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第40話 御影

「聞きたいことがあるんです。さっき話していた人狼族のこと。財前さん、詳しく調べたって言ってましたよね?」

「人狼族?」


 私の質問が不意だったのだろうか。財前はきょとんとした表情を浮かべていた。


「『村が襲撃されて数人だけ助かった』って話してましたけど、そもそもどうして襲撃されたんですか?調べたけど情報が見られないんです」


 そう、襲撃のことは私も知っていた。以前調べたが、なぜかニュースサイトにアクセスできなかったのだ。財前は困惑の表情を浮かべた後、ポリポリと頭を掻きながらぎこちなく答えた。


「…血が欲しかったんだろ」

「血を?どういうことですか?」

「どういうことって、お前…。今まさにミレニアが人狼族の血を利用しまくってるじゃねえか。それが、襲撃された理由だ。ただ、襲撃でほとんど殺されちまって、生き血はあまり手に入らなかったみてえだがな。人狼族の血はな、リサイクルできねえんだ。つまり、血の力を得たいなら人狼族から直接奪わなきゃなんねえ。だから狙われたんだよ」


 ──やっぱり。


 ずっと抱えていた疑念がやっと解けた。人狼族の村を襲撃したのはミレニアだったのだ。思いを巡らせる私を見て、財前は不思議そうに首を傾げる。


「おいおい、どうした?」

「い、いつ?人狼族の村は、いつ襲われたんですか?」


 私は声を震わせながら、財前に尋ねた。財前は私の驚きを察したのか、わずかに表情を引き締め、落ち着いた口調で続ける。


「…十年前だ。当時はかなり大々的に騒がれたが、今となっちゃあ報道規制がかかっているのか、まともに報じるメディアなんてありゃあしねえ。あんな人道に反したことやってる団体だが、報道関係はもちろん、政府や警察内部にもミレニアの信者がいるって噂だ。まともにミレニアを追ってるのは、今じゃSPTぐれぇなもんだろうな」


 ──十年前。


 確か焔が「焔」と名乗り出したのも十年前から。村が襲撃された後、彼は名前を変えて生きてきたのだろうか…?


「…大したもんだぜ、あの焔も」

「え?」


 突然、財前が「焔」と口にして、私は思わず彼を見上げた。


「ミレニアにとっちゃあ、ほとんど存在しねえ人狼族の生き血は、喉から手が出るほど欲しいはずだ。SPTなんて入ったら敵に姿を晒すようなもんだろ。そんな危険を冒してでも入るなんて正気の沙汰さたじゃねえ。入隊を許可する方もする方だが、入る方も相当肝が据わってるぜ。まあ、焔ぐれえ強ければ些細な問題かもしれねえけどよ」


 言われてみれば確かにそうだ。万が一拉致されるようなことがあれば、ミレニアは焔の血を容赦なく奪って利用するだろう。


 でも、なんだろう。この違和感は…。


「あ?どうした?黙っちまって」


 財前が怪訝けげんそうに尋ねてくる。財前の言葉が耳には入っていたが、私は目を泳がせていた。頭の中で、さっきの彼の言葉がこだまする。


 ──ミレニアにとっちゃあ、ほとんど存在しない人狼族のは、喉から手が出るほど欲しいはずだ。


 もしかして今、ミレニアが利用している人狼族の血は…。


「おいって!聞いてんのか!凪?」


 財前の声に、私はハッとして前を向く。


「大丈夫か?お前」


 心配そうに私の顔を覗き込みながら尋ねる財前。次の瞬間、私は思わず彼の和服の胸元を両手で強く掴んでいた。


「財前さん、教えてください!さっき『ミレニアは人狼族の生き血が欲しい』って言ってましたよね!?」


 私の必死さに動揺したのか、財前は驚いた表情を浮かべる。


「あ、ああ」

「つまり、ミレニアは今を使っていて、今もその人から血を奪い続けているってことですか!?」


 私は焦りと真剣さが混ざったような眼差しを財前に向ける。財前は一瞬戸惑ったように眉をひそめ、言葉を探すように私の顔をじっと見据えながら、静かに口を開いた。


「…ああ。流石にソルブラッドじゃあねえが、それでもあいつらが十年前に手に入れたのは、ある意味でだ」

「とびきりの血?」

「ミレニアが手に入れたのは、人狼族の中でも最凶と名高い、御影みかげ一族の血。人狼族を束ねる本家末裔の生き血だ」

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