縁達はチーリメ学園がある、グリムアルまでやって来た。
目的は縁が一本槍にあげた巻物の件、学園側には事前に経緯を書類で送っている。
「結びさん、どうするんだ? まさか正面から乗り込むのか?」
「んだよ? ってもちゃーんと許可取ってるから」
「訪問理由は?」
「単純に、おたくの生徒がやらかした事に対して、どう責任とるんですか? 対処しないなら、界牙流してお邪魔いたします」
「え? 何故そこで界牙流が出るんだ?」
「んん? 未来の旦那が託した巻物を、燃やされたからさ、てか神様視点では怒らないの?」
「それをすると天変地異を起こすが? 俺は他人の縁を壊すのは容赦しない」
「……いや、縁も人の事言えないじゃん」
「だったら安易に界牙流を出さないでくれ、説得力がないから」
「いや~バランスって難しいね~んじゃ、私が暴れる分、縁には落ち着いてもらおう」
「俺も人の事言えないけど、ブレーキをかけてくれ」
縁達はチーリメ学園へと行くと、絵に描いた様な貫禄のいい男が待っていた。
その男き縁達を見つけると、近寄ってきて頭を勢い良く何度も下げる。
「わざわざお越しくださいまして、ありがとうございます」
「おや? ……校長先生ですか?」
「はい、チーリメ学園の学園長をしている、ブリザラット・チーリメと申します」
「ああそうか、学園だから学園長か、失礼いたしました、風野音結びと申します」
「縁です」
「こ、ここここ、この度は――」
明らかに動揺しているブリザラット、その時、今回の騒動の原因が通り過ぎた。
一本槍の巻物を燃やした、
「おいおい、アレ見ろよ、ウサミミカチューシャにジャージって」
「だっさ!」
「お前らやめるにゃ、服を買うお金が無いのにゃ」
「うけるー」
「……おい、てめぇら、今なんて言った?」
結びは相手がビビらない程度に威嚇した。
この段階で、相手が格下でも更に格下だとわかる。
少なくとも実力を隠しているかは、判断するべきだろう。
「ぷぷぷ、正論でブチギレてるにゃ」
「おーこわこわ! 学校に入ろうぜ」
「はははは!」
スタコラサッサと、学園内に逃げる地獄谷達。
結びはニコニコと笑いながら縁を見た。
「縁、弁償する予算てある?」
「それで君の気が住むなら安いね」
「ありがとう」
ゆっくりと笑顔で門に近寄っていく、だが結界に阻まれる結び。
「何にゃ? この学校は部外者は絶対に入れないにゃ、強い結界があるにゃ」
「おいおい、正論でキレるなよおばあさ――」
「ほう? その結界は今、壊れたが?」
「にゃ?」
そう、結びはノックをするように結界を破った。
界牙流四代目に、この程度の結界は意味をなさない。
状況が理解できない、地獄谷達4人、腰を抜かしている学園長。
学園長は今まで、尻餅をついていたようだ。
「どうした? 続けろ? 正論でキレるおばさんがどうした?」
「な! はっ!」
「こ、壊した?」
「お! お前達! これ以上余計な事をしないでくれ!」
学園長が縁の目の前で土下座をした。
「
結界を破った事と、学園長の大声で続々と人が集まってきた。
縁は学園長に立ち上がる様に言うが、聞く耳を持たずにずっと土下座をしている。
「何だ何だ? またあいつら何かやらかしたのか?」
「え? 学園長土下座しているけど、どんな状況は……」
「てかあの女性凄くない? 門の結界破壊したの?」
「お前冷静だな、いや、あの力にはちょいと興味がある」
野次馬が好き勝手言っている、結びは地獄谷の目線を合わせた。
「まあ旦那の姿格好が、ちゃんちゃら可笑しいのは認めるよ、いやはや大人げない事をしてしまったね、ただ」
そして本気で睨んだ、世界を滅ぼす勢いで。
地獄谷達は声を上げる事も出来ずに、その場に座ってしまった。
ただ、相手を見る事しか出来ていない。
「『外』で、正論でも知らない人に投げかける時は気を付けてね? 殺される可能性があるからさ、それは置いといて君達は……これから大変だ、穏便に済ませようって、話し合いをぶち壊したんだからさ」
とても楽しそうに演説している結びに、縁は呆れながら近寄って声をかけた。
「待て待て結びさん、こっちからしかけといて、その言い分はちょっと」
「ん? このクソガキ共が私の気分を悪くしなかったら、何もしなかったよ?」
「いや、だから落ち着いて」
「界牙流四代目がな、正論だろうがなんだろうが、旦那笑われて黙ってられない流派なんでね」
野次馬の中にいるメガネの男子生徒と、ツンツン頭の生徒の会話が響く。
「か、界牙流!? あの界牙流か!」
「ん? お前知っているのか?」
「界牙流は伴侶を優先して守る為の流派! その強さは一人で世界と戦えるとされている!」
「……え? そんな流派だったら、世界征服なんて簡単なんじゃないか?」
「俺も詳しくはな――」
「お、メガネ君、よく私の流派を知っているね、マイナー流派なのに」
結びは笑顔で答えた、まるでファンサービスでもしている様に。
「答えは簡単、恋人、伴侶、家族、それを五体満足で守る流派だ、ただそれだけなんだよ、強いと色々と誤解されるよね~で、ただの子供に何をブチギレてるかというとね? 旦那が生徒にあげた巻物をさ、遊びで燃やしたのさ、ああ、旦那は神様なんだけどね」
少し早口でペラペラと喋る結び、メガネの男子生徒は結びよりも縁をじっと見た。
「……いやいやいや、待て待て待て! お、思い出した! あの神の物を燃やしたのか!?」
「なあ……何を焦っているんだ? いや、やっちゃダメなのはわかるが」
「現代歴史でやっただろ! 縁起身丈白兎之神縁! 数十年前! 人々と戦争した神だ! ジャージとウサミミカチューシャで思い出した!」
「……あ! ああ! 一年生の時の最初の授業でやった神か! いやー忘れてたわ」
「一年生の最初の授業、つまりは一番最初に覚えておく事と考えてもいい!」
「な、なるほど? てか、お、落ち着けよ」
「落ち――」
「そうそう落ち着いて、当たり前の事を言うけどさ、縁は妹を殺そうとする奴らと戦っただけなんだよ」
「てか俺は……教科書になっていたのか」
「好き勝手かかれてそうだよね~」
「いや、それは別にいいんだ、好き勝手したしな……いや、てかこの状況どうするんだよ」
「さあ? 全てはそこのクソガキ共の好き勝手したツケじゃないか?」
結びはもう一度地獄谷に目を合わせた、他の3人にも目を合わせる。
無論目を合わせた瞬間、全員が目線をそらした。
「いいか? 状況説明するとさ、アンタの所の生徒が、神様が与えた巻物燃やしたんだけど謝ってくれない? と、学園に来たわけだ、で、穏便済まそうとしたら、ブチギレてる被害者に正論パンチだ」
「いや……正直言われ慣れて――」
「私も普段なら、あ~はいはいで済ませるけどさ」
「うん、落ち着いて、割とビックリしているから」
「ま、私の虫の居所が悪すぎた、縁が穏便な分、私がブチギレてるんだよ、優しいだろ? 縁の神、私の旦那は……本当ならこの街を消滅させてるってさ」
「だから、そういう事は言わなくてもいいんだって」
「言っとかなゃダメでしょ? だからこんなクソガキ共がのさばるんだよ、安易な行動が他人を、街を、世界を滅ぼす可能性があるってね~」
「待って下さい!」
結びは、ニヤニヤと地獄谷達を追い詰めていると、猫耳男子生徒が声を上げて近寄って来た。
「……ほうほう、君は強いな! 面白い面白い!」
結びの威嚇にもひるまない、それだけでも凄い。
そして地獄谷をかばう様に、前にたったのだ。