今日は妹夫婦とレアスナタ内で、遊園地気分が楽しめる施設へと出掛ける。
長谷川達は朝早くに準備をしてた、妹夫婦が車で迎えに来るからだ。
インターホンが鳴り2人は玄関へと向かう、ドアを開けるとあゆさが居た。
「おいっす兄貴と姉貴、準備出来てる?」
「ああ」
「もちろん」
「旦那が車で待ってるから行こう」
乗用車が止まっていて運転席のドア付近に、眼鏡の爽やかな雰囲気の男性が立っていた。
その男性は長谷川達を見つけると近寄ってくる。
「初めまして、
「荒野原
「姉貴、旦那のキャラクター覚えてる?」
「あの巨大ロボ操縦してたキャラクターでしょ? 確か名前は
「はいそうです、荒野原さん」
「よし、出発」
挨拶もそこそこに一行は車に乗り込んだ。
運転席には友則、助手席には長谷川、姉貴と一緒に座りたいといったあゆさ達は後部座席だ。
途中でコンビニにより飲み物やお菓子を買う、車内には楽しそうな会話が続いている。
「あ、そうだ姉貴、兄貴の昔話とか興味ある?」
「おお、何か秘密が?」
「荒野原さん残念だが、叩いてもあまり何もないぞ?」
「うん、わかる長谷川君、レアスナタの為に完璧超人してそうだもの」
「そうなのよ! 聞いてよ姉貴!」
「お、おう……どしたのさ、ある程度は長谷川君から聞いてるけど、あゆさちゃんの愚直を聞くよ~」
長谷川は叩いてもホコリは全く出ない。
何故なら昔の彼は、今よりもレアスナタが全てだったからだ。
すねに傷を付けるような真似はしない、レアスナタが出来なくなるからと考えていたからだ。
「いや、昔の私はね? 兄貴にぞっこんラブだったのよ、それこそ結婚するんだーとか、可愛い事を考えていたのよ」
「ほうほう、それがどうして収まったの?」
「兄貴は親戚とレアスナタを始めてから、やべぇ変わり方したのよ」
「ああ、そのへんは長谷川君から聞いたね~あゆさちゃん視点ってやつだ」
「それまでの兄貴って、良くも悪くも普通の男の子だったのさ」
「ふむふむ」
「で、レアスナタをやり始めて、親にやり過ぎだぞと注意されたのさ」
「ああ~中学生のおこずかいでは厳しいかね~」
「まず、勉学で親に何も言わせなくなった、家の事もするようになった」
「地盤を作ったと、改めて聞くとおかしいよね」
「次に上っ面をよくした、地域の手伝いとか、ボランティアとか」
「え? 何で?」
「自分の味方を増やすためだよ」
「はっはーん、長谷川君は勉強や地域貢献しているんだから、ゲームくらい好きにさせなさいって雰囲気を作ったと」
「うん、まあそれを言ってくる他人は居なかったけどさ、兄貴の無言の圧力がね」
「スゲー執念だね長谷川君」
「だろ? 俺は努力したんだ、好きにさせてもらう」
勉強をしろと言われたからした、成績も落とさなかった。
家の手伝いも進んでした、世間の風当たりもいい。
表面上は創作物である完璧超人だろう。
だが彼は全てレアスナタの為であった。
もちろんそれを壊そうとする奴は――
「んで、かっこいい兄貴に更にメロメロになった私」
「あ~事情を知らなきゃ、かっこいいお兄ちゃんだね~」
「これは私も悪いだけどさ、トラウマが一つあるのよ」
「お、何さね」
「当時兄貴は私の下着も洗ってたのよ」
「あ、何かわかった」
「そ、私は地雷を踏みぬいてしまった、兄貴に『私の下着で変な事をするなよ』とね」
妹は冗談のつもりで言ったのだろう。
だがそれは兄の
しかし彼は考えた、例えば妹を脅したとすれば、間違いなくどこからかもれる。
妹に警告しつつ、自分の立ち位置もブレさせない方法を考えた。
「その時の兄貴の目はね、私をどうしたら黙らせるか、もしくは自分の立場を守るにはどうするかを考えていたね」
「それに関してはすまない、俺からレアスナタを奪う奴は敵と思ってたからな」
「それどうなったのさ」
「色々と考えたが、親に相談したよ? 『妹も小学生の高学年だ、俺に下着は洗われたくないんじゃないか?』とね」
「なるほど、落としどころとしてはいいかもね~」
「それ以降兄貴に近寄らなくなった」
「よく仲直りしたね~」
「兄貴が高校生の時に過労でぶっ倒れて、親に説教くらった後ね、兄貴は今見たくなった」
「そこのお説教の話は聞いたね~」
長谷川が倒れたのは過労のせい、文武両道、生徒会長、地域貢献、家事手伝い。
ぶっ倒れるのは当たり前だ、家族はもちろん止めた、いや、分担すべきだとちゃんと言った。
その言葉がしっかりと響いたのは、病院のベッドで聞いた父親の言葉だった。
『縁って名前を使っているお前が、一番身近な家族をないがしろにするのか?』
そこから長谷川は変わった、肩の力を抜いた。
そして、父親から今の職場を紹介してもらったのだ。
上っ面の完璧超人は終わって、そこそこ優秀な男子高校生に代わったのだ。
荒野原が知らない部分の、兄を知っているあゆさはため息する。
「姉貴、こんな兄貴でいいのか?」
「もちろん、その過去があるから今の長谷川君なんでしょ」
「兄貴、このお姉様を幸せにして、てか手放さないで」
「言われなくとも」
身近な人を大切にしろ、父親の言葉があったから、長谷川はちゃんと愛を囁くのだろうか。
「あ、姉貴の話も聞きたい」
「私? 長谷川君みたく壮大じゃないよ?」
「聞かせてー」
「まず、中学になる前に同級生から、お前うるさいと言われる、元気娘だったのさ」
「ふむふむ」
「そこから大人しくなるけど、本質は元気娘だから風月のキャラクターを作る、その後にスファーリア」
「おや? 結びは?」
「最初に作ったけど特に考えてなかったのよ、名前の理由はね、私が幼少の時に何かをひもで、結ぶ事が大好きだったからその名前にしたし」
「なるほど」
「他にあるとすれば……何かと男運が無かった?」
「酷い男と付き合ったとか?」
「いやいや、自分で言うのもなんだけど、小学生から発育が良かったのよ」
「あ、なるほど」
発育が良かったの言葉で色々と想像が出来そうだ。
そして知らなかっただろう、荒野原が気性が少々荒い事に。
「どいつもこいつも、可愛いだの、俺と付き合えだの、あのイケメンをふるなんて有り得ないだの……ぶっ殺すぞ、私が心にくるのはくっさいセリフを心から恥ずかしくなく、純粋に言える人間だ」
「まあまあ姉貴、落ち着いて……え? 何で兄貴はお眼鏡にかなったの? いや、今答え言ってた気がするけど」
「順番に話すと、私は大手企業でバリバリのキャリアウーマンしてたのよ」
「おお、凄い」
「それと同時にクソみたいなセクハラにもあったね~使えるもの全部使って、超合法的に制裁したけど」
「……姉貴も対外な気がしてきた」
「んで、こんな職場というか会社ってか社会が嫌になってね、お父さんに相談したのよ」
「あ、それで兄貴の働いてる店に?」
「そうそう、最初長谷川君も見た時に『こいつも他の男と同じなんだろうな』と思ってたのよ」
「それが違ったと、ファーストコンタクトは?」
「今でも覚えてるよ? 『荒野原さん! レアスナタガチ勢と聞きました! このリアルイベント知ってますか!? 半公式で規模は小さいんですが!』だったのよ」
「兄貴……挨拶……」
「したしたした! その後だよ!」
「私もノリノリで答えたしね~」
もはやこの2人は会うべきして会った、その言葉が合いそうだ。
長谷川のファーストコンタクトもだが、それに答える荒野原も荒野原。
あゆさはこの2人のガチ勢、というよりは異常性っぽいものに呆れていた。
「姉貴、それで兄貴の事どう思ったのさ」
「こ、この男の目、凄く純粋な目をしている、私を女として見ていない! ガチ勢として同志を探している目だと!」
「……もう何も言わない、それがどんどんお互いを意識してったのね」
「そうそう、いや~惚気てしまいましたな!」
「ん? んん? 何処に惚気要素が?」
「ふっ、私と長谷川君の話全てさ」
「ぐわあああぁぁ、うぜえぇぇぇぇ!」
「ならあゆさちゃんも語ればいいじゃん」
「え? 私と旦那は普通だったよ?」
「普通って?」
「幼稚園からの幼馴染」
「いや、それも一握りじゃないかな?」
そんな話をしながら目的地へと向かう車内だった。