。まず、クローズはシルフィが亡くなった後、サウザンドの息子ワンに転生することに成功し、しばらくは大人しく暮らしていた。恐らくシルフィが亡くなった事でアスタロトとの溝が深くなり、今もギクシャクしている部分はあるだろう」


 俺はワンが暴走したアスタロト抱えて去っていく直前、2人の関係性について話していた事を思い出していた。確かゼロからの問いかけに対してワンは



――――アスタロトと私は仲間というほど仲の良い間柄ではない。お互いの目的の為、一時的に協力し合っているだけなのだよ――――



 と言っていた。この言葉の意味するところは恐らくシルフィを間接的に死なせたクローズに激怒したアスタロトが絶交を言い渡したのではないかと推測している。


 もし、俺の推測が正しければ親友を欲しがっていたクローズがアスタロトという友を失ったことになり、敵ながら気の毒になってくる。


 次にシリウスは転生した後のクローズ達について話し始める。





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