目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第三話 演目 一本槍の修業

 縁と結びは、一本槍の過去へと向かった。

 山で修行中らしく今は夜、たき火を前にストレッチをしている一本槍。

 開いた巻物から、幽霊の様に半透明な回歴かいれきの開祖、逍遥しょうようが浮いていた。


 よく見れば一本槍は少々汚かった、しかしそれは当たり前の事。

 山で日常生活の様に常に綺麗ではいられないだろう。

 だが一本槍の目はキラキラとしていた。


「逍遥師匠、やはり基本は山籠もりですね!」

「……お主、メンタルどうなっとるんじゃ? もう一ヶ月はこもっとるのに」

「え?」

「普通山籠もりは、徐々に心をむしばんでいく、例えば……身体をちゃんと洗いたいとか、遊びたいとか」

「いえ! 僕は修業している方が楽しいです、あ、友人達と会えないのは寂しいですよ?」

「……界牙流四代目、兎の神よ、お主らなんちゅー子をワシに紹介したんじゃ」


 一本槍は修行が楽しくて仕方ない、そして、少々過酷な環境だからこそ。

 普段の生活がどれだけ恵まれているかを、知る機会になった。

 だが、普通な考えたらやはり一本槍は、異質なのだろう。


『あ、なんかすんません』

『結びさん、過去の映像なんだから聞こえないよ』

『あ、いや、つい』


 結びは少々思う所があり、声が届かなくても謝ってしまう。


「……一本槍よ、何故ワシが回歴かいれきという流派にしたか聞くか?」

「はい!」


 一本槍はストレッチを終え、逍遥の目の前に正座した。


「界牙流に対抗するには、生半可な覚悟や力ではダメだと感じた、故に私は可能な限り他人を頼りに寄り道をする事にした」

「寄り道ですか?」

「急がば回れじゃな、力を求めて世界を旅した、結果は禁術に手を出し過ぎた……ワシは本当は30代なのじゃよ」

「……禁術の反動ですか」


 逍遥は界牙流三代目と戦い敗れ、その時、逍遥は10代の子供だった。

 天涯孤独な彼を、その時止める人物は居なかった。

 それから世界中を旅をして、力を付けたのだが。

 代償は大きく、寿命や身体を蝕んでいった。


「……ワシが言えるのは、その時その時の身の丈に合う力を付けるのじゃ」

「はい、縁先生や風月先生、努力の神様にも同じ事を言われました」

「改めて考えるとお主は環境がいいな、ちゃんと止める者が居る、ワシはそういう人達には恵まれなかった」

「ええ……自分が恵まれているのは、理解しているつもりです、師匠にも会えましたし」

「……まあ話を戻して、時に急ぐのはいいが、何事も積み重ねじゃ……界牙流三代目と戦って本当に死ぬとわかったあの時、後悔が襲った、短い人生でも積み上げてきた自分の力が……終わる事に」

「……」

「界牙流に一撃食らわせたい、今思うと馬鹿らしい、後悔も有るが……仕方ないじゃろ、夢見たのだから」


 子供の時に見た夢、明らかに若気の至りだ。

 しかし、後悔していると言ってもその顔は満足そうだった。

 後悔しているが満足、矛盾しているだろうが、人の人生はそれの積み重ねではないだろうか。


「ワシが師として、言えるのは……一本槍、自分の命は安く見てはダメだぞ? 後は……楽して儲けようとも思わぬ事だ」

「楽して儲ける?」

「禁術や神の力、そういったモノじゃな、先程も言ったが身の丈に合う力を付けるんじゃ、決して担任の先生のマネはするなよ?」

「ええ、先生達とは土俵が違うと思っています、そして……縁先生、風月先生にはおそらく、僕は一生敵わないかもしれません」


 それを聞いた結びがつい声を出した。


『いや、成長速度で言えば間違いなく私よりも素質あるよ』

『一本槍君は何歳なんだ?』

『15だね』

『若いな……その時の俺は……人間に当たり散らしている歳だ』

『風月は修業中で、スフーリアは旅の最中だね~』

『つまり、将来俺達を超せる可能性があると』

『ふぉっふぉっふぉ、それには私達の愛を打ち破る力を身に付けてもらわないとね』

『ああ』


 この2人の会話はもちろん一本槍達には聞こえていない。


「まあ、アレらに勝とうとは思わない事だ」

「ええ、ですから目標ですよ、こう……揺るがない1位といいますか」

「目標はいい事だが、自分の幸せを考えるんじゃ」

「幸せですか?」

「うむ、何も人生ずっと戦いに身を置くことも無い」

「結婚とかを考えろと?」

「それも選択肢の一つじゃが……ま、これは直ぐに答えはでないじゃろ……そろそろ寝なさい、明日も早い」

「はい、師匠」


 一本槍は軽くタオルで身体を拭いてから、寝袋に入った。

 逍遥は火を見ていて、何かを考えている。

 師弟としては2人は良好な関係なようだ。


『ふーむ、私より先生しているね、逍遥さん……さて、ここからしばらく山籠もりのはず』

『そこは飛ばそうか』

『だね、山降りるまでは、修業しているだけだから』

『知っているのか?』

『私はレポート読んだから』

『なるほど』


 縁は一本槍が山を下りるまで早送りする事にした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?