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第四話 演目 見定めという名の風呂敷を畳む

 結びは、猫耳の男子生徒を品定めする様に見た。


「いいぞ君、気に入った! この私に屈しない精神力と行動力は素晴らしい」

「それより、アンタはこいつらに何を要求するんだ」

「んん? こいつら? 違うだろ? 君が心配しているのは、君の後ろに居る猫娘だけだろ?」

「……」

「君はこれまで守ってきたんだろう、んで、間接的に他の3人も助けるはめになった」

「知った様にいうじゃねーか」

「当たり前だろ、それくらい読めないと、流派の四代目なんて名乗れんよ?」

「要件を――」

「だから、今のうちに言っといた方がいいよ? お前達、恨みを買い過ぎて殺されるかもしれないってさ」


 その発言に野次馬達はざわつき始めた。

 猫耳男子は、尋常じゃないくらい結びに殺人を向けるが意味はない。

 結びからしてみれば、赤子が意味を知らずに他人を叩くのと同じ。

 つまりは仕方ないよな、赤ちゃんだもの許してやろう。

 その位の気持ちでいるのだ。


「現に、今まさに私の怒りを買ったからだ」


 結びは手加減した殺意を猫耳男子に向けた。

 相手は踏ん張り耐えているのが、身体の震えでわかる。

 そしてそれを猫耳娘、地獄谷炎花達へ向けた。

 無論、ただ怯えるだけしかできない。


「なあお前達、私がお前達を殺さないのは、未成年で学生だからだ、世間で言う『一般人』になったら……誰に守ってもらうんだ?」


 今更ながら地獄谷達感じていたのは、今まで出会ったことが無い人物。

 例えるならば、殺す殺すと言っても本当に殺す奴は少ない。

 だが今目の前に居るのは、本気で自分達を殺そうとしている女だ。

 目をそらし、殺されない事を祈る事しかできないが、彼女達は死なないだろう。

 結びは自分で言っていた、未成年で学生は殺さない、と。

 つまりは成人になったら、学生ではなくなったら、その限りではない。


 結びは猫耳男子に目線を合わせた。


「ま、君の言う通り要件を言おうか、君が私の生徒と戦え、殺し合いじゃなくて、手合わせだ、それで今回の件は終わりだ」

「……本当に終わるのか?」

「ああ……さてはて、ここまで大きくしてしまった風呂敷をたたもうかね」


 結びが手を叩くとそよ風が辺り全体を包んだ、その風に身を任せた物はスヤスヤと寝だす。 

 猫耳男子はバタバタと寝だす周りを確認して、真っ先に地獄谷の安否を確認する。


「この風は!?」

「界牙流、日常に吹く風、安心してくれよ『日常』に戻るだけだ」


 まずは野次馬達が、あくびをしながら立ち上がった。

 今までの事は何もなかったかのように。


「ん? 俺達はなんでこんな所に居るんだ?」

「さあ……教室に戻ろうぜ」


 それは地獄谷達も同じだった。

 自分達の『日常』を強制的に促しているのだろう。

 縁達が居てもおかまいなしに、普段の行動に戻ったのだ。 


「んにゃ? 私達は何をしてたにゃ?」

「まあ、んなのいいから、いつもの場所に行こうぜ」

「だな」

「うけるー」


 地獄谷達と野次馬達は居なくなった。

 結びが色々と言っている間、絶望していた学園長。

 今は穏やかな顔をして寝ている。


 結びはニコニコしながら猫耳男子を見た。


「学園長はもう少し眠ってもらうとして、君の名前を聞いておこうか」

天空原てんくうはら今戸いまどだ」

「そっか、私は風野音結び、君は本当に強いね」

「アンタは結局、何がしたかったんだ? あいつらや野次馬、この場面を見なかった事にしてなんの意味がある」

「は? 私のストレス発散だよ天空原さん? 理解される必要は無い」

「は!?」

「ほらほら、さっさと日常に戻りなさい? あの猫娘達の尻拭いをする生活にね」

「なっ! 尻拭いだと!? 俺は!」

「おい小僧」

「!?」


 結びは本気で天空原を睨んだ、世界を滅ぼす勢いでだ、天空原はあまりの恐怖に気を失いそうになる。

 だが彼は耐えた、全身が震え、涙や鼻水をたらそうとも絶対に譲らない、その覚悟を感じれる。

 だが結びは容赦しない、早口で天空原をまくしたてた。


「私はな? 旦那とのイチャイチャ時間を取られてな? ここに居るんだよ、邪魔する奴らは全て殺したいんだ、今日も本当はな? 私達の結婚式の準備の時間だったんだ、難癖つけるんなら、てめぇがあの猫娘達をどうにかすれば良かったんだ」

「結びさん、それくらいにしなさい、さっさと用事を済ませて帰ろう、」


 縁が右手で結びの肩に触れた、その瞬間振り返りる。

 そこには何時も通りの、縁にデレている結びの顔があった。


「ああ、だね」


 天空原がチャンスとばかりに、その場から逃げようとした。


「ああ天空原君、もう一回忠告しとくけど、私のような悪人から、あの猫娘を守れるかな? いつまで続けるか知らんけど」


 天空原は口を抑えながら、校舎へと逃げる様に入っていった。

 縁は怒るというより、呆れて結びに話しかけた。


「いや……本当に何がしたかったんだ結びさん、てか他校の学生に因縁付けないで」

「縁君、これは彼の試練だ」

「試練?」

「天空原は人を殺している、暗殺者とか悪人とかかな?」

「何?」

「普通に考えたらさ、人様殺したらそこから始まるんだよ、非日常がね」

「まあそりゃそうだ」

「おそらくだけど、あの猫娘ちゃんは恨みを重ねたんだろうね、塵積ってやつ」

「ふむ、復讐か被害者に雇われたとか……まあいいか、それで?」

「んで彼は大怪我を何回か、そして禁術に手を出しているね、このままだと間違いなく早死にする」

「……どうするんだ?」

「私のクラスに引き入れる」

「え!? 転校させるって事!?」


 突拍子も無い結びの発言に縁は驚いた。


「天空原は滅多に見ない人材だ、あの猫娘ちゃんも性根をぶっ叩けば大丈夫でしょ」

「……話が大きくなったな」

「んじゃ、縁のやる気を出させてあげよう」

「え?」

「片想いか両想いかは知らないけど、天空原はあの猫娘ちゃんが間違いなく好きだろうさ、んじゃなきゃ命は張れんよ、いや、縁ならそれくらい感じ取れるか」

「まあね……いや正直、結びさんがガチギレしてたからぶっ殺すのかと思った」

「ひょっひょっひょ、神様だって誰でも助ける訳じゃないでしょ?」

「まあ確かに」

「この私の殺意に耐えたってだけで合格だ、んで縁は常日頃言ってるでしょ? 良き縁は守ると」

「ああ、彼から感じたのは一途の愛だ、他人からどう評価されようが、彼女を絶対に守る」

「なら縁的にも合格?」

「ああ」

「んじゃ、学園長起こして話し合いだね~」


 全てを丸く収めるために、これから話し合いが始まる。

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