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第133話 激突

「…ほんとしつこい。何の用?」


 私は瓜生の薙刀を雷閃刀で受けながら、ふてぶてしく笑う。


「…瓜生さんの飛石、ちょこっとお借りします!」


 瓜生は舌打ちをし、さらに薙刀に力を込める。


「それが人様から物を借りる態度?」


 ぶんっと薙刀を振り回す瓜生。

 私は反射的に間合いを取った。


 瓜生が手にしている薙刀──。

 これだけでも相当厄介だが、彼女はさらに人狼の気をまとっている。天宮によると、瓜生は人狼の血を入れられたミレニアの使徒の右手を、自らの右手と引き換えに受け入れた。薙刀ももちろんだが、彼女の右手もかなりの脅威だ。


 私の雷閃刀は約一メートル。対する瓜生の薙刀は二メートル。薙刀は間合いが命。特に中間距離だと刀はリーチ負けしてしまう。だが、短距離──懐に飛び込めば、薙刀は振り回しづらい。つまり、彼女に勝つには懐に入る必要がある。問題はどうやって、それをするか…。


 すると、瓜生が正面から物凄い速さで突きを繰り出してきた。私は仰け反るように紙一重でかわす。すると、足元から殺気が這い上がってきた。薙刀が下段から迫って来る。私は咄嗟とっさに大きく飛び退く。ザッと薙刀が足元をかすめる音が、鋭く響いた。


 息を呑む間もなく、瓜生は鋭く地を蹴り、今度は薙刀を横に払おうとする。狙いは、胴。私は雷閃刀を握りしめ、半身を入れて間合いを詰めた。意外だったのか、瓜生の眉が僅かに動く。


 薙刀は振り終わりの隙が大きい。真正面で受けるのではなく、少しでも、懐に飛び込まなければ勝機はない。間合いを詰めるのと同時に、私は目を閉じ、意識を集中させる。そして──。


 ──バチッ!


 体から金色の光が弾け、雷閃刀を稲妻が覆う。稲妻は一直線に瓜生へと向かうが、一瞬のうちに瓜生は人狼の陰の気をまとい、パンっと光と雷を打ち消した。


 気迫が、強すぎる。


 私はさらに一歩踏み込み、再び金色の光を放つ。先ほどよりも強く、激しい光が雷閃刀を包み、花火が弾けるような音が響く。狙いは一点──瓜生の小手。まずは彼女の薙刀を、叩き落とす!


「届け、金色の光よ!」


 叫ぶのと同時に、金色の稲妻が瓜生の手元へと伸びた。そして…。


 ──バンッ!


 稲妻が瓜生の手を直撃した。彼女は堪らず薙刀を落とす。この隙を逃すものか。私は迷わず駆け出し、雷閃刀を高く振りかぶる。


 一気に勝負を決める──今ここで!


「ていや!」


 雷閃刀が煌めき、雷光が空間を裂く。数秒後、光が収まると、瓜生は地面に倒れ込んでいた。


「やった!凪の勝ちだ!」


 声を上げてヤトがはしゃぐ。だが、私は構えを崩さなかった。以前、勝ったと思って構えを緩めた時、そこを瓜生に突かれた。同じ失敗はしない。私は肩が激しく揺らしながら、切っ先を瓜生に向け続けた。


「……油断はしない、ってこと?」


 寝そべったまま、瓜生はにやりと笑った。やはり、まだ勝負はついていなかった。


 実は今、かなりピンチだ。一気に力を使い過ぎた。五分でも休めればいいのだが、そんな余裕はない。こうなったらもう気合だ。私は息を吸い、目をギュッと閉じる。が、次の瞬間、目を開いて驚いた。


 瓜生が──いない。


「凪!右だ!」


 ヤトの叫び。私はハッと右に視線を向ける。瓜生の薙刀は、すぐそこまで迫っていた。


「しまっ…」


 辛うじて膝をついてかわす。だが、咄嗟とっさのことでしゃがみ込む体勢になってしまった。上ががら空きだ。瓜生はすかさず上段に構え、薙刀を振り下ろす。


「凪!!」


 ヤトの声が響いた時、私は思わず目を閉じた。


 …衝撃が来ない。


 恐る恐る目を開ける。視界に飛び込んで来たのは銀色に輝いた雷閃刀。

財前が雷閃刀を手に、瓜生の薙刀を真正面から受け止めていた。

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