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第八話 演目 心配した者、流派を受け継いだ者

 結び達は階段を上ると、次に待っていたのは。

 青く細かな模様の入った、全身鎧が特徴的な東洋だった。 


「ん? 東洋じゃない」

「ほう、その姿が本当の姿か、界牙流四代目」

「んだよ~てか、闘気も殺気も無く何してるのさ」

「余計なお世話だろうが、私も縁が心配だからだ」

「だったら一緒に行く? てかわざわざ敵側にならんでも」

「自分が規格外という事を念頭に置け、ここは神の世界なんだぞ、普通に来れるか」

「そりゃ失礼」


 東洋も妻を守る為に無茶をした過去がある。

 だがそれは、人間で考えられるレベルの話だ。

 例えば命を削るが力を得る、誰でも簡単に想像が出来るだろう。

 界牙流は、その命を削るのを抑える努力をしたのだ。

 古今東西の禁止された、封じられた、忘れ去られた技の数々を。

 東洋が弱いわけではなく、界牙流がおかしいのだ。


 つまりは敵に寝返らないと本来はここには来られない、という事だ。

 何故ならばここは神の世界だからだ、椰重とクラリアは自分の事を最優先だっただろうが。


 そして、東洋に戦う気が無いからか、仕掛けてあった罠が発動した。

 多種多様な種族が召喚される、その中で如何にも強そうなミノタウロスが居た。 


「罠か」

「ぶははは! 私は――」

「過剰浄化の一本締め!」

「ぐわぁぁぁぁぁ!」


 東洋が両手をーで一本締めをすると、閃光弾の様な光を発した。

 次の瞬間には、敵はミノタウロス以外居なくなっていた。

 悠長に名乗る時点で東洋には勝てない、これはルールがある戦争ではない。

 つまり待つ必要が無い、さっさと攻撃しない方が悪い。


「ほう? 喋ろうとした者は耐えたか、相手をしてやろう」

「お見事だね~」

「私の事は良いから、この上で待っている者に時間を使ったらどうだ」

「そうだね、行こうか絆ちゃん」

「はい、お姉様」


 結び達が階段に近寄ると、結界が現れた。

 調べる様に結びは、結界を右手で叩いている。


「ぶははは! 馬鹿め! ここは下とは違う! この男を殺さぬ限り結界は解けん!」

「この結界の性能はわかった、絆ちゃん、開けるからささっと入ってね」

「はい」


 結びはぶん殴って結界を破壊した、ささっと2人は結界を通る。

 壊れた結界は直ぐに修復した、敵は悪くない相手が悪かった。

 すんなりと階段を上る2人の前に、現れた次の相手は――


「お久しぶりですね、風野音先生」


 一本槍陸奥が立っていた、紺色の武道着を着ていて、自信に満ち溢れている顔をしている。

 結びは品定めするように見ながら、一本槍に近寄っていく。


「一本槍……随分と強くなったな」

「旅のおかげですよ」

「ん? お前、回歴かいれき流創始者、逍遥しょうようの魂を封じた巻物はどうした?」

「……くだらないイタズラで、燃やされてしまいました」


 回歴流創始者、逍遥。

 界牙流三代目との戦いに勝つため、自分の人生を全て捧げた人物。

 無茶をし過ぎて老化が加速し、死ぬ間際に三代目と戦った。

 戦いに敗れ死を悟った時、自分の技を伝えれない悔しさを感じる。

 その時縁が巻物に魂を封じて、一本槍に渡した。


 一本槍は学園を休み、しばらく旅に出ていた。

 その旅がどの様なものかは結びは知らない。

 言えるのは、結びを目の前にして一本槍は落ち着いているのだ。

 何がどうとかは知らずとも、結びは一本槍の成長を感じていた。


「絆ちゃん、出来るだけ離れて」

「はい、お姉様」


 元々離れていた絆は、壁まで移動する。

 結びは一本槍に対して、殺意を持った目で見る。

 対して一本槍は、落ち着いた表情をしていた。


「一本槍、私は前に言ったな? 私の邪魔はするなと」

「はい」

「死ね」


 結びの十八番、界牙流ただの蹴り。

 だがこれまで見せた蹴りとは違った。

 風月が良く使っていたレベルで放ったのだ。


 今までの一本槍では歯が立たなかっただろう。

 だが彼は片手で、いとも簡単に払いのける。

 結びは別に驚きもしない、それは既にわかっている事だからだ。

 ニヤリと笑った結びは一本槍から距離を取った。


「ほう? 以前の私の全力ではお前を殺せないか」

「先生、わかってやっていますよね」

「当たり前だ、先に生きているから先生なんだよ」


 結びはこれから、音楽の授業でも始める様に手を軽く広げた。

 一本槍はそれを見て、全身に力を込める。


「絶滅演奏術、消滅」

「絶滅演奏体術! 発生!」


 結びはリズム取るように手を叩き、一本槍は地面や柱、壁を叩き始めた。

 壁等は壊れる気配が無い、そしてお互いの音が相殺している、しばらくそれが続く。

 結びが止めると一本槍を止め、お互いに視線をずらさなかさった。


「強くなったな」

「逍遥師匠が言ってました、殺し合いの場で死にたくなかったら、何にでも歩み寄れと」

「なるほど、私以上にいい師に出会えたか?」

「はい!」

「……武道家として相手をしよう」


 元気のいい返事に、結びは殺意と闘気を今まで以上にむき出しにする。

 流石に一本槍も顔がこわばったが、目を背けなかった。


「私は界牙流四代目風野音結び」

「僕は回歴の二代目……一本槍陸奥です!」


 お互いに一礼して構えた。

 これから2人の本気の戦いが始まる。

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