目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第一話 幕切れ この世界でも

 その後も縁達はVR遊園地を楽しんだ、そして最後に、観覧車に乗る流れとなる。

 もちろん縁と結びの二人っきりでだ、お互い寄り添って。


「いやはや、たっぷりと遊んだね~」

「ああ、技術の進歩は凄いな」

「実際に欲しくなった? 筐体」

「お金があったとして、置く場所がない」

「ああ~」


 他愛も無い会話、縁は何処か何か言いたそうにしていた。


「……結びさん」

「お、どうしたよ」

「俺の彼女になってくれてありがとう」

「本当にどうしたのさ」

「今が本当に楽しいからさ、正直、リアルの世界で楽しい気持ちは、そこまでなかったんだ」

「ありゃ、現実あってのプレイヤーでしょうに」

「そう……充実してそうで、してなかった」

「そうなん?」

「仕事して、ゲームしての繰り返しだからね」

「それはそれでいいような」

「……君と出会って、俺の人生に彩りが出た」

「ぶっふぉ! 何くっさいセリフ言ってるのさ!」


 べしべしと縁を叩く結びだが、彼女とて嬉しいのだろう。

 リアル自分自身も、ほとんど同じ様なものだったのだから。


「それくらい感謝しているって事さ」

「私も同じだよ、一緒に居て楽しいと思える、安心出来るのは君だけさ~」

「ああ」


 観覧車から見える景色も夕暮れ時だ、そろそろ夜になり、遊園地のネオンが輝くだろう。


「んで? そういう言い方をする時は、何か提案する時だよね?」

「あ、ああ……リアルで幸せになるのは、当たり前だと思う」

「だね、リアルあってのゲームさね」

「だけど、この縁ってキャラクターは、俺が中学生の時から操作している」

「そりゃ私も同じだね、スファーリアと風月に分かれていたけど」

「もう一つの人生って、言っていいのかもしれない」

「だよね~」

「何が言いたいかと言うと、結びさん」

「ふむ」


 縁はちゃんと結びの目を見た、彼女もまた愛する男性をジッと見る。

 これは絶対に、バシッと決めるセリフを言う場面だ。


現実リアルに負けないくらい、VRゲームこのせかいでも運と愛し合おう」

「……」


 縁もとい長谷川はバシッと決めた、だが――


「ぶっふぉ! ひゃっひゃっひゃ!」

「えぇ……笑う?」

「違う! 言葉は嬉しい! 長谷――縁君! イントネーション……と言うか、うんとの部分が、何時もの『運』って言い方だったからさ」

「……えぇ? そうなん?」

「ふっふっふ、しかしだ縁君、私はとてつもなく嬉しいよ」

「え?」

「何故ならその言葉は、絶対に他には無い言葉、私だけの愛の言葉さ」

「お、おう」

「それで? 何か案でもあるの?」

「ああ、結婚式に向けたドレスの素材を集める旅ってどうかな?」

「はっはーん、なるほど? 続きは酒を飲みながら聞こうじゃないか」

「そうするか……妹達にも相談してみるか」


 そう、他の人には笑い話であろうとも、この場で唯一無二の言葉を彼女に送ったのだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?