長谷川達は車を進めて約一時間半、北海道最大の都市札幌へとやって来た。
札幌駅に少々近いとあるビルの駐車場へ、ここは最新設備が常に更新されている場所。
その名も『森山ボックスレアスナタゲート札幌本店』なのだ!
「到着ですわ!」
「いやはや、でかいね~」
「よし、行こう」
長谷川を先頭に一行は、駐車場からビルへと入った。
ロビーは凄かった、ゲームをする場所というより、お高いホテルのイメージだ。
従業員もビシッとした制服に身を包んでいる。
長谷川は招待券を取り出して受付へと向かった。
「おはようございます、いらっしゃいませ」
「予約していた長谷川です」
「長谷川様、お待ちしておりました、招待券はお持ちでしょうか」
「はい」
「確認いたしますので、少々お待ちください……長谷川様、ただいま係の者がご案内いたします」
案内人は軽く挨拶をして、長谷川達はエレベーターに乗る。
降りた階はシックでおしゃれな雰囲気の内装だった。
案内されるがまま付いていくと、各部屋の扉の前に従業員が姿勢を正していた。
長谷川達を見ると一斉にお辞儀をして『いらっしゃいませ』という。
全員がアタッシュケースを持っている。
長谷川達は各々割り当てられた部屋の前に立つと、従業員が扉を開けた。
何時とは違う感じに戸惑いながらも、長谷川は部屋の中へと入っていく。
扉を閉めると従業員が話しかけてきた。
「本日は、森山ボックスレアスナタゲート札幌本店へ、ご来店ありがとうございます」
「あ、どうもご丁寧に」
相手のお辞儀についお辞儀で返す長谷川。
余程緊張しているのか、機械の様なお辞儀の仕方になっている。
「長谷川様の担当をさせていただきます、
「長谷川羽島です、こちらこそよろしくお願いします」
自己紹介をした四方平は、ビシッとした制服は着ているが髪型は金髪だった。
少々チャラそうな雰囲気の男性にも見えそうだが、今の長谷川には些細な事だ。
だが、この緊張は一瞬にして消えることになる。
「……長谷川様、間違っていたら申し訳ないのですが」
「はい? 何でしょうか?」
「もしかして、キャラクターの名前、縁結びの神の縁じゃありませんか? スファーリア先生のクラスの副担任の、あ、今はもう結び先生か」
「あ、はい、そうですよ?」
それを聞いてた瞬間、イケメンからチャラ男ぽい喋り方。
いや、長谷川が知っている喋り方へとなった。
「おお!? リアル縁先生じゃないっすか! 自分ツレっスよ!」
「ファ!? ツレ君何して……あ、仕事か」
「声でそうなんじゃないかって思ったんすよ! わーサイン欲しい」
「ツレ君落ち着いて」
「すみません、自分こんなんだから先輩とか社員の人に怒られるんすよ」
簡単に想像出来てしまう、自分の知り合いが来たら、ついついテンションが上がるのだろう。
ある程度なら仕方ないにしても、彼はおそらく我慢が出来ないのだろう。
「俺には砕けた喋り方でいいですよ四方平さん、正直特別扱いは疲れる」
「長谷川さんマジ神、丁寧語は時々カミカミ、マジ勘弁、でも仕事は仕方ないから答弁」
「見てた感じこなれてる感じがするけど」
「いやこの部屋は特別なんすよ、そこそこお高いのは慣れたっすけど」
「普段は緊張しないと?」
「長谷川さん、この部屋一日50万です」
「……ファ!?」
長谷川は本気で驚いた、斬摩がそれをプレゼントした事もそうだが。
何より、今自分がその場に居る事が一番の衝撃なのだ。
色々な思いが長谷川を駆け巡った。
「遊園地特集とかで紹介される、豪華な宿泊部屋クラスじゃん!」
「案内しながら部屋の説明するっす」
「お、おう、頼む」
「ここが休憩ルームっす」
部屋に入って直ぐに左の扉を開けた。
高性能ゲーミングパソコン、デバイスの一式、机や仮眠用のベッドまで高品質だ。
長谷川はパソコンを軽く見た後に、ベッドの質を確かめた
「店員さんの前で言うのもなんだけど、馬鹿じゃねーの?」
「やり過ぎっすよね、ここだけで本来なら一部屋っすよ」
「そういう部屋もあるんだ」
「はい、価格はバラバラっすけど、ここと同じ部屋だと一日5万すね」
「……それでもたけぇ」
「万が一の保険料も含まれてるっす」
「……これも店員さん目の前にしていう事じゃないだろうけど、パソコンなら自前で揃えた方がいい」
「あ、それは従業員ほとんどそう言ってるっす」
「おおう」
「次説明するっす」
今度は反対側の扉に案内した、その隣の扉が化粧室の様だ。
案内された部屋は、テーブルにイス、食べ物を運ぶエレベーターだけの部屋だった。
「ここはMRを楽しめる食事所っすね」
「MRって事は複合現実か」
「はい、今日来た人達と一緒に食事できます、キャラクターの状態で」
「そうか、食べ物は現実で、俺達はキャラクターで見えるのか」
「百聞は一見に如かずすけどね、俺っちもお試しでやらせてもらったけど、凄いっす」
「それは楽しみにしておこう」
「次は目玉っすね」
今度は出入口から真っ直ぐの扉を開けた。
そこには何時もの吊るすタイプの機器ではなく、ルームランナー型の物が置いてあった。
これは、腰を固定してレアスナタをプレイする、足元がルームランナーの360度版といってもいい。
吊るすタイプとは違い色々と制限されるが、一番の利点は簡単に腰を固定出来る事だ。
「お、吊るすタイプのシートベルトじゃないのか」
「はい、ルームランナー型っすね、目玉はこの奥っす」
更に奥の扉を開けるとそこにあったのは、一人用の機械があった。
形状は卵を横にして開いている状態、中にはイスとシートベルトが見える。
長谷川は興味深々にその機械を見ると、四方平が高らかに宣言した。
「この部屋の目玉! 『これもう遊園地やん!』です」
「え? こういうのって英語だったりしない? もしくはスタイリッシュな名前」
「お客様との一体感の感想を目指してこうなったとか」
「なるほど」
「使い方の説明するっす」
使い方は簡単だった、遊園地内はルームランナー型を使い、何か乗り物を乗る時にこの機械を使うらしい。
そして、この機械の初回の時は機械音声で注意事項や等が流れるようだ。
「では最後に、この部屋専用のゴーグルをお渡しするっす」
「そいやゴーグル無かったな」
「こちらです、右耳付近にボタンがあるっす、それでオンっす」
四方平は持っていたアタッシュケースを開いた。
そこにはスマートグラスがあり、長谷川はそれを取る。
「長谷川さん、これを付けて俺を見れば驚きますよ」
「ほう」
スマートグラスを装着して、ボタンを押して四方平を見ると――
なんと、目の前にツレが超高画質で立っていたのだ。
「ファ! ツレ君!?」
「縁先生、結び先生と愛を育んでくださいね」
「んん!? はぁ!?」
長谷川は驚きりあまり、オンオフを交互にして自分が体験している事を楽しんでいた。
歓喜の声を上げる長谷川に、四方平は少々呆れた声を出した。
「長谷川さん落ち着いて、これは――」
「いや、技術的な説明はしないでくれ、俺は今とてつもなくワクワクしている」
それは手品のネタバラシと同じ事、手品を見ている最中に調べる人間はそうそう居ないだろう。
手品が終わった後に、興味が有れば調べればいい。
自分の知らない次元を超えたワクワクだからこそ、目を輝かせる。
「了解したっす、最後に説明のまとめに入ります」
「お願いいたします」
四方平は部屋の使い方のまとめ、食事の時間等々を長谷川に説明した。
いよいよ、長谷川はVR遊園地へと向かう。