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第八話 演目 夫婦愛と初恋

 結びと絆は階段を上がりきると待っていたのは。


「おや次はクラリアさ――」


 クラリアが居た、そして問答無用で結びを殴りに来た。

 結びは難なく無表情で、右手でそれを受け止める。

 クラリアは結びから距離を取った。


 クラリアの姿は、この間手合わせした時と違った。

 どことなく、ウエディングドレスの様なデザインの外装をしている。

 色合いは白く、パンツスタイルのウエディングドレス。

 ベールで顔を隠し、白いグローブもしていた。


「殺し合いにお喋りは不要だろ!」

「私と殺し合いをしたいのか? いやどう見てもウェディングドレスだろそれ、サイボーグ用?」

「花嫁システムを全てを引き出す、お前の全力の愛を見せてみろ!」

「わかった」


 結びは静かに目を閉じた、風が結びの周りに優しく吹き、音を奏でている。

 それを見たクラリアは、信じられないモノを見たように、驚きの声を上げた。


「馬鹿な! 花嫁システムの出力を完全に上回っている!? 私達の夫婦生活が未婚に負けるだと!? いや、これは初恋特有の気持ち! 夫婦の私達は思い出になった力!」


 花嫁システム。

 それは夫のシラルドとの、愛の積み重ねで出来た力。

 夫婦生活の苦楽を力に変えるシステム。

 今の結びが、結婚生活をしてきたクラリアより強いという事だ。

 一見矛盾だろう、夫婦の苦楽の人生が劣るという事に。


 それは単純な答えだ、結びの気持ちが強い。

 何故ならば、それは嬉恥ずかしい『初恋』という状態だからだ。

 未来への不安と期待、様々な気持ちが結び中で渦巻いている。

 今の目標、結婚生活縁との新生活は絶対にする。


 ここまで来ると、理屈がどうのではない。

 結びは愛する人と生涯を全うするまで死ねないだけだ。


「ちっ! だが計測はあくまでも目安! 私達の夫婦生活は簡単には負けん!」

「これが私の! 今の愛だ!」

「なる――」


 それは本当に一瞬だった、クラリアが音もなく吹き飛んだのだ。

 そして、クラリアの立って居た場所に結びが居る。

 速いなんてものでは無い、結びの本気で放った『界牙流二代目の奥義』だ。


 それはただ、自分の気持ちを脚に込めて放つ、単純な奥義。

 それ故に難しい事は何もない、クラリアより速く蹴っただけだ。

 そしてその威力が、クラリアの身体を粉々にするほどだった。

 頭と首と、ほんの少しの上半身だけになったクラリア。

 道端に落ちているゴミを蹴った様に、壊れながら地面を跳ねている。


 止まったクラリアに、ゆっくりと近寄る結び。

 結びが見下ろすと、クラリアは――


「ははは! 参った参った、生身ではこう無茶な戦いは出来ないからな!」

「ほぼ頭と首だけなのに元気に喋る事もな」

「確かにそうだ、ま、完全に壊れても今は大丈夫なんだが」

「いやいや、詳しくは知らないけど身体は大事にしなさいよ、壊した私が言うのもなんだけど」

「そうだな、しかしいいデータが取れた」

「えぇ……いやそれよりどうやって帰るの?」

「私の旦那は完璧だよ」


 クラリアがそう言うと、少々ゴテゴテしたSFで出てきそうな、円柱のカプセルが突然現れた。

 カプセルの中央が透明なガラスで包まれている、そこにホログラムなのか、シラルドが映し出される。


「クラリア、やはり界牙流四代目に敗れたか……このカプセルに入ると、お前の禁断のパーツ『未帰還』に直ぐに交換出来る、この名前にしたのは出来れば、このパーツは使いたくないからじゃ、クラリア、私は何時までも君本来の身体に戻れるのを待っているよ」


 カプセルが光った、クラリアと辺りに散らばったパーツが吸い込まれる。

 一瞬強く光ったと思ったら、クラリアが五体満足で出てきた。

 今度は女性物の喪服の様なデザインをしている。


「はや!」

「換装にちんたらとしてたら攻撃されるだろ?」

「なるほど……そして今の身体は私より強いね?」

「この力は戦う為ではなく、旦那の元に何が何でも帰る力だ、目的が違う」

「それだったら早く帰りな」

「そうさせてもらう……だが」


 そう、椰重の時と同じく魔法陣が空中に現れて、敵が召喚されていた。 


「データの採取を開始する」

「本当の目的はそれか?」

「これはついでだ、早くいけ」

「はいよ~」

「ごきげんよう」


 結びと絆は階段を上がり、次に進むのだった。

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