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71話 告白

「はぁ...」


俺は小さくため息を吐きながら、体育館裏にある階段へ腰かける。

そして手に持っている弁当を膝の上へ広げた。


二週間前までは毎日のようにここで美咲と一緒に昼ごはんを食べていた。

美咲が来ない今、別にここで昼ご飯を食べる必要はないのだが、クラスの中で一人弁当を食べていてもどこか居心地が悪いので今も俺はここへ足を運んでいた。


ここ二週間、ずっとぼっち飯である。


俺が好物の唐揚げに手を付けようとした瞬間、後ろから声をかけられた。


「ぼっち飯じゃん。一緒に食べてあげようか?」


後ろを振り向くと、俺がぼっち飯をしている元凶が弁当片手に立っていた。


「いや、別に大丈夫です」


「そんな寂しいこと言わずにさ~」


そう言って先輩は俺の隣へ座る。


「いっつもは弁当じゃないのに、今日は君とここで食べたくて朝早くから作ってきたんだよ?」


「そうですか」


俺は弁当に蓋を閉め、そそくさと立ち去ろうとすると腕を掴まれた。


「ねぇ、なんで私とつるんでくれないの?」


「そりゃ...別れた原因だし...好きな人居るし」


「別れた原因って酷いなぁ。君がちゃんと早めに謝って、欲情に駆られなかったらこんなことにはなってなかったかもしれないのに」


「それは...」


何か言い返そうとしたが、言葉が思い付かない。

それは多分、先輩が言っていることが間違っていないからだろう。


「それに、その好きな人にずっと拒否されたままじゃん」


先輩の言葉に何か言い返したいが、何も言い返せない自分がもどかしい。


「このまま健吾君はずっと拒否されたままの日々を送るの?」


「それは...」


そうじゃなくなる日が来るかもしれないじゃないか。と言い返したいが、本当にそんな日が来るのだろうか。今の様子からは全然想像がつかない。


これからずっと、卒業するまで美咲は口を効いてくれないかもしれない。

ずっと考えないようにしてきたことだが、口にされた今、考えてしまう。


そしてだんだんと、その未来が一番起きる可能性が高い未来なんじゃないかと、ふと考えてしまう。


「そんな拒否された日々送るぐらいならさ、私と付き合っちゃえばいいのに」


「それは...出来ません」


「なんで~?」


「だって、俺まだ美咲のこと好きですから...」


「好きな子がいるのに、他の女の子の胸触ろうとしちゃうんだ。その程度の好きなのにまだ固執するの?」


何も言い返せない。


「そもそもあんなに謝ってて、私に塩対応の姿見せてるのにまだ口効いてもらえてないってことはさ。もう冷められちゃってるんだよ君。もともとあんまり温まってなかったかもしれないけどね」


俺はあの日の美咲の涙を思い出す。


「そんなことは...ないはず」


「はず、なんだぁ...好きな子にそんなに拒絶された今、その子に固執する必要あるの?」


「固執とかじゃなくて...好きだから...」


「そうやって言って大事な青春の高校生活を口を効いてすらくれない女子に捧げるの?」


俺は思わず黙ってしまう。


「私と付き合っちゃえば普通の青春の高校生活、いや、それ以上の青春送れると思うよ?だってほら、この学校で私より可愛い子居ないし」


一瞬考えてしまった。だが、俺は口を開く。


「でも...」


「でも?」


「まだ...好きだから」


「はぁ...」


と小さく先輩がため息を吐いた。


「だーかーら、その好きな子に相手にされないし、そもそも欲情に駆られて裏切っちゃうぐらいの好きなら、乗り換えちゃえばいいのに」


俺の脳内の悪魔がだんだん勢力を拡大していくのが分かる。


ここで先輩と付き合ってしまったら、最低な人間になってしまうような気がする。

もう美咲と取り返しがつかないところまで行ってしまう気がする。


だが、ここで先輩の告白を断ってしまったら、もう高校で彼女なんて出来ないんじゃないか。


そもそも美咲に口を効いて貰えない今、こんなに可愛い人と付き合える機会なんてもう二度と訪れないだろう。


「私と付き合ってくれたら私、君に全部委ねてもいいよ」


そう耳元で先輩が囁くと、先輩が上目づかいでこちらを見つめる。


俺の脳内でいろんなものが揺れる。


脳内の悪魔を振り払うため、頭をブンブンをと振る。


「それでも僕は先輩と付き合うことは...」


「ほれっ」


俺が振り返ると、先輩はスカートをたくし上げ、こちらをニヤニヤとしながら見つめていた。


あと少しでパンツが見えそうである。


「今ここで付き合ってくれたらもうちょっとスカート上げちゃおっかなぁ」


俺はごくりと唾を飲む。


一瞬、俺の脳内では悪魔が勢力のほとんどを占めていた。

もう先輩に流れていいじゃないかと。


先輩と付き合ってしまった方がこっから先、楽しいんじゃないかと。


その時、俺の脳内である二つの光景が浮かんだ。


一つは、あの時泣いていた美咲の光景。


もう一つは俺が告白した祭りの時の光景である。


ここで俺が先輩の告白を受けてしまえば、美咲は勿論、過去の美咲を好きという気持ちを裏切ってしまうような気がした。


俺は口を開く。


「先輩すみません。やっぱ俺、先輩と付き合うことは出来ないです」


「それはやっぱまだ美咲ちゃんのことが好きだから?」


「はい...」


「ふ~~ん。そっか」


先輩は少し残念そうにスカートを下ろした。


「今までの男子だったら、ここまでしたら全員付き合ってくれたのになぁ」


はぁ、と先輩が小さくため息を吐く。


「なぁんか、飽きちゃったかも」


「え?」


「いやぁだってぇ、ここまで男子に告白断られるなんて思わなかったんだもん。

いままで男子全員告白したら付き合ってくれたし、別にここまで断られた今、健吾君に固執する必要もないかなぁ」


「それってつまり....」


「もう健吾君に告白することも無いし、近づくことも無いよ。

ほら、早く大好きな彼女さんの所行ってみたら?

あっ、ちゃんとブロックすんの忘れずにね」


先輩はつまらなさそうに頭の後ろで腕を組んでいた。

俺が先輩を見ると、しっしと手で振り払らわれる。


俺が歩き出そうとすると、ぼそっと先輩が呟いた。


「せっかく勝負下着つけてきてあげたのに」

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