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第二話 幕開き 同じとは言われたくない

 縁と結びは桜野学園の職員室に居た。

 今日は生徒達はお休み、だが先生達は仕事がある。

 縁達は自分達の生徒のレポートを読み、感想やアドバイスを書いていた。


「今日も先生のお仕事だね~」

「うん、それが当たり前な――」


 縁は自分のカミホンを素早く確認した、何かを受信したようだ。


「結びさん、地獄谷さんと天空原君が危険だ」

「お、んじゃそっちを片付けましょうか、先に行ってる」


 結びは地獄谷達の所へと向かう、自分の生徒達の気配察知は簡単だ。

 そして素早く駆けつける事も出来る。

 だが、いくら生徒でも毎回毎回助ける訳ではない。

 実戦こそ最高の経験だからだ、これは生徒達に伝えている。

 とは言えこのさじ加減は難しいだろう、一歩間違えれば取り返しのつかない事となる。


「ありゃ、私が駆け付けてくる前に一本槍が居たね~」

「お久しぶりです結び先生」

「ふむ……」


 結びは周りを確認した、買い物袋が破れて中身が散乱している。

 地獄谷が息があがっていて声を出せないようだ。

 つまりは逃げ回っていたという事。

 そして天空原は怪我をしている、禁術の青鬼を使い地獄谷を守る様に立っている。

 おそらくは結びが居る事に気付いてはいない、彼女を守る事だけに集中しているようだ。


 そして一本槍は余裕の表情をしていて、まだ本気も出していないようだ。

 敵は虎の亜人、結びが来ても顔色を変えなかった、つまりは自信があるのだろう。

 結びは現状を簡単に口にした。


「2人のデートを邪魔する奴らが現れて、一本槍がまたまた通りかかったって感じ?」

「ええ、まさか街中で襲撃してくる神が居るだなんて、先程地獄谷さんのカミホンが壊されました」

「なるほど、カミホンが壊れたから縁君に連絡が来たと……ふむ、カミホンが壊れないと助けが呼べなかったと」

「はい、相手は神なので色々と妨害してきましたね」


 結びと一本槍の会話にやっと天空原が気付いた。

 そしてその場に膝を付く、身体に相当な負担がかかったのだろう。

 助かったと安堵した天空原を見た敵は、高らかに笑い出した。


「ぶはははははは! 何だ何だ!? せっかく弱い者いじめをしていたのによ!? 地獄谷に落とされた猫がどんなもんかと期待し――」

「幸せ者だね~」

「あん?」


 いつの間にか縁が天空原達の近くに立っていた。

 鞄から薬箱を天空原の近くに置き、地獄谷の近くにはペットボトルの飲み物を置いた。

 そのペットボトルの飲料のラベルには、神の疲労にこれ一本と書かれていた。


「大丈夫か? 天空原君」

「先生達の授業が無かったら危なかったです」

「よく耐えた、地獄谷さんも無事でよかった」

「にゃ……私は逃げ続けただけ、一本槍……さんに助けてもらったにゃ」


 地獄谷は申し訳なさそうに一本槍を見た。

 自分のした事を考えると一本槍に恨まれても仕方ない。

 地獄谷は耳と顔もこれ以上ないくらい申し訳なさそうにしている。


「私は……酷い事したのに助けてもらったにゃ」

「さっきも言いましたが僕は縁先生の生徒です、人の幸せを壊してまで自分の恨み言を言うつもりはありません」

「……にゃ」

「そして本気で反省している人に追い打ちをかける様な事をしたら、我が師が化けてでるかもしれません、人様の歩みを止める暇があるなら歩けと」


 流派回歴、それは名の通り歩く意味を持つ、誰かを恨むという事は足を止めるという事になる。

 復讐に囚われ過ぎては進めない、他人の足を引っ張る暇があるなら自身の為に歩いた方がいい。


「つまり誰が何と言おうと僕はは貴女を許します」

「にゃ」

「相手は神です、後は縁先生に任せましょう」

「縁……? ああ! 妹の為とかいって人間界で暴れた神か! そのウサミミカチューシャとジャージで思い出したぜ!」


 相変わらず虎の神は笑っている、これだけでもうわかる。

 相手は今天狗になっている、言うなれば自分よりも弱い者としか戦ってこなかったのだろう。

 縁や結びを見ても危機感を感じていないのは、声や態度に出ていて絶対に勝てると思っている。

 縁を嘲笑う様に話し出した、だがそれは身の丈に合わない選択肢の始まりだった。


「知ってるぜ? 数多の命を葬った神様だ、俺と同じねーか」

「虎の神様や、縁君が君とどう一緒なのさ?」

「あ? そりゃ自分の目的の為に力を見せた神だろ」

「なるほどなるほど、君の目的は?」

「ああ? ストレス発散以外にねーだろ!」

「あらら、シンプル」


 ストレス発散、その言葉で縁を怒らせるには――いや、ブチギレさせた。


「つまりお前は……自分の私利私欲の為に……地獄谷さんの家を壊した、そしてその行為と……同じだと……?」

「にゃ!? コイツが犯人かにゃ!?」


 地獄谷は驚きと共に虎の神を睨んだ、だが相手は相も変わらず笑っている。

 その態度が縁を更に怒り狂わせた、縁相手に縁の象徴でもある家を破壊した。

 これはもう我慢出来ない縁だった。

 そしてこの時、ウサミミカチューシャにひびが入っていた。


「……昔の自分を見ているようでイライラする……自分は正しく誰にも迷惑をかけてない、コイツからはそれを感じる」

「縁君?」


 違和感を感じた結びが近寄ろうとした時――


「妹を守ったあの戦いが……お前と……同じだと?」


 ウサミミカチューシャが完全に壊れた、何時もの真っ白な神様モードではなかった。

 かと言って昔、言わば結びと恋人になる前の返り血の様な姿でもない。

 縁の服装は白をベースに黒い色で模様が描かれている和服。

 縁は虎の神を見て笑っていた、これからお前を幸せにしてやる、そんな笑顔だ。

 それまで笑っていた虎の神は笑っていなかった、信じられないモノを見ている目をしていた。


「なっ!」


 突然縁を崇めるかの様に急に地面に這いつくばった虎の神。

 何かの力で強制的に土下座の形になったのだろう。

 そしてこの場面を見ている者達は動けなかった、結びですら。

 つまり恋人でも近寄れない圧を放っていたのだ。


「俺は縁起身丈白兎神縁えんぎみのたけしろうさぎのかみえにし虎毘沙好天とらびしゃこうてん、俺は幸せを司る神だ、お前を幸せにしてやろう」


 縁は地面に這いつくばっている好天の肩を優しく叩いた。

 身の丈に合わない選択肢をした者の末路は言うまでもない。


「好天よ、お前の願いは叶えてやる、弱い者いじめが好きなんだな? だったら俺をいじめるといい……毘沙門天様に仕えている虎毘沙の一族、ならば俺より位は高いだろう?」

「……!?」

「ふむ、お前の一族を巻き――」


 縁は突然、複数人の虎の亜人達に武器を突き付けられていた。

 そして年老いた虎の亜人と、その隣には女性の付き人の虎の亜人が居る。

 年老いた虎の亜人には威厳があり、好天の顔に似ていておそらくは親族なのだろう。


「おやお久しぶりです、虎毘沙あらし様、お孫様にとてもいい教育をしていますね」

「縁殿、今更の謝罪をしても遅いのは解っているが、怒りを沈めていただけないか」


 縁はニコニコとして威圧感を放つのを止めたが……姿はそのままだった。

 そして深いため息と共に震えている好天を見下ろしている。

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