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第五話 演目 招き猫の神が惚れた男

 第四演習場に来た面々、結びはちょっと雑に天空原を投げた。

 天空原はまだ気を失っているようだ。


「さて、まだやるか? おーい!」


 結びは気絶している天空原のほほを叩いた。

 天空原は気が付くと、顔だけ結びの方を向く。

 どうやらもう身体は動かせないようだ。

 青鬼の様に変換していた身体も、徐々に元に戻っていっている様だ。


「て、てめぇ! 何が目的だ!」

「は? 目的? お前が世の中舐めてるからだよ」

「どこがだ!」

「あのな、世の中には私……と同じ位強い奴が居るかもしれない」

「それがどうした!」

「いやいやお前さ、あの猫娘……いや、地獄谷をずっと1人で守っていくのか? お前からはその覚悟を感じたんだが?」

「そうだ! お、俺と同じ境遇だったからだ!」

「ほう?」

「俺は親に捨てられた! 大人は信用ならねぇ!」

「ふむ、お前が成人してもそうなるのか? いや、そもそもお前は勘違いをしている」

「何をだ!」

「……なるほど、お前の両親は双方不倫で蒸発、対して地獄谷は自身の振る舞いで勘当だ、違うだろ」

「なっ!?」


 結びにこの程度は容易い、これくらいで驚いている天空原はまだまだという事だ。

 相手の反応を無視して話を続ける結びだった、その目は先程よりは優しい。


「で、話を戻してさ、お前はずっと地獄谷を守っていくんだろ?」

「そうだ! これはやけでもなく! 人を殺めてしまった時の誓いだ!」

「そうか、だったらこの授業にも意味はある」

「これが授業!? ふざけんな! 一方的な殺戮行為だ!」

「授業だろ、何回でも言ってやる、私位の強さの敵を相手にしたらどうするんだ? 守れるのか? 今、この状況を地獄谷が合うかもしれないんだぞ? わかるか? 考えろ」

「!?」


 やっと天空原は理解をした、これがもしやり直しの効かない殺し合いだったら。

 とっくの昔に死んでいる、そして、死んだらそれで自分の人生が終わり。

 徐々に死の現実味が天空原を襲ってきた。


「私はさっきからそれを言っている、だから私はお前をボコボコにしている、現状では地獄谷は守れないよな? 授業でよかったな?」

「そ、そんな! 俺は強いんだ! あれ? 俺ってそんなに……強かったか?」


 完全に猫耳男子で戻った天空原、だがまだ混乱しているようだ。

 自分の強さの過信、これが禁術の対価なのだろうか?

 結びはそんな事を考えながら、天空原をジッと見ていた。


「お、禁術を使えなくなってきて、冷静になってきたか、良かった良かった、酷い対価もなくて」

「くそ! 俺は1人で! 1人で戦い続けると決めたのに!」

「若いねー……だったら私みたいに、生まれてから成人するまでの時間……今みたいな戦いをずっとすれば、私みたいになれるよ?」

「……仮にやったとして、誰かその間地獄谷を守るんだ」

「お、やっぱり冷静になった分話が通じるね」

「……複雑だ、メタメタにされたのに……正直言って感謝しかない」

「ふむ、おそらくだけど、アンタのその禁術は力と引き換えに冷静さを無くすタイプ? 斬銀君と同じ系統かと……相談してみるか」


 ブツブツと独り言を言う結び、倒れていた天空原は身体を起こした。

 そして八つ当たりをするように、地面を思いっ切り叩く!


「ち……畜生! 結局は! 結局は大人を頼る事になった! 俺は頼りたくなかった!」

「ほれほれ落ち着いて、てかいやいや大人ってか他人だろ?」

「……すみません」

「でな? 何で1人で何でもするのさ、私の流派でもないのに」

「……今考えたら何でそんな強いんだ? わけわからん」

「ん? 私の流派は恋人や家族を、五体満足で1人で守る流派……大切な人の為に世界に牙を向く、名を界牙流、私はその四代目だ」


 結びは絶対に敵には負けない、そんな顔をして天空原を見た。

 冷静になった天空原は、諦めた様に力なく笑う。


「はは……今になってわかる、俺では絶対に勝てない」

「ん? 私に勝つ必要は無いだろ? お前の目的は?」

「……地獄谷を守る事」

「うんうん、目的はそれだよな? 私は素直に頭を下げる奴には優しいぞ?」


 天空原はその言葉を聞いて、ボロボロの姿で立ち上がった。

 そして結びに対して、深々とお辞儀をしたのだ。


「……お願いします先生! この俺を強くしてください!」

「よしよし、怪我だけは治してやる」


 結びし指を鳴らした、すると怪我は元に戻った。

 だが天空原はその場に倒れてしまう。


「天空原!」


 倒れた天空原に地獄谷が素早く駆け寄った!


「だ、大丈夫かにゃ!?」

「あ、ああ……文字通り怪我だけ治されたかな、禁術の反動は自分でどうにかしろって事だろう……いや、休めば大丈夫だろうさ」

「……」

「天空原君は俺が見ておこう」


 縁がさっと現れて天空原を連れて離れた、地獄谷は無表情で結びを見る。

 静かに怒っている、そして突然地獄谷から赤いオーラを放った!

 地獄谷から放たれた赤いオーラは、木天蓼もくてんりょうの花の形の様にゆらゆらしている。


「ほう? この気迫は……縁と近しい神か?」

「何か色々とムカついてきたにゃ、原因は私にあるのはわかっている」

「ほう?」

「ここまでボコボコにしなくても……何でここまでしたにゃ?」

「ん? 自分は1人で何でも出来ると思ってたからだ、そのテングの鼻を折っただけだ」

「ムカつくにゃ」

「ふむ」


 結びはどこ吹く風の如く、興味がない様に地獄谷を見ている。

 その態度にあからさまにブチギレる地獄谷だった。


「そのすかした態度が! ムカつくにゃ!」

「ほう? つり橋効果で恋に落ちたか?」

「……確かにそうかもしれない、他人から見たらそうかもしれない」


 離れた場所に居る天空原を見た。

 ぐったりとしてして、石田薬味が身体を見ていた。

 怒り狂った猫の様に、地獄谷は歯をむき出しにして結びを見る! 


「私に恨み言を言わない……いい男が! ここまでされてるのを見て! 黙ってられる! 縁や絆を呼ぶ招き猫の一族じゃないにゃ!」


 木天蓼の赤いオーラは、炎の――いや、地獄の業火の如く荒ぶっていた。


「惚れてしまった男の為に! ちょっとひっぱたかれろにゃ!」

「遅いぞ?」


 地獄谷は単純なひっかき攻撃、もちろん結びにそんな攻撃は効かない。

 結びは余裕の表情で、蹴りで反撃をしたもちろん――

 地獄谷には当たらなかった、むしろいつの間にか結びの背後に居た。


「何!?」

「にゃははははは! ひっぱたくのは無理そうだにゃ! ベロベロバーだにゃ?」

「私の本気を避けた? これは舐めたらダメだね」


 結びは笑った、久しぶりの『強敵』に合えたことに。

 その狂った笑顔を見ても地獄谷は冷静に一言言った。


「あ、先生待つにゃ、ちゃんとルールは作るにゃ」

「ほう……確かに、怒り狂ってる割には冷静だな?」

「何としても勝つためにゃ、試合でね」

「面白い、のった!」


 そこから2人で話し合いが始まる。

 縁達他の面々、というより生徒達はざわざわしていた。

 結びの攻撃を避けたという事実、これにざわざわしていたのだ。

 もちろん縁もシーナも驚いている、結びの攻撃を避けた生徒の素質に。

 この2人も地獄谷の教育方針を軽く相談するのだった。

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