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第二話 演目 やっと君のダメな所を見た

 好天こうてんを見下ろしている縁は呆れて何も言えない顔をした。

 好天の祖父の嵐は頭を下げていた、それも見た縁は更にため息をする。


「上位の神に頭を下げられたら……許すしかないじゃないですか、ああ……これ俺の母親が他の神に昔言われてたな」


 縁も絆を守る戦いで両親、特に母親は神だからこそ色々と謝り歩いたのだろう。

 人の世にも関係性があるように神にももちろんある。

 例えば縁の影響で信者が減ってしまった、信仰心が得られない。

 だが悪い事をしない人間は居ない、縁も半分は人間なのだ。


「で嵐様、お孫さんは……俺が昔しやった事を事を同じと言ったんですよ、俺は全身全霊で妹を守ったんだ、守らなゃ間違いなく人の世の者達に殺されていた、あの時なりの覚悟を持って人類と殺し合いをしたんだ」


 縁と好天の違いは覚悟の差だ、どんな事が起ころうとも妹を守ろうとした兄。

 対して好天は神の力で弱い者いじめをしていた、それを『同じ』と言われれば腹も立つ。 


「同じって事はお前も覚悟を持って弱者いじめてたんだよな?」


 縁は震えて顔も合わせない好天の肩を手を置いた。

 今になって好天は自分が誰を相手にしているかわかったのだ。

 苦労もせず巨大な力を持った神、おそらくは今までどうにか出来ていた。

 だがまさに身の丈に合わない選択肢のツケが今襲い掛かってくる。


「よかったなおじいちゃんが偉い神様で、許してやる……また好きに弱い者いじめでもするがいいさ、今度は相手を選べよ?」

「貴様! いくらなんでもその物言――」

「やめろ!」


 嵐の隣に居た側近が異を唱えると同時に、縁は敵の首を鷲掴みにしようとした。

 それを結びに手首を掴まれ止められた、縁は今まで我慢していたモノを吐き出す様に言った。

 縁を囲っていた嵐の部下は縁の素早さに驚いているようだった。


「毘沙門天様に仕えていたいた嵐様が頭を下げたんだ、小言の一つで許そうと思ったが、そうか……嫌か?」

「ほらほら縁君そこまでにしてあげなさい? 今回で言えば地獄谷のご両親が許すかじゃない?」

「……ああ、そうだな、俺は部外者と言えば部外者か……いや、地獄谷さん達に恨みを晴らしてと――」

「だとしても落ち着いて? 怒る時は冷静にね?」

「あ、ああ……すまない」


 縁は先生という立場、そして地獄谷の家が壊された時の約束。

 それらで正義の刃を振れる立場には居たのだが、結びのいう事はもっともだ。

 感情で声優の刃を振るうと当人は気持ちいいだろうが、傍から見れば滑稽こっけいだ。

 時と場合もあるだろうが、少なくとも結びは自分の旦那がイキリ散らすのを見てられないのだろう。


「あら、意外と冷静ね」

「もちろんだ、八つ当たりは違うだろ?」

「そうそう落ち着いてね」


 結びは両手で縁の手を両手でおおった、その時優しい光が溢れる。

 縁の着ていた和服のの黒い模様、それが白色の線の束に拘束されている様な物になった。


「うお!? なんか変わった!?」

「ありがとう、神を変えるのは信仰心だ」

「え? 前も言ったけどさ、私が好きなのは縁君であって神様じゃないから」

「切っても切れないんだよなぁ」

「言い方よ言い方」

「……ふむ……お、これから夫婦としてやっていくんだ、何か悪い事をした時は言ってくれ」

「ほっほっほ、それはお互い様だね~」


 急にイチャイチャしだした2人に、ツッコミを入れれる者はこの場には居ない。


「でも縁君にしては珍しいね」

「この姿は普段使わない負の信仰心も使うからな、少々制御出来なかった」

「ならちゃんと使いこなさないと、力は制御出来るからカッコイイんだよ?」

「……確かに、毎度毎度こんな言い回しだと……君に嫌われてしまうな」

「そうそう、ほら側近さんに謝って」

「すみませんでした、暴力に訴える様な事をしてしまい」

「失礼しました縁様、貴方様の怒りはごもっともです」

「縁殿、孫の不適切な発言と我々の教育が至らぬばかりに……」

「謝罪は地獄谷の一族にお願いいたします」

「確かにそうですな」


 嵐は色々と困惑している部下に指示を出す。

 困惑するのは当たり前だろう、ブチギレてた相手がいきなりイチャイチャしだせば。


「お前達は好天こうてんを連れていけ」


 嵐の部下は好天を拘束するように捕まえて消えた。


総烈そうれつ……今回はこちらが悪いんだ多少のヤジは大目に見ろよ?」

「申し訳ございません、あらし様」

「総烈さんすみません、旦那には後でちゃんといっておきますので」

「いえ、こちらこそ申し訳ございません奥様」

「奥様……ふっへっへっへ……」


 総烈は笑っている結びを見て首をかしげていた、何かおかしな事を言ったのかと。

 結びは上機嫌で一本槍達を見た後に縁の方を向いた。


「よし、天空原と一本槍は私と学園に帰るよ、神様達だけの方がいいでしょ?」

「ああ」

「私が居なくても大丈夫?」

「大丈夫だ」

「んじゃね」


 結びは風と共に消えた、一本槍と天空原も消えている。

 地獄谷は心ここにあらずの様に縁を見ていた。 


「地獄谷さん、これから海渡様の所に行くよ」

「にゃ! わ、わわかったにゃ」

「落ち着いて」

「落ち着ける訳ないにゃ、先生と居ると感情のジェットコースターだにゃ」

「そう? まあ文句は今度……お、移動する前に」

「にゃ?」


 縁は散乱している紙袋に近寄った。

 中に入っていたのは女性ものの服、おそらくは地獄谷のだろう。

 そしてこれは2人がデートの最中に買ったものであろう。

 そして縁は良き縁を守る神、ならばやる事は一つ。


「ほい、元に戻った」


 縁はちょちょいのちょいと破れた服も紙袋も元に戻した。

 そして紙袋を地獄谷は受け取ると、嬉しそうな顔をする。


「にゃ、先生ありがとうございます」 

「失礼お嬢さん、謝罪が遅れてしまった、私は虎毘沙嵐、我が一族は毘沙門天様にお仕えする者、孫の所業深く謝罪します」

「ああ! い、いえ! 私にゃはんだ……父親にお話は通してくださいにゃ!」


 いきなり上位の神に話しかけられて慌てる地獄谷。

 父と話をしてくれと言うのが精一杯なのが伝わってくる。

 上位の神と会話もした事無い地獄谷にとっては当たり前の混乱だ。


「では行きましょうか、虎毘沙様」

「うむ、頼んだぞ縁」


 こうして縁達は海渡が収めている神の国へと向かうのだった。

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