結び達は階段を上ると、次に待っていたのは。
青く細かな模様の入った、全身鎧が特徴的な東洋だった。
「ん? 東洋じゃない」
「ほう、その姿が本当の姿か、界牙流四代目」
「んだよ~てか、闘気も殺気も無く何してるのさ」
「余計なお世話だろうが、私も縁が心配だからだ」
「だったら一緒に行く? てかわざわざ敵側にならんでも」
「自分が規格外という事を念頭に置け、ここは神の世界なんだぞ、普通に来れるか」
「そりゃ失礼」
東洋も妻を守る為に無茶をした過去がある。
だがそれは、人間で考えられるレベルの話だ。
例えば命を削るが力を得る、誰でも簡単に想像が出来るだろう。
界牙流は、その命を削るのを抑える努力をしたのだ。
古今東西の禁止された、封じられた、忘れ去られた技の数々を。
東洋が弱いわけではなく、界牙流がおかしいのだ。
つまりは敵に寝返らないと本来はここには来られない、という事だ。
何故ならばここは神の世界だからだ、椰重とクラリアは自分の事を最優先だっただろうが。
そして、東洋に戦う気が無いからか、仕掛けてあった罠が発動した。
多種多様な種族が召喚される、その中で如何にも強そうなミノタウロスが居た。
「罠か」
「ぶははは! 私は――」
「過剰浄化の一本締め!」
「ぐわぁぁぁぁぁ!」
東洋が両手をーで一本締めをすると、閃光弾の様な光を発した。
次の瞬間には、敵はミノタウロス以外居なくなっていた。
悠長に名乗る時点で東洋には勝てない、これはルールがある戦争ではない。
つまり待つ必要が無い、さっさと攻撃しない方が悪い。
「ほう? 喋ろうとした者は耐えたか、相手をしてやろう」
「お見事だね~」
「私の事は良いから、この上で待っている者に時間を使ったらどうだ」
「そうだね、行こうか絆ちゃん」
「はい、お姉様」
結び達が階段に近寄ると、結界が現れた。
調べる様に結びは、結界を右手で叩いている。
「ぶははは! 馬鹿め! ここは下とは違う! この男を殺さぬ限り結界は解けん!」
「この結界の性能はわかった、絆ちゃん、開けるからささっと入ってね」
「はい」
結びはぶん殴って結界を破壊した、ささっと2人は結界を通る。
壊れた結界は直ぐに修復した、敵は悪くない相手が悪かった。
すんなりと階段を上る2人の前に、現れた次の相手は――
「お久しぶりですね、風野音先生」
一本槍陸奥が立っていた、紺色の武道着を着ていて、自信に満ち溢れている顔をしている。
結びは品定めするように見ながら、一本槍に近寄っていく。
「一本槍……随分と強くなったな」
「旅のおかげですよ」
「ん? お前、
「……くだらないイタズラで、燃やされてしまいました」
回歴流創始者、逍遥。
界牙流三代目との戦いに勝つため、自分の人生を全て捧げた人物。
無茶をし過ぎて老化が加速し、死ぬ間際に三代目と戦った。
戦いに敗れ死を悟った時、自分の技を伝えれない悔しさを感じる。
その時縁が巻物に魂を封じて、一本槍に渡した。
一本槍は学園を休み、しばらく旅に出ていた。
その旅がどの様なものかは結びは知らない。
言えるのは、結びを目の前にして一本槍は落ち着いているのだ。
何がどうとかは知らずとも、結びは一本槍の成長を感じていた。
「絆ちゃん、出来るだけ離れて」
「はい、お姉様」
元々離れていた絆は、壁まで移動する。
結びは一本槍に対して、殺意を持った目で見る。
対して一本槍は、落ち着いた表情をしていた。
「一本槍、私は前に言ったな? 私の邪魔はするなと」
「はい」
「死ね」
結びの十八番、界牙流ただの蹴り。
だがこれまで見せた蹴りとは違った。
風月が良く使っていたレベルで放ったのだ。
今までの一本槍では歯が立たなかっただろう。
だが彼は片手で、いとも簡単に払いのける。
結びは別に驚きもしない、それは既にわかっている事だからだ。
ニヤリと笑った結びは一本槍から距離を取った。
「ほう? 以前の私の全力ではお前を殺せないか」
「先生、わかってやっていますよね」
「当たり前だ、先に生きているから先生なんだよ」
結びはこれから、音楽の授業でも始める様に手を軽く広げた。
一本槍はそれを見て、全身に力を込める。
「絶滅演奏術、消滅」
「絶滅演奏体術! 発生!」
結びはリズム取るように手を叩き、一本槍は地面や柱、壁を叩き始めた。
壁等は壊れる気配が無い、そしてお互いの音が相殺している、しばらくそれが続く。
結びが止めると一本槍を止め、お互いに視線をずらさなかさった。
「強くなったな」
「逍遥師匠が言ってました、殺し合いの場で死にたくなかったら、何にでも歩み寄れと」
「なるほど、私以上にいい師に出会えたか?」
「はい!」
「……武道家として相手をしよう」
元気のいい返事に、結びは殺意と闘気を今まで以上にむき出しにする。
流石に一本槍も顔がこわばったが、目を背けなかった。
「私は界牙流四代目風野音結び」
「僕は回歴の二代目……一本槍陸奥です!」
お互いに一礼して構えた。
これから2人の本気の戦いが始まる。