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20話 合宿3

「ごめんね...ごめんね...こんなに教えてもらったのに私全然泳げるようにならなくて」


「全然大丈夫だよ。一日で泳げるようになる人の方が少ないよ」


「そうかな?付き合ってもらってありがとね」


美咲さんが小さく微笑む。


「俺!俺トップバッターしたい!」


隣では棒を持った誠一がスイカの前に立っていた。


「しょうがないわね。あっ、でも次は私の番だから!」


「俺が一回で割るから日奈の順番はないぜ!」


「つまり誠一で終わらせなかったら良いわけね!」


「おいそれどういうことだよ」


泳ぎつかれた俺たちは、川の定番スイカ割りをすることになった。

目隠しをした誠一が棒を支点にして回り続けている。


「おっしゃ行くぜ!」


「右右」


日奈が指示を出す。


「ほんとか?」


「本当よ。私が信じられないっていうの?」


「信じられねーよ」


そう言いながらも誠一は右に回る。誠一、そっちはスイカとは真反対の方向だ。


「そこ、ストップ」


日奈がニヤニヤしながら誠一に指示を出す。

まぁ楽しそうだしそのままでいいか。


ちらっと見えた由美先輩は笑いがこらえきれないのか口元を押さえて横たわっている。


「そこよ!思いっきり行っちゃえ!」


そんな日奈の掛け声と同時に誠一は大きく棒を振ったが、それは空を切っただけだった。


「スイカねぇじゃん!」


目隠しを外した誠一が驚きの声を上げる。

日奈はお腹を押さえて呼吸が苦しそうな暗い笑っている。


隣の美咲さんも、口元を押さえて笑っていた。


===


いよいよ合宿は最終日となってしまった。

長いようで短かったなというのが、率直な感想である。


そんな最終日は山を降りて町を探索している。


「良い感じの田舎だねぇ」


「そうっすね!」


由美先輩が小さく呟くと、隣の誠一が反応した。


===


昨日、俺と美咲さん、日奈は誠一にとある相談をされていた。


「明日町探索があるじゃん?そこでお願いがあるんだけど」


「そうだね。なんかめんどくさそうなことになりそうだから寝ていい?」


「手伝ってくれたら何でも一個言うこと聞くから」


「言ったわね?男に二言はないわよ?」


「おう言ったぜ」


「良いわよじゃあ聞いてあげるわ」


「あの誠一俺たちは?」


「勿論健吾も美咲ちゃんのお願いも何でも一個聞くからお願いがあるんだ」


「まぁいいけど」


「私も別に良いよ」


「明日の町探索で、俺と由美先輩を良い感じにして欲しいんだ」


「良い感じって何よ。もっと具体的にないの?」


「こう...俺と由美先輩が近づいて...良い感じにって感じだ。つまり、任せる」


「まぁでも楽しそうだし、任されたわ!」


「私も、出来るだけ頑張ってみるね」


「まぁ、俺も出来る限り頑張るよ」


「みんな、ありがとう...お前たちは心の友だぜ」


誠一は涙ぐむ仕草をしながら、感謝の言葉を述べた。


===


で、今に至るというわけだ。

俺たちの作戦は至ってシンプルだ。


出来るだけ誠一を由美先輩の隣に置き、様子を見てはぐれる作戦である。


「ここのカフェ美味しいらしいよぉ。口コミで書いてたぁ」


「俺行きたいです」


「私も行きたいかも」


「おしゃれだね」


「みんな良さそう?じゃあ入ろうか」


カランカランとドアに備え付けられているベルが鳴る。


俺たちは店員さんに案内された席に座る。


ちゃんと由美先輩の隣は誠一だ。


「うわぁ全部美味しそ~」


「私このパンケーキ食べたい!」


「私もそのパンケーキ食べたいかも」


「じゃあ私もそれにしよっかなぁ」


「じゃあ俺はサンドイッチで」


「あっ、俺もパンケーキ」


それぞれ注文し、商品の到着を待つ。


(おい、ほんとに協力してくれるんだよな?)


(ほんとよ。任せなさい。今はちょっと栄養補給よ)


(俺もだ)


(私も)


(なんか俺騙されてないよな?大丈夫だよな?」


(騙されてると思ったらだめだ。騙されてるって気づいても気付かないふりするほうが気が楽だぜ)


(おいそれ騙されてるじゃねぇか!)


「う~ん。私抜きでコソコソ話されると、流石の私も寂しいなぁ」


由美先輩が俺たちを覗き込みながら、寂しそうに言う。


「いやいや全然別に由美先輩に隠してたわけじゃないですよ」


「ほんとぉ?」


「ほんとっす」


そんな会話をしているうちに、美味しそうな匂いを放った料理たちが続々と届いた。


(次頼むぞ。まじでお願いだ)


誠一が小さな声でそう言うと、日奈は着ている白のワンピースの胸をドンッと叩いた。

本当に大丈夫だろうか。


===


「はぁ美味しかった」


「超当たりのお店だったね」


「来年も合宿出来たら来たいですね」


「私来年も居るかなぁ」


「私が引退させませんよ!」


「ふふっ、そりゃ頼もしいね」


俺たちは歩きながら町を探索していく。

俺たちの作戦は非常にシンプルだった。


だんだんと俺と日奈、美咲さんの歩くスピードを落とし、誠一と由美先輩が少し前に離れた瞬間に、路地に隠れこむという作戦だ。


だんだんと俺たちと由美先輩たちの距離が離れていく。


誠一と由美先輩は楽しそうに会話を続けている。


(今だ!)


俺が合図を出した瞬間、三人で一気に路地裏に飛び込む。

ちらっと顔を出してみたが、由美先輩にはばれていないようだ。


「成功?」


「うん。無事に成功かな」


「よし!これで誠一に貸し1ね!一体何してもらうかしら」


そう言っている日奈は悪い顔をしている。

果たして誠一はどんな命令をされるのだろうか。


「私たちも、どっか行く?」


「そうだね。せっかく来たのに待機なんて勿体ないしね」


そう言って俺たちは路地裏から出る。


そして店を物色して10分ほどが経過した時。


「ねぇねぇこのお茶碗可愛くない?」


「中の猫可愛いね」


「ね!?そうでしょそうでしょ!」


「あっ居た居た~探したんだよぉ」


遠くから由美先輩の声が聞こえる。

まさかと思い、声のした方向に振り向くと由美先輩がこちらに手を振っていた。


俺たち全員、隣に居る誠一の顔は見れなかった。


===


「作戦...失敗しっちゃってごめんね」


「ほんとそうだよぉ。もう言うことちょっとしか聞かんからな!」


「ちょっとは聞いてくれるんだ...」


「でもさ」


日奈が笑顔で誠一を見つめる。


「結局由美先輩楽しそうだったから良いじゃん!」


「ハハッ、確かにそうだな」


誠一も笑顔で笑った。

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