「クローズが撒いた悲劇と災禍の種は大陸全土を揺るがしている。故に我々の大陸を守るには死の山の魔獣群を討ち、アスタロトとモードレッドを止め、クローズを倒さなければならない」
熱のこもったシリウスの言葉はきっと全員の胸に響いた事だろう。
俺は『ディアトイルの地位を向上させたい』『差別のない世界で胸を張って歩きたい』『俺を捨てた両親に会いたい』という想いだけで故郷を出たが、いつの間にか大陸を救う規模の戦いに足を突っ込んでいる。
リリスと出会って大陸の魔獣活性化を何とかしたいと思うようになり、シンと出会ってシンバード領が第二の故郷になり、サーシャやグラッジ達と出会って仲間の夢を叶え、悩みを解決してやりたい想いを抱く事ができた。
後は俺達の望みを叶えるうえで壁となるクローズ達を倒すだけだ。俺はガーランド団代表として、これからどう戦っていくべきかをシリウスに尋ねる。
「ここからはガーランド団代表として、ダリアの代表であるシリウスさんに聞きたい。俺達はこれからどうやって戦えばいい?」
「過去の話が終わった途端、早速リーダーの顔になったな、頼もしい限りだ。クローズ達とどう決着をつけるかだが、至ってシンプルな話になる。まずは魔獣群を使役する2つの勢力を大陸各国と協力して倒す事だ」
「2つの勢力? 死の山を中心に魔獣群があることは分かるが、2つに分かれているのか? 魔獣の集落を見た俺達には違いが分からなかったが……」
「魔獣や魔獣集落を見て判断した訳ではないぞ。2つの勢力というのは
「……なるほど、それで2つの周期が存在したんだな。人間になったクローズは
「多分ガラルド君の言う通り、ザキールが魔獣を動かしているのだろうな。いや、もしかしたら我々の知らない他の魔人が手を貸している可能性も考えておいた方がいいな。ディアボロスという前例もあるのだからな」
ディアボロスの名を出されて俺はウンディーネさんの言葉を思い出した。確か、ウンディーネさんはアスタロトと1度だけ接触したことがある。その際に色々な事を尋ねたはずだ。
過去にウンディーネさんが魔人の事を尋ねた時にアスタロトは……
――――私は片手で数えられる程の魔人としか組んではいない。魔人は大半が俗世に興味もなく閉じこもっている奴ばかりだ。強いクセに人間に見つかることを恐れ、集落に引きこもっている――――
と言っていたはずだ。この言葉をそのまま信じるならアスタロトを含めて最大6人の魔人が敵となる可能性がある。それだけの人数が
長い間分からなかった魔日の事が分かって良かったけど別の疑問が湧いてくる。それはクローズ達がわざわざ定期的に魔獣群を率いて町を攻めている理由だ。早速、シリウスへ聞いてみることにしよう。
「知っていたら教えてくれシリウスさん。何故クローズ達は確実な勝算があるわけでもないのに定期的に魔獣群をけしかけてくるんだ? これじゃあ手駒を失って痛手じゃないか?」
「いいところに気がついたな。これはダリアが行っている最近の研究で分かったのだが、魔日で襲ってくる魔獣はほぼ全てが老体なんだ。これが何を意味しているか分かるかい?」
「……死の山の魔獣が各場所に散らばる大穴の集落で管理されていることを考慮すると……もしかして繁殖力が低く、先の長くない個体をぶつける事でクローズ側への損失を減らしつつ、人類側にダメージを与える事が目的なのか?」
「その通りだ。
良く言えば合理的、悪く言えば冷徹な作戦だ。魔獣達を倒そうとしている俺達が偉そうに言える事ではないが、それでも俺達は魔獣の事を生存競争のライバルとして見ている。残った死体も有効に使い、食物連鎖に近い形となるように日々努力だってしている。
クローズ達は人間が嫌いで、魔獣の事も別に大切にはしていない。彼らが本当に大切にしたいものは何なのだろうか? クローズはサラスヴァ計画さえ達成できればそれでいいのだろうか? そもそも、アスタロトの望みである人類殲滅が叶えばサラスヴァ計画どころの話ではなくなるはずだ。貴重な人間種が潰えたら文明進化による知識の向上がなくなるのだから。
アスタロトやクローズの真の目的を理解していた気になっていたが、まだ全てを理解した訳ではないのだろう。彼らと直接話せば分かるのかもしれないが、それはきっと最後の戦いの時になると思う。
とにかく俺達は魔獣群との戦争に勝たなければいけない。俺は再度、戦い方をシリウスへ問いかける。
「それじゃあ俺達は大陸会議で決まった通りに死の山へ攻め込み、アスタロト達を倒し、魔獣群を殲滅させればいいわけか?」
「それは概ね正しいのだが、同時にバランスを考えて戦わなければならないから、単純な話でもないのだよ。大陸は今、ざっくりと分けて3つの陣営がある。1つはアスタロト陣営、2つ目はシンバードを中心とした同盟陣営、そして、1国単位では大陸で1番の軍事力を持つ帝国陣営だ」
「えっ? ちょっと待ってくれ。帝国だって同盟陣営だろ? シンバードや他の国々と一緒に死の山へ攻め込むって大陸会議で約束したんだぞ?」
「それはあくまで死の山での戦争に限った話だ。全ての国が自国領の戦力・人手に余裕を持たせる為に死の山へ送り込む人数は減らすと大陸会議で取り決めがあったのだろう? もし同盟陣営がアスタロト陣営と全力でぶつかり合って勝利しても、疲弊したところを帝国陣営がシンバード本国を狙って攻撃すれば終わりだ。今、世界で1番勢いに乗っているのはシンバードだからシンバードが落とされることは帝国一強時代になることを意味するだろうな」
普通の国なら道理の通っていない戦争を吹っかけてくることはしないと思うが、度々
ましてや、今の帝国はアーサーが亡くなりモードレッドが頂点になっている。勢力拡大という意味でも近年、帝国はシンバード領に負けないぐらい勢力を広げている実績がある。
大陸北半分で考えれば初めてリリスと出会ったヘカトンケイルも帝国の管轄だし、ジークフリートだって危うく帝国の駒になりかけていた。ざっくりと計算して今のモンストル大陸における戦力分布はどんな割合なのだろうか? 確かめておこう。
「教えてくれシリウスさん。今のモンストル大陸だと3つの陣営の戦力割合はどうなっているんだ?」