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第五章 幸せに向かって

第一話 前説 妹夫婦とお出かけのお知らせ

 今日は妹夫婦とレアスナタ内で、遊園地気分が楽しめる施設へと出掛ける。

 長谷川達は朝早くに準備をしてた、妹夫婦が車で迎えに来るからだ。

 インターホンが鳴り2人は玄関へと向かう、ドアを開けるとあゆさが居た。


「おいっす兄貴と姉貴、準備出来てる?」

「ああ」

「もちろん」

「旦那が車で待ってるから行こう」


 乗用車が止まっていて運転席のドア付近に、眼鏡の爽やかな雰囲気の男性が立っていた。

 その男性は長谷川達を見つけると近寄ってくる。


「初めまして、紅林友則くればやしとものりです」

「荒野原しゅうです」

「姉貴、旦那のキャラクター覚えてる?」

「あの巨大ロボ操縦してたキャラクターでしょ? 確か名前はきょうだっけ」

「はいそうです、荒野原さん」

「よし、出発」


 挨拶もそこそこに一行は車に乗り込んだ。

 運転席には友則、助手席には長谷川、姉貴と一緒に座りたいといったあゆさ達は後部座席だ。

 途中でコンビニにより飲み物やお菓子を買う、車内には楽しそうな会話が続いている。


「あ、そうだ姉貴、兄貴の昔話とか興味ある?」

「おお、何か秘密が?」

「荒野原さん残念だが、叩いてもあまり何もないぞ?」

「うん、わかる長谷川君、レアスナタの為に完璧超人してそうだもの」

「そうなのよ! 聞いてよ姉貴!」

「お、おう……どしたのさ、ある程度は長谷川君から聞いてるけど、あゆさちゃんの愚直を聞くよ~」


 長谷川は叩いてもホコリは全く出ない。

 何故なら昔の彼は、今よりもレアスナタが全てだったからだ。

 すねに傷を付けるような真似はしない、レアスナタが出来なくなるからと考えていたからだ。


「いや、昔の私はね? 兄貴にぞっこんラブだったのよ、それこそ結婚するんだーとか、可愛い事を考えていたのよ」

「ほうほう、それがどうして収まったの?」

「兄貴は親戚とレアスナタを始めてから、やべぇ変わり方したのよ」

「ああ、そのへんは長谷川君から聞いたね~あゆさちゃん視点ってやつだ」

「それまでの兄貴って、良くも悪くも普通の男の子だったのさ」

「ふむふむ」

「で、レアスナタをやり始めて、親にやり過ぎだぞと注意されたのさ」

「ああ~中学生のおこずかいでは厳しいかね~」

「まず、勉学で親に何も言わせなくなった、家の事もするようになった」

「地盤を作ったと、改めて聞くとおかしいよね」

「次に上っ面をよくした、地域の手伝いとか、ボランティアとか」

「え? 何で?」

「自分の味方を増やすためだよ」

「はっはーん、長谷川君は勉強や地域貢献しているんだから、ゲームくらい好きにさせなさいって雰囲気を作ったと」

「うん、まあそれを言ってくる他人は居なかったけどさ、兄貴の無言の圧力がね」

「スゲー執念だね長谷川君」

「だろ? 俺は努力したんだ、好きにさせてもらう」


 勉強をしろと言われたからした、成績も落とさなかった。

 家の手伝いも進んでした、世間の風当たりもいい。

 表面上は創作物である完璧超人だろう。

 だが彼は全てレアスナタの為であった。

 もちろんそれを壊そうとする奴は―― 


「んで、かっこいい兄貴に更にメロメロになった私」

「あ~事情を知らなきゃ、かっこいいお兄ちゃんだね~」

「これは私も悪いだけどさ、トラウマが一つあるのよ」

「お、何さね」

「当時兄貴は私の下着も洗ってたのよ」

「あ、何かわかった」

「そ、私は地雷を踏みぬいてしまった、兄貴に『私の下着で変な事をするなよ』とね」


 妹は冗談のつもりで言ったのだろう。

 だがそれは兄の羽島はじまにとって、ただの敵からの宣戦布告だった。

 しかし彼は考えた、例えば妹を脅したとすれば、間違いなくどこからかもれる。

 妹に警告しつつ、自分の立ち位置もブレさせない方法を考えた。


「その時の兄貴の目はね、私をどうしたら黙らせるか、もしくは自分の立場を守るにはどうするかを考えていたね」

「それに関してはすまない、俺からレアスナタを奪う奴は敵と思ってたからな」

「それどうなったのさ」

「色々と考えたが、親に相談したよ? 『妹も小学生の高学年だ、俺に下着は洗われたくないんじゃないか?』とね」

「なるほど、落としどころとしてはいいかもね~」

「それ以降兄貴に近寄らなくなった」

「よく仲直りしたね~」

「兄貴が高校生の時に過労でぶっ倒れて、親に説教くらった後ね、兄貴は今見たくなった」

「そこのお説教の話は聞いたね~」


 長谷川が倒れたのは過労のせい、文武両道、生徒会長、地域貢献、家事手伝い。

 ぶっ倒れるのは当たり前だ、家族はもちろん止めた、いや、分担すべきだとちゃんと言った。

 その言葉がしっかりと響いたのは、病院のベッドで聞いた父親の言葉だった。


『縁って名前を使っているお前が、一番身近な家族をないがしろにするのか?』


 そこから長谷川は変わった、肩の力を抜いた。

 そして、父親から今の職場を紹介してもらったのだ。

 上っ面の完璧超人は終わって、そこそこ優秀な男子高校生に代わったのだ。


 荒野原が知らない部分の、兄を知っているあゆさはため息する。


「姉貴、こんな兄貴でいいのか?」

「もちろん、その過去があるから今の長谷川君なんでしょ」

「兄貴、このお姉様を幸せにして、てか手放さないで」

「言われなくとも」


 身近な人を大切にしろ、父親の言葉があったから、長谷川はちゃんと愛を囁くのだろうか。


「あ、姉貴の話も聞きたい」

「私? 長谷川君みたく壮大じゃないよ?」

「聞かせてー」

「まず、中学になる前に同級生から、お前うるさいと言われる、元気娘だったのさ」

「ふむふむ」

「そこから大人しくなるけど、本質は元気娘だから風月のキャラクターを作る、その後にスファーリア」

「おや? 結びは?」

「最初に作ったけど特に考えてなかったのよ、名前の理由はね、私が幼少の時に何かをひもで、結ぶ事が大好きだったからその名前にしたし」

「なるほど」

「他にあるとすれば……何かと男運が無かった?」

「酷い男と付き合ったとか?」

「いやいや、自分で言うのもなんだけど、小学生から発育が良かったのよ」

「あ、なるほど」


 発育が良かったの言葉で色々と想像が出来そうだ。

 そして知らなかっただろう、荒野原が気性が少々荒い事に。


「どいつもこいつも、可愛いだの、俺と付き合えだの、あのイケメンをふるなんて有り得ないだの……ぶっ殺すぞ、私が心にくるのはくっさいセリフを心から恥ずかしくなく、純粋に言える人間だ」

「まあまあ姉貴、落ち着いて……え? 何で兄貴はお眼鏡にかなったの? いや、今答え言ってた気がするけど」

「順番に話すと、私は大手企業でバリバリのキャリアウーマンしてたのよ」

「おお、凄い」

「それと同時にクソみたいなセクハラにもあったね~使えるもの全部使って、超合法的に制裁したけど」

「……姉貴も対外な気がしてきた」

「んで、こんな職場というか会社ってか社会が嫌になってね、お父さんに相談したのよ」

「あ、それで兄貴の働いてる店に?」

「そうそう、最初長谷川君も見た時に『こいつも他の男と同じなんだろうな』と思ってたのよ」

「それが違ったと、ファーストコンタクトは?」

「今でも覚えてるよ? 『荒野原さん! レアスナタガチ勢と聞きました! このリアルイベント知ってますか!? 半公式で規模は小さいんですが!』だったのよ」

「兄貴……挨拶……」

「したしたした! その後だよ!」

「私もノリノリで答えたしね~」


 もはやこの2人は会うべきして会った、その言葉が合いそうだ。

 長谷川のファーストコンタクトもだが、それに答える荒野原も荒野原。

 あゆさはこの2人のガチ勢、というよりは異常性っぽいものに呆れていた。


「姉貴、それで兄貴の事どう思ったのさ」

「こ、この男の目、凄く純粋な目をしている、私を女として見ていない! ガチ勢として同志を探している目だと!」

「……もう何も言わない、それがどんどんお互いを意識してったのね」

「そうそう、いや~惚気てしまいましたな!」

「ん? んん? 何処に惚気要素が?」

「ふっ、私と長谷川君の話全てさ」

「ぐわあああぁぁ、うぜえぇぇぇぇ!」

「ならあゆさちゃんも語ればいいじゃん」

「え? 私と旦那は普通だったよ?」

「普通って?」

「幼稚園からの幼馴染」

「いや、それも一握りじゃないかな?」


 そんな話をしながら目的地へと向かう車内だった。

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