相変わらず天空原は結びにボコボコにされていた。
怪我をすれば治療の繰り返し、この戦いに意味はあるのだろうか?
ただ結びは天空原を鼻で笑うだけだった。
「まったくお前はバカだ、冷静に未来を考えればいいものを」
「……う、うるせぇ」
ボロボロになったり治ったり、そんな天空原をただ周囲は見ているだけだった。
正確には会場はざわざわしていた、何か色々と言うだけで行動を起こす人は居ない。
地獄谷はこのおかしな状況に、恐怖する事しか出来なかった。
「な、何で……何でだ、誰も止めないんだにゃ!」
「いいか地獄谷? あれが『大人の世界の殺し合い』だよ、いや、あれは極端だけどさ、天空原は『手合わせの場』で『殺し合い』を始めたんだよ、怒られて当然だね、まあそれだけじゃないが」
観客席で、地獄谷の隣に座っているシーナはそう言った。
その言葉に地獄谷は救いを求める様に見つめる。
「な、何で……何でこんな事になったのにゃ……」
「説明してほしいか? ってか、何処から説明が居る?」
「ぜ、全部説明出来るのかにゃ!?」
「ま、縁や結び先生ほどじゃないがね、何が知りたい? 質問は一個ずつな」
「……て、天空原は何で……何であんな姿になったのにゃ!」
「ふむ、理由か? それともあの禁術の効果か?」
「り! 理由! 何でそんな危ないものに手を出したにゃ! どう見ても普通じゃないにゃ!」
「結び先生もさっき言っていたが……地獄谷、お前さんを守るためだ」
「にゃ!? な、何で私が出で来るにゃ!」
「理由は簡単だ、お前さんを好きだからだろ? あ、茶化してないからな?」
「にゃ!? で、でも何でそうなるのにゃ!」
恐怖と恥ずかしさで更に混乱した地獄谷、まんざらではないようだ。
だが状況が状況なので、直ぐにまた恐怖の顔になる。
シーナは冷静に説明を始めた。
「まず、アンタは悪さをしてきたね?」
「にゃ……そうにゃ……」
「で、アンタはその持ち前の力で好き勝手してきた訳だ」
「にゃ……」
「で、お前に恨みを持った人達がだ、暗殺者とかを雇ったんだよ、で、天空原がずっと対処してきたのさ、相手を殺すくらいね」
「にゃ!? ま、待つのにゃ!? 学生てか子供――」
「お前さんそれだけ世間に恨まれてたんだよ、世間てか、お前が今まで居た場所の人達と言った方がいいか、大人とか子供とか関係なく、悪人は死んで当然と思う奴らは居る」
「……で、でも何で天空原が、その暗殺者と戦う事になるにゃ?」
「さっきも言ったけど、好きなお前さんを守る為だろ? 天空原はいい男だね、おそらく日常生活でも何かと気に掛けたんじゃないか?」
「にゃ……」
地獄谷は今にも泣きそうだった、自分でも認めたくなかった言葉を大声で吐いた!
「じゃ、じゃあ! あの姿なのも! 今殺されかけているのも! 全部! 全部私の身勝手って事!? でも! わ、私は頼んでない!」
その言葉に結びが振り向いた、結びの目は人殺しをする目だった。
結びは鼻で笑いながら、さも当然のように言い放つ。
「ほう? ならそのまま目をつぶってろ? コイツはいい捨て駒って事だ」
「ま、待ってにゃ! 先生なら! そこまでしなくてもいいじゃないか!」
「あ? お前、今までコイツに守ってもらってたんだろ? 私みたいな殺し合いをする奴らからさ、だったらそのまま守ってもらえよ無知なお姫様」
「!?」
事実として地獄谷が悪さをしまくって、暗殺者や刺客が送られてきた。
それを地獄谷に気づかれないように、天空原が対象をしてきたのだろう。
もし知っていたら、こんな反応はしらない。
知っていてこんな事を言っていたら、本当の性悪女だ。
だが次に地獄谷は、人として必要な事を泣き叫んだ。
「だ……誰か助けてにゃ! 助けてぇ! お、お願い……お願いします! 天空原は悪くないにゃ!」
無論、そんな叫びで動く人は居ない、だが捨てる神あれば拾う神ありだ。
縁はウサミミカチューシャを外して、何時もの神様モードへとなった。
「俺が聞こう、
「にゃ!?」
唐突に近くに座っていた縁が、高位の神の後光と衣服に驚いた地獄谷。
一目で凄い力を持った神と理解して、ついつい地面に正座になった。
「
「にゃ!? 私の神の名を知ってるにゃ!」
「うむ、お前の家系は……鼠に騙された十二支の猫の血筋だろう?」
「にゃ……そこまでわかるって事は……干支の兎かにゃ?」
「おっとっと、話がそれるな……で、救われたいか?」
その言葉に地獄谷は立ち上がり、縁の手を取った!
ワラにすがるもとい、神にすがるように。
「もちろんにゃ! 天空原を救ってほしいにゃ!」
「地獄花木天、俺が君を手助けする理由は、天空原君の片想いがあったからだ」
「にゃ……どういう事にゃ」
「俺は縁の神だからな、良き縁は助けたくなる」
「つ、つまり私には興味が無いって事にゃ、片想いの対象ってだけにゃ」
「ああ、ついでで助ける、解決方法だが強くなれ」
「いや……それ助けるって言わないにゃ、そして投げやりだにゃ」
「まあ神の先輩としてアドバイスをするとだ」
「にゃ?」
「昔、人を殺しまくった俺でも今は教師をしている……あ、もちろん色々とあったぞ?」
縁はそれだけ言うと、ウサミミカチューシャを付けて何時もの姿になった。
その短い言葉でも地獄谷は、ちゃんとその言葉を受け取った。
「なんつーか、悪さなら俺の方が凄かったって言い方は……教師としてダメだな、難しい」
「……取り返せるって事だにゃ、私の人生」
「そうそう正直言って十分な、で、君が真人間とまでいかなくとも、更生すれば巡り巡って天空原は助かる」
「にゃ……確かにそうにゃ」
猫耳をたたんでしょげる地獄谷を、シーナは思いっ切り抱き寄せた。
「よっしゃ、アンタの担任は私だからな? アンタが嫌がっても私は絶対に見捨てない」
「にゃ……どうして私を助けるにゃ? シーナ……先生、今まで色んな人に匙投げられたのに」
「馬鹿野郎、私はちゃんと助けてと言える奴、本当に痛い目見て反省する奴が好きなんだよ、世の中には絶対に謝らない反省もしないやつが居るんだ」
「……にゃ」
なんだかんだと丸く収まる空気になっていたが、結びが縁に話しかけた。
「縁君! 猫娘ちゃんは助けてと言ったが、このバカから言葉を聞くのは骨が折れそうだ、のびちまった」
「流石に場所を移そうか」
「ああ……よーし! 私のクラスとシーナ先生のクラスは第4演習場に移動だ! 特別授業だ!」
結びはそう言うと、天空原を肩に担いで移動を始めた。
縁達も各々反応は違いながらも、結びを追いかけて行く。