目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第323話 戦いの誓い


「教えてくれシリウスさん。今のモンストル大陸だと3つの陣営の戦力割合はどうなっているんだ?」


 俺が尋ねると、シリウスは地図に数字がびっしりと書かれた紙を広げ、自分なりの予測を教えてくれた。


「帝国に送ったスパイやネリーネ夫妻をはじめとした内通者によって私は、ある程度の情報を得ている。その情報が全て正しいと信じるならば戦力割合は……同盟陣営30、帝国陣営30、アスタロト陣営40といったところかな。やはり近年のシンバードによる血の流れない領土拡大の影響は大きい。今なら帝国と同じ割合と言えるだろう」


 シリウスに褒められてシンは少し嬉しそうに鼻を掻いている。シンバードが褒められると、シンバード陣営の一端を担っている俺も嬉しくなってくる。だが、それでもアスタロト陣営の方が強いのなら気を抜けそうにない。


 その後、シリウスはどの国にどんな戦力があるのか細かく俺達に教えてくれた。具体的になっていく戦争のイメージに全員の緊張が高まっていく。


 一通り話し終えたシリウスは最後に大きく咳払いをすると、長かった過去視と話し合いの締めに入る。


「みんな、長い間我々ダリアの話に付き合ってくれてありがとう。アスタロト達に我々のアジトの場所が割れてしまった以上、ダリアの面々は他のアジトへと移動する。他のアジトは大陸各地に散らばっているが、とりあえずシンバード近くのアジトへ行く事にする。追って連絡するから、詳細な話……特にアスタロト達の止め方については後日話し合うこととしよう。それでいいかな、ガーランド団代表ガラルド殿」


「ああ、オッケーだ。まぁ本当はシンに聞くのが正しいと思うけどな。とりあえず俺は戦争の進め方も気になっているが、それ以上にシリウスさんの言う『アスタロト達の止め方』ってやつが気になってる。詳しい話が聞ける日を楽しみにしてるぜ」


「……君達を満足させられればいいのだがね。まぁとにかく今日は解散だ。この後、君達は各国の代表とディアトイル観光をするのだろう? 湖のアジトはもう抜け殻になるから少しここで休憩してからディアトイルへ帰るといい」


「ありがとう、助かるよ」


 シリウスとフィア、そしてダリアの面々は俺達に一礼すると、素早く身支度を整えて洞窟から去っていった。あの手際の良さを見る限り、度々色々な所へ鞍替えしてきたのだろう。ダリアの大変だった日々が伺える。


 俺達はシリウスの言葉に甘えて、しばらくボーっとしていた。数時間の映像を見ていただけとは思えない程に濃厚だったから頭が疲れてしまったのだと思う。


 そんな中、過去に強い因縁のある俺達に気を遣ったシンは「過去視を終えて、若い君達だけで語り合いたいこともあるだろう? 俺達は先にディアトイルへ帰っているよ。ゆっくり話すといい」と言って、シンとグラハムとゼロは一足先に帰っていった。


 洞窟に残った俺、リリス、サーシャ、グラッジは何から話せばいいのか分からず、暫く沈黙が続いていた。でも黙っていては気まずいだけだ、まずは俺が口を開く事にしよう。


「あ~、色々な事があったけど、まず最初に言わせてくれ。リリス、俺の為に命を差し出してくれて本当にありがとな。まさか女神リリスとして幾度も危機を助けてくれただけじゃなく、人間リーファとしても俺を助けてくれていたなんてな」


「い、いえいえ、ただ私はシルフィちゃんとグラドが大切にしているものを守りたかっただけなので。それに、こうして同じぐらいの肉体・精神年齢になってから一緒に旅が出来るようになるなんて思いませんでしたから私こそ感謝しています。神様も粋な事をしますよね」


「俺も肉体を何十年も仮死状態で維持し、女神となったリリスと出会えた運命に感謝しているよ。きっと命を貰った恩返しをしなさいって神様が時間を遅らせてくれたんだな」


「ガラルドさん……運命だなんて。素敵な言葉を使ってくれて嬉しいです。これはもう結婚まで秒読みですね! 小っちゃかった妹フィアちゃんもずっと年上になってシリウスと結婚していましたし、負けてられません」


「ふっ、ずっと苦しそうなリーファを見ていたから、いつものリリスがまた見れて嬉しいぜ。俺はディザールとグラドとシルフィの息子として、そして、リリスはディザールの親友として、必ずアスタロトを止めようぜ!」


「はい! 人生……いや、魂を賭けた大勝負です、絶対に勝ちましょう!」


 俺とリリスは互いの目を見つめながら頷き合った。まだまだ話したいことはいっぱいあるが、それは帰ってからにしよう。次はサーシャに声を掛けよう。


「サーシャは過去視を通してエンドの母体と生みの親のことが分かって良かったな。しかも、大陸の命運をかけて頑張っているなんて誇らしいよな」


「うん、攫われている事実と日記帳を読んで得た情報から悪い人ではないとは思ってたけど、具体的にどんな研究を手伝わされているかを知れたのは嬉しいし、シリウスさんに情報を流して協力していた事実も凄く嬉しいよ。だけど、両親を取り戻す日まで安心は出来ないよね。だからガラルド君、リリスちゃん、グラッジ君、一緒に頑張ろうね。大陸と一緒に自分達の未来も守りきろう」


 サーシャの言葉で全員に気合が入った。『大陸と一緒に自分達の未来も守りきろう』という言葉が俺は凄く気に入った。結局、善を循環させて、大事な人達を助けたいと願って行動する事、それが自分自身に還ってくると実感させてくれるからだ。



 そして、最後に俺はグラッジに言葉を掛ける事にした。過去視をすることでグラッジと俺には少なからず血の繋がりがあることが証明された訳だが、それでもグラッジへの接し方は変わらない。俺はいつも通り親友・戦友としてグラッジに声を掛ける。


「グラッジはお爺さんの無念を晴らす理由が更に強くなったな。あの世のグラドを安心させる為に一緒に最前線に立ってディザールを止めよう。ザキール率いる魔獣群との戦争で五英雄のように活躍できた俺達ならきっと出来るはずだ」


「はい、絶対に止めましょう。それが子孫である僕達からのプレゼントになりますからね。あ、話は変わりますが、ガラルドさんと僕って5歳ぐらいしか変わりませんけど、立場的には叔父と甥っ子なんですよね。これからは叔父さんと呼びましょうか? なんちゃって」


「煽るぐらい余裕があるなら過去視を終えての動揺は無さそうだな、頼もしい限りだ。ディアボロス戦で完璧な連携を取っていた五英雄みたいに俺達も力を合わせてアスタロトを止めてやろう」


「はい! その時は不滅の絆ってやつを見せつけてやりましょう! 現代を生きる僕達英雄の卵が!」


 グラッジはそう言って握手を求めてきた。俺達2人はグラドとディザールのようにはならないぞ! というグラッジの強い熱を感じる。少し照れくさかったが、ここで握手を返さないのは漢じゃない――――俺はグラッジの求めに応じて強く手を握り返す。


 たった1日で俺達の戦う理由が沢山増えた。強大過ぎるアスタロト達に抵抗できるのか不安で堪らないが、とにかくやれることをやるしかない。




 俺達4人は人の居なくなった洞窟で掛け声をあげて気合を入れ終わると、そのまま洞窟を出てディアトイルへと帰っていった。









この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?