結び達が来たのは何もない平原、ここが何処かなのは些細な事。
目の前にはご立派な塔が建っている、まさにRPGの悪役が居そうな場所だ。
その塔の周辺には、何やら結界のような物があった。
「絆ちゃん、これは?」
「……なるほど、簡単に言えば神の治外法権ですね」
「あ~神の世界じゃないけど、ここからは神の世界と」
「ええ、結界で守っているようですが」
「ふっふっふ、この私には無意味! おりゃ!」
結びが結界を蹴るとあっけなく壊れた、理由は考えるまでもない。
世界から伴侶を守る流派が、神と戦う事を想定していないはずがない。
「なんだこの程度か」
「あの塔の最上階にお兄様が」
「ああ行くぞ、何やら懐かしい気配がする」
結び達が塔に入って最初に目にした者は、桜野椰重だった。
和服とゴスロリを足した様な服装、お尻の上の腰辺りに二本の刀を装備。
その目は戦う気満々で満ちていた、だがそれは結びも同じ事だ。
「ほう? 何故椰重が居るんだ?」
「知りたいか?」
「いやいい、だがそのなまくらでどう戦うんだ?」
「む?」
椰重は二本の刀を抜いた、見事に折れていた。
何故、どうして、そんな素人みたいな考えをする者は居ない。
そんな事を考える暇があるなら、次の手を考えるのが普通だ。
「ほう……来い
椰重は手をかざすと、白い鞘の刀が空中に現れる。
その刀を手に取った瞬間、結びに一瞬て近寄り抜刀術をした。
無論、余裕の笑みで避ける結びだった。
そこからは常人の戦いではない。
いい笑顔で刀を振るう椰重の猛攻を、これまたいい笑顔で避ける結び。
これがずっと続いていた、その間絆はずっとそれを見ている。
「昔約束した、お前が元に戻ったら一戦交えると!」
「別に今じゃなくてもいいでしょう!」
「違うな、お前は平常心を保っているが殺気立っている、この機会は逃せんだろ」
「も~何であんたは戦いが大好きなのさ~」
「桜野一族だからだ!」
「うおっちょ!」
椰重の鋭い一撃に、結びは素手で刀を払いのけた後に、お互いに距離を取る。
結びは相変わらず笑い、椰重は右手で持っている、赤い刀身の刀を一瞬見た。
「凄いな! この刀は触れた者の命を刈り取る! 素手で払いのけるとは!」
「縁とイチャイチャしてないんだ! 死ねるか!」
「無意味な会話しながらのこの攻撃速度! 見事だな?」
「いやいや? 全盛期のおばあちゃん、ましてや父さんにも勝てないよ、演奏術も母さんには追い付かないし!」
「十分に強いだろ」
「例えるとパソコンの性能かな?」
「上限無しと言いたいのか」
「おお、伝わった」
「結び、お前強くなり過ぎだ、正直驚いている」
「そりゃどうも」
「少々面白い物を見せてやろう」
椰重は刀を鞘に納めた、するとその刀は消え大太刀が現れた。
その大太刀は2メートルはあり、それを左手で持つ。
足を広げて刀を首の後ろで軽く掲げて両手で持ち、右手で柄を持ち刀をゆっくり抜く。
左手は鞘の先が地面に付くまで斜めに下げる。
長い刀を抜く、峰を右肩に置き、鞘を持った左手は腰へ。
柄を持った右手を前に持って来ると同時に、柄の置場を右腕にする。
椰重は満足した顔で、峰を右肩に置いてた。
「……その大太刀、確か血桜には頭、首、肩等を使った抜刀術があったな」
「そうだ、見上げ桜という抜刀技だ、天に向かう魂を桜に見立てた技だな」
「血桜は人殺しの技だよね?」
「ああ」
椰重は普通に立っている状態から抜いた右手刀を掲げた。
峰の真ん中を左手に持っている
目線は鞘口を見ながら、右足を大きく開きながら、右手を引く。
この時刀は頭の後ろにあり、切っ先は鞘口に入っている。
後は状態を戻しながら、納刀をして元通りになった。
椰重は再び抜刀の構えを取るが、結びはため息をしていた。
「いやいや見事だけどさ」
「どうした?」
「人生の終着点がここでいいか?」
今まで2人のはただのじゃれあい。
だが殺人剣を放つ相手に手加減してやる道理は無い。
泣くのは後でも出来る、親友だろうが殺しに来るなら殺し返す。
その覚悟を感じ取った椰重は、大太刀の柄を持っている右手を離した。
「ふむそれは困る、私は旦那と籍はいれたが結婚式はまだ、これからの人生もあるしまだ死ねない」
「良かった良かった、学校の理事長代理先生を殺さなくてよかったよ」
「ふっ、現状お前に勝ってる部分は、結婚しているという事だな」
「よし、惚気話なら後でいくらでも相手してやる、覚悟しろよ」
「ほう? 結婚生活もしていない者が吠えるな」
「ぐぬぬぬ」
「だがその前に愛しの旦那様を助けて来い」
「通していいの? ほらよくあるじゃん? 無能な者に死をみたいな」
「通さなかったらお前に殺されるだろう、なら――」
その時空中に魔法陣が現れて、化け物やら人やらが降って来た。
結びが言ったように、失敗して者には死をみたいな罠があるのだろう。
あっという間に何十人という敵に囲まれた。
「これまたご丁寧に~」
「典型的だな、そして私を殺せるとは思えない」
降って来た敵は、血を噴き出して唐突に倒れ始めた。
ほとんどが刀でバッサリと斬られた様な死に様だった。
敵が現れては斬られの繰り返し、目に見えない速さでの抜刀だった。
理解出来ない、目に見えない、そんな事を言っている様では椰重には勝てない。
そもそも敵は、何か喋る前に斬られている、聞こえて断末魔だ。
何時の間にか椰重は抜刀をしており、鞘は地面に転がっている。
右手で柄をしっかりと持ち、左手は峰に置く、何時でも切り上げられる構えだ。
「おお、その大太刀何時抜刀したのさ」
「ふっ、お前にも見えないか?」
「あんたも十分恐ろしいよ」
「お前が帰ってくるまで待っててやろう、何体斬ったか報告だ」
「はいはい、楽しみにしてるね~」
結びは絆と共に次の階へと進むのだった。