酒場を楽しんでいる縁達だったが、異質な物を感じて酒場を出る。
それを見た酒場の人達は、酒を飲みながらも鋭い目つきをしていた。
戦いが始まる事を察したのだろう、そして縁達は
「ここなら大丈夫ね」
「ああ、てか隠す気が無いのか」
「感知された」
「居るんだろ――」
「標的がこんな所に居るなんてな! これで計画が! 私の幸せが! 叶う!」
それは突然だった、縁がいとも簡単に何者かに吹き飛ばされる。
そして壁にぶつかり気絶、スファーリアは演奏術を奏でようとするが――
「絶滅演奏術は使わせない、そしてさよならだ」
演奏前にトライアングルとビーダーが壊れた。
土煙で姿は見えない、だがこの人物が
敵は言葉通りに縁を連れ去った、そして敵は間違いなく強い。
まずは悪人によくある自分の目的を自慢せずに、さっさと縁をさらった事。
縁が神様モードで無くとも一撃で気絶した事。
おそらく一番は、絶滅演奏術を奏でようとしたスファーリアを、阻止した事だろう。
「強い奴を見つけた、楽しみ」
スファーリアは直ぐに界牙流の里へと移動した。
里の出入口では、住民が頭を軽く下げて待っている。
絆も少し離れた場所に居て、少し悲しそうな顔をしていた。
界牙流三代目炎龍の右腕、季節がスファーリアへ近寄る。
「四代目様、準備は出来ています、半身様もお待ちです」
「ありがとう」
「お姉様」
「絆ちゃん」
「わかってはいましたが、お兄様は連れ去られましたか」
「ええ……ルティの前情報では私より弱いって言ってたけど、ぜんぜん強い」
「大丈夫なんですか?」
「当たり前だろ絆」
「ひっ!」
絆はビックリして声を上げ、里の者達数人が尻餅をつく。
界牙流三代目炎龍の右腕、季節ですら一歩引いた。
スファーリアは本気で、絆の言葉に怒りを覚えたのだ。
大丈夫とは、言い換えればお前に出来るのか?
一人で伴侶を守る為に、世界と戦える力を持った界牙流。
その四代目に言ったのだ、少々過剰な反応な気もするが。
「直ぐに元に戻る、絆は私の家に居てくれ」
「は、はい」
スファーリアは里の
中には風月、霞、ドレミドが居る。
床には魔法陣、壁にはお札のような物が貼ってあった。
「こらこら私~絆ちゃんに当たったらダメだよ?」
「さっさと元に戻ろう、二代目、お母さん、お願いいたします」
「そうだね~おばあちゃんと母よろしく~」
「ああ」
「ま、直ぐに済むよ」
霞が手を合わせて、ドレミドがトライアングルを演奏する。
徐々に祠は光に包まれる、そして――
一方絆は、スファーリアに言われた通り、家で待っていた。
家には炎龍が居て、お茶を飲んで心を落ち着かせている。
「ふむ、どうやら始まったみたいだね」
「あの炎龍様、お姉様はどんな術で半身に?」
「魂は一つで身体は二つ、界牙流と演奏術の合わせ技……申し訳ない、これ以上は秘密なんだ」
「いえ、秘術をおいそれと喋ると、何処から漏れるかわかりませんですし」
「理解のあるお嬢さんで助かるよ」
「一応、かみ――な、何ですの!? この異常なまでの殺気は!?」
「ふむ、結びが元の一人に戻ったようだ、今回の首謀者は娘の強さを受け止められるだろうか」
「こっちに来る! ……無理ですわ!」
絆は自分のウサミミカチューシャを外した。
黒いうさ耳に黒い和服姿になる。
そして、玄関を開けて入ってきた人物が居た。
長い黒い髪、鋭い目付き、風月の様な中華風の服に音楽の記号がちりばめられていた。
この女性こそ、界牙流四代目、元の一人に戻った『
「父さん、ちょっと私の旦那を取り戻しに行ってくる」
「ああ、行ってきなさい」
「ん? どうした絆? 私が怖いか?」
絆は涙を流しながら立ち上がり、震えながら結びに抱き着いた。
結びはビックリしながらも抱き返した。
「ええ! 怖くて泣いてしまいます! お姉様からは今負の感情しか感じません! 不釣り合いの神として警告します! そんな気持ちでお兄様と対面するんですか!?」
義理の妹の一言でハッとした、今の自分には怒りしかなかった事に。
その理由は縁をさらわれたからではない、元に戻る条件を『最愛の人がさらわれる』にした事だ。
つまりは自分に怒っていたのだ、それを大切な人な妹に八つ当たりしてしまった。
結びは、静かに泣いている絆の肩に手を置いた。
「ありがとう絆ちゃん、そうだな……こんな気持ちで行っては後悔する、助言をくれ」
「お兄様としたい事を考えてくださいませ、これからやりたい幸せを考えてくださいませ」
「……ぐへ……ぐっへっへっ」
結びは何時も通りの、だらしない顔をした。
彼女が今考えているのは、比較的当たり前の事だ。
結婚する事、子供を授かりたい事、幸せな生活をしたい事。
怖い顔からキリッとした顔になった。
「っしゃ! 愛しい旦那様を助けに行くぞ」
「お姉様、私も付いて行きます」
「頼む、血風」
血の色をした毛並みを持つ兎が、結びの肩につかまっている。
何かを察知した様に、結びの耳に近付いた。
その後に、抱っこしてほしそうに絆を見る。
絆が両手を開くと血風は飛び移った。
「この兎術からお兄様の力を感じます」
「ああ、この子が縁の元に案内出来るようにしてもらった」
「なるほど」
「では行こう」
「はい」
そよ風を残して、結び達はその場から居なくなった。
縁を取り戻す戦いが始まる。