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第二話 演目 見つめ直す

 魔法陣の力を使って、各々自分の兎術を召喚した生徒達。

 縁は魔法陣を消して、生徒達を見回した。


「で、縁君どうすんのさ?」

「まずは名前を決めてもらう、続きはそれからだ」

「おっけ~見て回りましょ~」


 絆は座っていて、自分の兎術である『不釣』を膝の上にのせていた。

 2人は絆に近寄ると、しゃがんで不釣を見た。

 不釣はゴスロリ衣装で黒い兎、傘も持っている。


「絆ちゃん、この兎可愛いね~」

「当たり前です、この私を表していますから」

「おおう……凄い自信満々」


 縁と結びが軽く不釣を撫でると、嬉しそうにしている。

 もっと撫でてもよろしくてよ? そんな目で見ていた。

 仕方なしにもう少しだけ2人は撫でてあげた。


「さてと、絆ちゃんは特に言う事なさそうね」

「そりゃ俺の妹だからな」

「ははん、そりゃそうか? 私の義理の妹だからね」

「……お二方、授業中にイチャイチャは止めてくださいまし?」

「おおう、次に行こうか」


 今度はファリレントの所に行く。

 白と黒のぶち模様の兎を抱っこして、彼女はうなっていた。


「むむむ……名前、トライアングル……兎……トラビット、いや何か違う」

「ファリレントは名前に苦戦しているみたいだね~」

「先生方ぁー名前ってどうしたらいいんですかぁー」

「自分の心に聞いてくれ、としか言えない」

「ファリレント、お前のトライアングルは飾りか?」

「はっ!」


 ファリレントはトライアングルを召喚。

 左手で抱っこしながら、右手でトライアングルを叩いた。

 響く高音に対して、抱っこされている兎は、自分のトライアングルを叩いた。

 二つの音が共鳴する。


「……貴女の名前は『楽譜がくふ』っていうのね?」

「……」

「え? 私がそう思った? ってあなたお話出来るの?」

「……」

「ん? あ、私だけに聞こえているのね?」


 ファリレントと楽譜は、2人だけの意思疎通ができる様だ。


「大丈夫だな」

「ほっほっほ、音楽は全てを解決する、次へゴ~」


 次はツレの所に行くと、肩に乗せた茶色の兎を可愛がっていた。

 その兎は、死神の鎌に、デフォルメされたガイコツのお面をおでこに付けている。


「名前……名前かぁ、てかお前さん、努力の神様と手合わせした時に、呼んだのとは……こう、違うんだよな」


 芯努貫徹耕励磨しんどかんてつこうれいま、努力の女の神様だ、通称どっちゃん。

 どっちゃんと手合わせしたあの時、確かにツレは兎術を使った。

 だがそれは、縁の授業を聞いていた親戚の比良坂黄泉、昔、縁の授業を聞いていた人物だ、ツレは彼女から聞いたらしい。

 だがその時兎術は言わば『誰でも出来る兎術』であり、今の兎術は『神が使う事を許した兎術』である。


 つまりは上位互換、違っていて当たり前なのだ。


「当たり前だツレ君、それが正真正銘の兎術……それは一度置いといて、名前は既に決まっているんだろ?」

「いや、そうなんすけどね、えに先、ただ兎術って自分の分身みたなもんなんすよね?」

「ああ」

「いや、パッと思いついたのが『道連れ』なんすよ」

「死神ぽくていいじゃん」

「いやいやいや、ふう先生、そりゃあんまりじゃないすか? ただでさえ死神って悪いイメージあるのに」


 死神は死者の魂を、冥界へ連れていく役割がある。

 それは自然の事なのだが、魂の案内役と言えども恨まれる。

 しかし、道連れと名付けられそうな兎は『あ、構わないっすよ?』と言いたそうだ。


「ふむ、その道連れ君は気にしてないようだが?」

「えぇ……何で?」

「ツレ君、君の本当の名、死神しての名は恥じる名か?」

「それ言われると違うって言うすけど、自分自身ってわかってても、可愛い兎に道連れは……」

「ならば君と同じく普段は偽名にすればいいだろう」

「あ、そうか……って、それで納得するおれもどうかと」


 黄泉比良坂之死魔よもつひらさかのしま、これがツレ・テクーダの本当の名前。

 死神としては見習いで、仕事にも誇りがあるが、人様に嫌われない様にと、偽名にした。


「まあいいか、お前の普段の名前は……茶色だから『きなこ』だな!」

「……」

「はっはっは、可愛い奴め」


 とりあえず『きなこ』はも死神の鎌とドクロのお面を消した。

 ただの茶色の兎となった、ご主人様の肩に乗っている兎になった。


「うむ」

「大丈夫そうだね~」


 次は未来の所にと向かう、兎術の名は直ぐに『導き』と言う名を付けた。

 未来と導きは、町中に居そうな占い師っぽく待機をしている。


「へい、そこの幸せそうな先生方、私の導きの占い見てみるかい?」

「授業中だからまた今度な」

「はい、次」

「……私達の反応が雑、導き、この占い結果?」

「……」

「ふっ……流石は私の導き、見えていたのね?」

「……」


 素通りした2人は、石田夫妻の元にいった。

 薬籠やくろうを背負ったおばあちゃん兎。

 僧侶の衣服を身にまとい、バケツをかぶって錫杖を持っている兎。


「ああ……縁先生、この子の名前は『長寿』にしました」

「ワシは『説法』にした、虚無僧ぽいしの」


 長寿と説法はそれぞれご主人の膝の上でくつろいでいる。


「石田さん達も言う事は無いね」

「だね~」


 最後に一本槍の所に行くと、彼と彼の兎術『継続』は、真剣な表情で見つめあっていた。


「……」

「……」

「どうしたのさ一本槍」

「風野音先生、自分は情けないです」

「本当にどうしたのさ?」

「僕は『兎術』を戦力として見ていました、言わば戦う為の『道具や駒』……兎術が自分の心と言うならば、僕は『継続』に謝らないといけない、僕は他人から『道具』としては見られたくありませんから」


 これは難しい問題だ、というより人による問題だ。

 道具としてみるも、駒としてみるも結局はその人の考え方。

 一本槍は、本当の兎術は自分自身をうつしたもの。

 ならば、自分を道具や駒、戦力としてみていた事にショックなのだ。


「本当に一本槍はクソ真面目だね~いや、その考え方は否定しないけどさ?」

「これからは気を付けます、自分自身を大切にしないと」

「それに気付いたのは見事だ、そう、兎術は自分の心を映し出す、つまりは『名刺や自己紹介』の様なものだ」

「はっは~ん? 生徒達の本質を兎術でさらけ出したと?」

「ああ、心配は無かったな、一通り見たが問題無い」

「つまりは『神の力をちゃんと自己責任』で使えると」

「そうだ……皆、聞いてほしい」


 生徒達の視線が縁に集中する。


「俺は君達に力を与えた、何をするかを俺に見せてくれ……ああ、レポート提出って言った方がいいか」

「ほいほい縁君や? それって何でもいいの?」

「あ、人様に迷惑かけたり、法に触れる使い方はするなよ?」

「ま、それは大丈夫でしょ、つまりは何に使ったか報告しろって事ね」

「ああ……さて、今日これから俺達は結婚式の場所選びに行く、この後全て自習にするから、今日1日でのレポート提出してくれ」

「なるほど、んじゃ、レポート提出には一週間あげよう」


 生徒達からはわかりましたとの声が上がる。

 だがツレは慌ててツッコミをいれた!


「いやいや! 唐突っすよ! 皆も何普通な顔をしているんすか!?」

「ツレ、二時間目から自習」

「あ、ああ……そうなんだがな未来、えぇ……楽出来ると思ったのに」

「ツレ、サボってもいいんだぞ?」

「いやいやいや、えに先何言ってるんすか?」

「ふっ……俺は兎術を今日1日どう使うか見せてみろ、と言ったんだ」

「あー……そういう事っすか」


 そう、さぼろうが何かしようが、兎術を使った事を報告しろと言っているのだ。

 これは生徒達の性格が、一番に出るだろうと縁は考えた。

 縁的には、まだまだ生徒の事は知らない。

 与えた力をどう使うのかを見たかった、神の力の使い方を。

 そんなこんなで、授業終了のカネが鳴った。


「お、カネがなったね~……ぐへへへへ! さあさあ縁! 速く式場の下見に行こうではないか!」

「……ちゃんと終わりの挨拶をしてからな」


 終わりの挨拶をした瞬間、そよ風を残して、縁は結びに連れ去られた。

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