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76話 修学旅行4

「出たよ~」


俺は濡れた髪の上にタオルを乗せながら風呂場から出る。


「健吾君って結構長風呂なんだね」


「昔は妹とよく一緒に入ってたからなぁ。その影響かもしれん」


「妹さん長風呂ってさっき言ってたもんね」


俺はベッドに座っている美咲を横目にソファーに座り、なんのけなしにテーブルの上に置いてあるスマホをとドライヤーを手に取る。


家でも風呂上りは全く同じことをしているので、もはやルーティーンである。


頭の上に置いてあるタオルをテーブルの上に置き、髪を乾かそうとしたとき、美咲から声がかけられた。


「良かったら私が乾かしてもいい?」


「え?...うん。いいよ」


俺がそう言うと美咲はベッドから立ち上がり、俺の後ろに立つ。


俺は後ろに立つ美咲にドライヤーを手渡すと、美咲は早速ドライヤーの電源をつけて俺の髪を乾かし始める。


「楽にしてていいよ~。全然スマホ観てていいよ」


「でもな~」


「スマホ見てて」


「あっ、はい...」


美咲はそう言いながら手で俺の髪をときながら乾かしていく。


俺はテーブルにスマホを置こうとしていたが、そこまで言われてしまったので俺はスマホの電源を点ける。


そんなにスマホを見せたがって、一体どうしたのだろうか。


ふとそんな疑問が浮かんだが、まぁ別に気にするほどでもない。


そして俺はだんだんと違和感に気づき始める。


「あ、あの~美咲?」


「ん?どうしたの?」


「もう髪って乾いてないかな...?」


「何言ってるのさ。まだまだだよ」


「ほ、ホントに?」


俺は不思議に思いながらも、美咲が嘘をつく理由が無いような気もするので俺はぼ~っとSNSを眺める。


が、いつまで経っても髪が乾かないので再度美咲に確認してみる。


「やっぱもう乾いてないかな...?」


「え~ほんと?私的にはまだまだだけどな~」


美咲がそう言った瞬間、俺は自分の髪の中に手を突っ込む。


触った瞬間に分かる。俺の髪は乾ききっていて、ドライヤーの当てすぎでもはや髪の中は熱くなっていた。


「もうすっかり乾いてない?これ」


「え~でもやっぱ私的にはまだまだかなぁ」


「もしかして何か隠してる?」


俺はちらっと振り返り、美咲の顔を見るとばつが悪そうな顔をしながら、首筋には冷や汗が流れていた。


俺は美咲の今までの言動から推察する。


「もしかして俺のスマホ覗いてた...とか?」


「ギクッ」


どうやら図星のようだ。


「ま、まぁ?見られても困るようなものなんて流れてこないけど?」


「検索履歴に○○美女って...」


「ちょちょちょストープ!」


===


「この話は終わりにしましょう。ね?」


「確かに...健吾君も男の子だもんね」


耳が妙に熱くなってきた。


次なる話題で早く意識を逸らさねばと思い、俺は必死に頭を回転させる。


「映画でも観ない?」


「映画?急だね」


「ま、まぁね。でも二人だと遊べるものの種類も限られてきちゃうし」


「確かに。それもそうだね」


美咲はうんうんと頷くと、少し駆け足で俺の後ろから移動し、俺の隣へ座る。


肩と肩が少し、触れ合った。


ふわりと美咲の香りが俺の鼻へ漂ってくる。


「ん~どれにする?」


俺は自分のスマホの画面をホテルのテレビの画面と共有させ、俺の入っているサブスクアプリを俺と美咲はスクロールし始める。


「おっ、これとかどう?俺観たことないんだよね。美咲はある?」


美咲が指差したのは五部にも渡るSFアクションの大作である。


「私も無いかも。じゃあそれ観よっか」


美咲が画面をタップすると、少しのロードの後、テレビの画面に壮大な映像が映し出され始めた。


===


主人公と敵のボスが戦おうとするその瞬間、コンコンと部屋のドアがノックされる。

俺と美咲は一瞬、顔を見合わせた後渋々といった感じで映画を止めた。


ドアを開けると、そこには隣のクラスの三十台前後の女性の担任、松村先生が立っていた。

俺たちの国語の先生でもあり、そして実は文芸部の顧問でもある。


だがほとんど部活に顔を出したことは無く、合宿に来ることも無いので居ないも同然である。

優奈と唯に至ってはおそらく今まで一度も部室で顔を見たことは無いだろう。


俺も部室で顔を見たのは片手で数えられるほどである。


「二人とも元気にしてる?何か悪さしてないでしょうね?」


「俺たちが悪さするように見えますか?」


「ふふっ、冗談よ」


「中谷先生じゃないんですね」


ちなみに中谷先生とは俺のクラスの担任である。


「当たり前でしょ。レディーが居る部屋にあんな男入れるわけには行かないじゃない」


「「な、中谷先生...」」


脳裏にうっすり悲しんだ表情を浮かべる中谷先生が浮かんだ。


「部屋を見た感じキレイだし、二人ともお利口にしてたようね」


「まぁ俺たち優等生なので」


「優等生は自分のこと優等生とは言わないのだけれど...まぁ良いわ。それじゃおやすみなさいね。明日は朝八時にホテルでみんなと朝ごはんだから遅刻しないように。

もし時間までに起きてなかったらひっぱたいて起こしてあげるわ」


先生が手を振りながら部屋から出る。


先生がドアを閉じ切る瞬間、ドアの向こうから「あっ」という声が聞こえ、先生がひょこっとドアの隙間から顔を出す。


「不純異性交遊は校則違反らしいから、やるならバレないようにね」


「「やりませんよ!」」


ガチャリとドアが閉じられる。


俺と美咲の間に少し気まずい無言の空気が流れた。


「つ、続き観ようか...?」


「そ、そうだね...!」


俺はソファーに座ると、ちらちらと美咲の様子を伺いながら再生ボタンをタップした。


日奈の耳が少し、赤くなっていた。


===


「面白かったね。特にラスト」


「だね~。ひやひやしちゃったよ」


ちらりと時計を見る。時計は22時30分と表示されていた。


「どうする?続き観る?」


「う~ん。どうしようかな~」


美咲がちらっと時計を見る。


「でも私たち多分明日は違う部屋になっちゃうよね?」


「まぁその可能性が高いな。何せ今日は手違いで同じ部屋になっただけらしいし」


「じゃあちょっとぐらい夜更かししちゃってもいいんじゃない?健吾君と修学旅行のホテルの部屋で過ごすのなんて一生に一度だし」


「一生に一度...確かにそうだな!早速観ようぜ!実は続き観たかったんだよ」


俺は第二部の再生ボタンをタップした。


===


時刻は現在午前二時を回っていた。


えらい子ならもうとっくに寝る時間であり、いつもなら俺も寝ている時間なのだが...


「全く寝れる気がしない...」


ぼそっと目を瞑りながら呟く。


あのSF映画の衝撃のクライマックスやら修学旅行やら美咲と同じ部屋で泊まっている事実などのいろいろ情報が俺の脳内を駆けまわっている。


脳が興奮していて眠れる気がしない。

もう目を瞑って四十分以上経っている気がする。


人によって眠りに就く時間などまちまちなのだろうが、普段なら五分から十分で眠りに就いているのではっきりいって以上である。


「美咲...起きてる?」


俺はダメもとで隣のベッドに寝ている美咲に声をかける。

このまま目を瞑っていても眠れる気がしないので、起きていれば話に付き合ってもらおうという魂胆である。


まぁ流石に寝ているか、と思い再び目を閉じようと瞬間、隣から声が聞こえた。


「どうしたの...?」


「もしかして起こしちゃった?」


「ううん。実は私全然眠れなくて...」


「実は俺も」


「ふふっ、一緒だね」


俺たちの間に少しの間、し~んとした空気が流れる。


「なぁ美咲、どうせのことならオールしないか?」


「流石にそれはやばくない?明日に響いちゃいそうだよ~」


「大丈夫だって一日ぐらい。このまま目瞑って貴重な修学旅行のホテルの時間を潰すよりましだって」

「確かに...それもそうかも」


「だろ?」


俺は布団から起き上がり、枕元にあるボタンをスイッチを押して電気をつけた。

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