次の瞬間、焔が一歩踏み込み、陰の気を
「な…凪!?」
バサバサとヤトの羽が擦れる音が聞こえる。長官の腕の中で暴れているのだろう。陽の気を使い過ぎた。せっかく自分の意志で引き出せるようになったのに…結局私は未熟者。使いこなせるほどの精神力がないのだ。
私は膝をついたまま、焔を見上げた。彼は一瞬心配そうな表情を浮かべたものの、唇を噛み、木刀を私に向ける。これで終わりだと言いたいのだろう。私はうなだれる。もう人狼化の力も出せない。
やっぱり私はこの人には──。
そう思った時、とりわけ大きな声が
「立て!幸村凪!!」
突然の声に体がビクッと跳ねた。声の主はあの丹後だった。
「た……ゲホッ」
名前を呼ぼうとして思いきりむせる私。ちょっと申し訳なくなる一方で、驚きの方が勝っていた。あの丹後が私に喝を入れるなんて。
「貴様…!この俺に稽古をつけてもらいながら、これしきのことで諦めるつもりか…?勝負はここからだ!食らいつけ!!!」
あの時の気合はどこいったコノヤロー、とでも言いたげな丹後の喝。予想外過ぎて笑みがこぼれる。ふと周囲を見ると、みんなが私を見ていた。
私の気持ちを汲んでくれた天宮さん。
稽古に付き合ってくれた上木さん、丹後さん。
心配そうに見つめてくれるヤトに花丸さん、長官さん、江藤さん…。
それに……
──私の力をほんの少しだけ、君にプレゼントしようかな。
私は左手首の赤いブレスレットを見る。そうだ。昨日ヤトパパさんが教えてくれた詠唱を使えば、少しだけ力が引き出せる。その力を――。
そう思った途端、焔が再び駆け出してきた。ギョッとして、膝が震える中、なんとか立ち上がる私。体力が尽きたのが自分でもわかる。ここまで来たら、もう気合だ!
「ていや!!」
気迫と共に、焔の太刀筋を思いきり弾く。だが、それも一瞬だった。焔は次の一撃に向け、さらに気を練り上げ、再び木刀を振り下ろす。
ガンッ!
私は竹刀を頭上に掲げ、彼の攻撃をなんとか受け止めた。だが、焔は陰の気をさらに放出した。背筋が寒くなるような感覚が襲う。ここで決める気だ。その時、耳元で静かな声が響いた。
「諦めろ、凪」
この言葉が私の心に火をつけた。
今更何を?
諦めきれないから、私はここに立ってるんですよ。
焔さんんんん…。
(若干イラついた)闘志が爆発する。
私は両手でぎゅっと竹刀を握りしめ、見上げるように焔を睨みつけた。
「…絶対に、絶対に…諦めません!!」
──その瞬間。
ポンッ!
まるでスイッチが入ったかのように、体の中から小さな音が弾けた。再び金色の光が竹刀を
バシッと拮抗する陰の気と陽の気。電流のような光が周囲に走り、互いの気がぶつかり合い、激しく相殺し、新たな波となって周囲へと広がる。その衝撃で、まるで風が生まれたかのように、私たちの間に強烈な気流が湧き起こった。風は渦を巻き、竜巻のように私たちの周囲を旋回する。
そして、次の瞬間──。
──パンッ!
鋭い衝撃音と共に、焔の陰の気が消えた。
いや、違う。
私の陽の気が競り勝ったのだ。
ここだ──!!
私はすぐさま体勢を立て直し、突きの構えを取る。そして、渾身の力を込めて竹刀を突き出した。だが、その時、焔の鋭い眼光が光る。彼は一秒にも満たない間に再び陰の気を
鋭い斬撃音が空気を切り裂いたその時、カランと乾いた音が後方で響く。
何が起きた?
私は目を見開く。何が起きたのか、理解が追い付かない。ふと、自分の手を見て、ようやく状況を理解した。
竹刀がない。
焔の一閃が、私の竹刀を後方へと薙ぎ払ったのだ。