魔法陣の力を使って、各々自分の兎術を召喚した生徒達。
縁は魔法陣を消して、生徒達を見回した。
「で、縁君どうすんのさ?」
「まずは名前を決めてもらう、続きはそれからだ」
「おっけ~見て回りましょ~」
絆は座っていて、自分の兎術である『不釣』を膝の上にのせていた。
2人は絆に近寄ると、しゃがんで不釣を見た。
不釣はゴスロリ衣装で黒い兎、傘も持っている。
「絆ちゃん、この兎可愛いね~」
「当たり前です、この私を表していますから」
「おおう……凄い自信満々」
縁と結びが軽く不釣を撫でると、嬉しそうにしている。
もっと撫でてもよろしくてよ? そんな目で見ていた。
仕方なしにもう少しだけ2人は撫でてあげた。
「さてと、絆ちゃんは特に言う事なさそうね」
「そりゃ俺の妹だからな」
「ははん、そりゃそうか? 私の義理の妹だからね」
「……お二方、授業中にイチャイチャは止めてくださいまし?」
「おおう、次に行こうか」
今度はファリレントの所に行く。
白と黒のぶち模様の兎を抱っこして、彼女はうなっていた。
「むむむ……名前、トライアングル……兎……トラビット、いや何か違う」
「ファリレントは名前に苦戦しているみたいだね~」
「先生方ぁー名前ってどうしたらいいんですかぁー」
「自分の心に聞いてくれ、としか言えない」
「ファリレント、お前のトライアングルは飾りか?」
「はっ!」
ファリレントはトライアングルを召喚。
左手で抱っこしながら、右手でトライアングルを叩いた。
響く高音に対して、抱っこされている兎は、自分のトライアングルを叩いた。
二つの音が共鳴する。
「……貴女の名前は『
「……」
「え? 私がそう思った? ってあなたお話出来るの?」
「……」
「ん? あ、私だけに聞こえているのね?」
ファリレントと楽譜は、2人だけの意思疎通ができる様だ。
「大丈夫だな」
「ほっほっほ、音楽は全てを解決する、次へゴ~」
次はツレの所に行くと、肩に乗せた茶色の兎を可愛がっていた。
その兎は、死神の鎌に、デフォルメされたガイコツのお面をおでこに付けている。
「名前……名前かぁ、てかお前さん、努力の神様と手合わせした時に、呼んだのとは……こう、違うんだよな」
どっちゃんと手合わせしたあの時、確かにツレは兎術を使った。
だがそれは、縁の授業を聞いていた親戚の比良坂黄泉、昔、縁の授業を聞いていた人物だ、ツレは彼女から聞いたらしい。
だがその時兎術は言わば『誰でも出来る兎術』であり、今の兎術は『神が使う事を許した兎術』である。
つまりは上位互換、違っていて当たり前なのだ。
「当たり前だツレ君、それが正真正銘の兎術……それは一度置いといて、名前は既に決まっているんだろ?」
「いや、そうなんすけどね、えに先、ただ兎術って自分の分身みたなもんなんすよね?」
「ああ」
「いや、パッと思いついたのが『道連れ』なんすよ」
「死神ぽくていいじゃん」
「いやいやいや、
死神は死者の魂を、冥界へ連れていく役割がある。
それは自然の事なのだが、魂の案内役と言えども恨まれる。
しかし、道連れと名付けられそうな兎は『あ、構わないっすよ?』と言いたそうだ。
「ふむ、その道連れ君は気にしてないようだが?」
「えぇ……何で?」
「ツレ君、君の本当の名、死神しての名は恥じる名か?」
「それ言われると違うって言うすけど、自分自身ってわかってても、可愛い兎に道連れは……」
「ならば君と同じく普段は偽名にすればいいだろう」
「あ、そうか……って、それで納得するおれもどうかと」
死神としては見習いで、仕事にも誇りがあるが、人様に嫌われない様にと、偽名にした。
「まあいいか、お前の普段の名前は……茶色だから『きなこ』だな!」
「……」
「はっはっは、可愛い奴め」
とりあえず『きなこ』はも死神の鎌とドクロのお面を消した。
ただの茶色の兎となった、ご主人様の肩に乗っている兎になった。
「うむ」
「大丈夫そうだね~」
次は未来の所にと向かう、兎術の名は直ぐに『導き』と言う名を付けた。
未来と導きは、町中に居そうな占い師っぽく待機をしている。
「へい、そこの幸せそうな先生方、私の導きの占い見てみるかい?」
「授業中だからまた今度な」
「はい、次」
「……私達の反応が雑、導き、この占い結果?」
「……」
「ふっ……流石は私の導き、見えていたのね?」
「……」
素通りした2人は、石田夫妻の元にいった。
僧侶の衣服を身にまとい、バケツをかぶって錫杖を持っている兎。
「ああ……縁先生、この子の名前は『長寿』にしました」
「ワシは『説法』にした、虚無僧ぽいしの」
長寿と説法はそれぞれご主人の膝の上でくつろいでいる。
「石田さん達も言う事は無いね」
「だね~」
最後に一本槍の所に行くと、彼と彼の兎術『継続』は、真剣な表情で見つめあっていた。
「……」
「……」
「どうしたのさ一本槍」
「風野音先生、自分は情けないです」
「本当にどうしたのさ?」
「僕は『兎術』を戦力として見ていました、言わば戦う為の『道具や駒』……兎術が自分の心と言うならば、僕は『継続』に謝らないといけない、僕は他人から『道具』としては見られたくありませんから」
これは難しい問題だ、というより人による問題だ。
道具としてみるも、駒としてみるも結局はその人の考え方。
一本槍は、本当の兎術は自分自身をうつしたもの。
ならば、自分を道具や駒、戦力としてみていた事にショックなのだ。
「本当に一本槍はクソ真面目だね~いや、その考え方は否定しないけどさ?」
「これからは気を付けます、自分自身を大切にしないと」
「それに気付いたのは見事だ、そう、兎術は自分の心を映し出す、つまりは『名刺や自己紹介』の様なものだ」
「はっは~ん? 生徒達の本質を兎術でさらけ出したと?」
「ああ、心配は無かったな、一通り見たが問題無い」
「つまりは『神の力をちゃんと自己責任』で使えると」
「そうだ……皆、聞いてほしい」
生徒達の視線が縁に集中する。
「俺は君達に力を与えた、何をするかを俺に見せてくれ……ああ、レポート提出って言った方がいいか」
「ほいほい縁君や? それって何でもいいの?」
「あ、人様に迷惑かけたり、法に触れる使い方はするなよ?」
「ま、それは大丈夫でしょ、つまりは何に使ったか報告しろって事ね」
「ああ……さて、今日これから俺達は結婚式の場所選びに行く、この後全て自習にするから、今日1日でのレポート提出してくれ」
「なるほど、んじゃ、レポート提出には一週間あげよう」
生徒達からはわかりましたとの声が上がる。
だがツレは慌ててツッコミをいれた!
「いやいや! 唐突っすよ! 皆も何普通な顔をしているんすか!?」
「ツレ、二時間目から自習」
「あ、ああ……そうなんだがな未来、えぇ……楽出来ると思ったのに」
「ツレ、サボってもいいんだぞ?」
「いやいやいや、えに先何言ってるんすか?」
「ふっ……俺は兎術を今日1日どう使うか見せてみろ、と言ったんだ」
「あー……そういう事っすか」
そう、さぼろうが何かしようが、兎術を使った事を報告しろと言っているのだ。
これは生徒達の性格が、一番に出るだろうと縁は考えた。
縁的には、まだまだ生徒の事は知らない。
与えた力をどう使うのかを見たかった、神の力の使い方を。
そんなこんなで、授業終了のカネが鳴った。
「お、カネがなったね~……ぐへへへへ! さあさあ縁! 速く式場の下見に行こうではないか!」
「……ちゃんと終わりの挨拶をしてからな」
終わりの挨拶をした瞬間、そよ風を残して、縁は結びに連れ去られた。